00.交わした約束
静かな、静かな場所だった。
床には粉々に砕けた硝子が散らばっていて、その上に二つの影が映っている。二人に世界で、見守るものは青白い大きな月だけだった。
少年の前で、少女は焦燥感に駆られていた。再び問うことができず、口を開けては声にならない声を上げ、再び閉じるのを繰り返す。
一体、どれほどの時間をこうしていただろうか。一分なのか、一時間なのか。わからなくなるほど重くて長い時間を過ごしていたのだ。いつの間にか月は二人の頭上まで登っていて、大きな瞳を向けてはあざ笑うかのように光量を強める。
少女は瞳を右から左へと泳がせ、ようやく意を決すると桃色に色づく小さな唇から震えた声を絞り出す。
「ほんとうに、叶えてくれるの?」
先ほどの少年の質問に対する問いだった。
少年は、願いをかなえてやると、そう言ったのだ。
高鳴る胸を押さえながら少年を見つめる。答えを急かすつもりはなかったが、まっすぐな目がいつの間にか答えを求めていたらしい。少女を見つめ返した少年はにっと口の端をつり上げた。
「あぁ。約束だ。俺は嘘はつかない」
一歩前に踏み出し、縮こまる少女の手を取る。白さと相まって、温度もまた雪のように冷たい手だった。
ピリリと肌を刺す風が、少女の長く伸びた淡く光る髪を揺らす。
「必ずお前を、────」
少女は嬉しそうに微笑んだ。