1話
気が付くと俺はよく晴れた空の下にいた。
青くどこまでも続く天井に悠然と泳ぐ白い綿雲。
地上には青々と生い茂る森、その向こうには大きな町があるようだ。
そう、それほどに遠くまで景色が見下ろせるほどに……
見下ろせるほどに――――
――――上空
(どおおおおおおおおおお!!!!!)
一体何がどうなれば「目を覚ました時にはスカイダイビングが始まっていた」なんて状態が出来上がるんだ。パニックになった俺はやみくもに手足をばたつかせる。
途端、猛烈な違和感。原因は全身を動かしたからである。
視界に入った腕が、いや全身が赤い。衣服ではない、肌が真っ赤なのである。大体衣服なんて着ていなかった。
身体の割に短い四肢。そこから伸びる4本の指。果ては尻から尾が生えている。
ペタペタと顔を触ってみて、ついに確信した。
トカゲだ。俺の身体はトカゲになっていた。全身の赤いトカゲなんて聞いたことはなかったが、少なくともこの身は最早哺乳類ヒト科ではなく、両生類や爬虫類のそれの形をしていた。
非日常すぎる展開に一瞬青ざめるが、今はそれ以上に直接的な脅威が容赦なく迫ってきている。
このままじゃ墜落してしまう。しかしパラシュートをはじめ頼りになるものも掴まるものもない。溺れるよりもまずいうえに藁さえない。
あまりにどうしようもなさ過ぎて悲鳴を上げることしかできないが、プキープキーと奇声になるばかりで、絶望感は増すばかりだ。
いよいよどうしようもないと諦めかけたとき、誰かが後ろから俺をぎゅっと抱きしめた。
「@&%$#? #&$%@$&@!」
状況の掴めない俺にかけられた声は、何を言っているのかはさっぱりだったが、とてもやさしい、女の子の声だった。
「#@%$@%&!」
自信たっぷりに何か言っている。何とかなるのかもしれない。
「……a」
(え?)
「@#%$@%&$☆」
(おい今絶対何か諦めただろ! 明るい声で諦めただろ!)
てへ☆みたいなニュアンスだけはわかったぞ!
そうこうしているうちに地上はどんどん速度を上げながら迫ってくる。
「&#%$@%!」
これは死んだ、と思った途端視界が暗転した。