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巻藁舟にいざなわれ  作者: hatch
第1章 2047年から旅が始まる
9/16

第7話 富士子無双

なんとか第7話を書き終えました。今後は週2回の投稿を目指していきます。

 富士子無双


side:富士子


 何年ぶりかな、こんなに動けるのは。富士子は歩きながら思った。ただ歩く、それだけでそう思った。今からまたあの子に乗る。嬉しい、楽しい。ああ、まだ名前をつけていなかったっけ、うん、太郎と花子、いえ、またあの人と子供ができる、だったら太郎や次郎はとっておかないとまずいよね。うん、六郎と花子にしよう。ふふ、六郎の名前を聞いたらきっと安兵衞は意味に気がつくわ、だけど、安兵衞、あなたこそ、ここでいい人を見つけて自分の子供を持つべきよ。うん、安兵衞の子供、それも楽しみ。三年ぐらい順調にいったら、ご隠居さんに頼めばいい人紹介してくれるわね。


 さあ、あなたの名前は「六郎」。呼びかけながら六郎にほおずりしたり、鼻を合わせたりする。長く、豊かなたてがみを指で梳き、そのかすかに甘い匂いを楽しむ。


 あなたの名前は「花子」。そう呼びかけながら、六郎と同じように花子もかまってやる。うん、この子も大丈夫。素直でいい子。


 じゃあ、こんな風に膝を高く上げて歩く。そうそう、そうやって気取って歩くの。これはね「パッサージュ」と言うの。 六郎と花子に教えながら自分も彼らの横について行きながら一緒に行進をする。


 次はちょっと難しいわ。前に行かずその場で膝を高く上げて足踏み、こんな風にね。


 そう、上手よ六郎。花子はちょっと前に動いちゃうわよ。頑張って、その場で足踏み。うん、花子それでいいわ。これを「ピアッフェ」て言うの。


 はい、じゃあしばらく好きに歩いていて、私は私の準備があるから。

 

 まずはバンダナで髪の元を縛りポニーテールにする。そしては助次郎さんに声をかけると、用意してくれていた胸当てをつける。最後に私の弓と矢を持ってきてくれた。頼んでいたように矢には鏃がなく、白い布を巻いて先は丸くなっている。草原の友の称号のおかげで弓の引き方が分かる。六分ほどの力で弓を引き、10メートル先の立木に向かって弓を放つ。うん、これなら大丈夫。少なくとも、あさっての方に飛ぶことはないわ。念のために力の加減を確かめながら、用意してもらった4本全てを立木に向かって射た。助次郎さんがすかさず射た矢をとってきてくれる。


 あっ、そうだ方向転換を教えなきゃあ、危ない危ない。後ろ足を軸にして、前足で回って逆を向く。おや、これは花子の方が上手ね。 はい大丈夫、六郎だって間違ってはいないよ。これはね、ピルーエットていうの。


 安二郎さんが六郎の手綱を引いてくれる。安三郎さんも六郎たちに慣れたようね。六郎の後に花子が続く。


 いくつかの曲輪を通り、大手門の前まで来た。言継卿、ご隠居さん、弾正忠さん、五三郎君に、五郎左衛門さん、他にも何人かの武士さんたちがいた。

 ご隠居さんが弾正忠さんに言った。

「どうかな、せがれ殿。この二頭の他に同じ種類の子馬のつがいが二頭、そしてこれより一回り大きい白い馬がつがいでおる。これらを育て、更に増やす。そんな『牧場』を発知たちがつくる。弾正忠家にとって、今すぐ目に見える利があろう?」

「分かった、親父殿、認めよう。確かに今すぐ目に見える利がある。そして、今は見えないがやがて見えてくる利があるのも、間違いあるまい。」


 どうやら、話がついたようね。取りあえず、水を発知が探すのが最初かな。だけど、それも掘り出すときに騒ぎになりそう。ふふ、それも楽しみ。


 門が開いた。六郎を促して外に出る。門の前に発知と安兵衞、それに吉法師君が待っていた。さすが安兵衞、子供の気持ちを掴むのは達人級。


 あぜ道やそこかしこに沢山の人が、私、六郎、花子を見てざわめいた。ぐるりと見渡して、大きく弓を掲げて振ってみせる。ざわめきが更に高まる。上を見ると、青い空に白い雲。なんとなく、ああ、私たち三人はきっと向こうの世界では死んだんだなと思った。80才の老人三人がゲーム機を囲んで死んでいるなんて、シュールな風景よね。子供たちや孫たちも呆れているかもしれない。でも、きっと私たちらしいとみんな笑ってくれる。


 みんな、私たち三人は死んでからもこうして楽しんでいるわ、あなたたちも楽しんで生きて頂戴。六郎に花子、行きましょう。まずはパッサージュから。


 パッサージュで、大手門から道の両脇にある弓の的まで来たところで、六郎にピアッフェさせる。弓を構えまずは左の的に射る構えをしてみせる。うん、この足踏みの揺れの間でも弓を構えられる。歓声が上がるが、今じゃあないのと弓を戻すと、落胆の声が上がる。 六郎、向こうまで駆け足。後ろから、花子が続いてくる。大手門から100メートルほどにあるちょっとした空き地で六郎の足を止めて、ピルーエットで大手門の方に向き直る。


 花子はここで待っていて。六郎、大手門まで駆け足。軽快な六郎の走りを楽しむまもなく、先ほどとは反対側の的に向かって弓を射る。うわぁ、当たったよ。歓声が上がる。


 六郎が大手門に着いたところで、今度は右手で手綱を引いて小さく巻乗りで六郎に向きを変えさせた。六郎の上で弓を振り、歓声に応え、花子を呼ぶ。さあ、今度は花子の番。


 残念ながら今度は外した。落胆の声が上がる。うん、じゃあ次はあれで行こう。大手門に戻り、発知に弓と矢筒を渡し、準備ができるのを待つ。発知と安兵衞、安二郎さんと藤九郎さんが組になって、それぞれ二本の竹の柱を大手道脇の田んぼの端に立てる。そして、それぞれに竹を渡せば、二組の即席の障害ができる。高さが1メートル半ほど。障害の間隔は20メートルほど。


 花子、名誉挽回よ。花子は勇んで駆けだし、軽やかに飛んだ。一つ、二つ、向こうについて巻乗りでぐるぐると回る。うん、歓声が心地よい。大手門に向き直り腕を振る。


 今度は手綱を放す。お願いよ花子、できるだけ軽やかに優雅に着地してよ。そう語りかけて走らせる。花子が飛んだときに私は前傾姿勢をとり、腕を後ろに伸ばす。うん、できた。次も同じように飛ぶ。歓声が凄い。これ、前に動画で見たことがあって、一度やってみたかったんだ。


 大手門に着くと、六郎がオレもオレもと、うるさい。だーめ、とたしなめる。あなたにあんなに優雅に着地できないでしょう。六郎がしゅんとする。大丈夫、誰にだって得意不得意があるの。高く遠くに飛ぶのなら花子よりあなたが得意、そうでしょうと慰める。


 花子から降りると、吉法師君が目をきらきらさせて寄ってきた。

 興奮して早口の上に舌足らずで、何を言っているのかさっぱり分からない。取りあえず花子から降りて話を聞いてみた。うん、駄目やっぱり分からない。安兵衞に聞いてみる。どうやら、一緒に馬に乗りたいらしい。


 安二郎さんと籐九郎さんに障害の竹を外してもらった。吉法師君は不満そうだが、飛越は諦めてもらうしかない。私が六郎に乗り、発知が吉法師君を抱き上げ、私の前に乗せた。


 まずは常歩(なみあし)、うん、さすが六郎、揺らさないように歩く。だけど、吉法師君は揺れもしないのに自分で揺れるように腰を上下させる。ちょっといたずら気分で六郎にパッサージュさせると、どうやらカウンター気味に鞍がお尻に当たったらしい。ちょっとぐらりとしたが、吉法師君は持ちこたえた。さすが未来の偉人、根性あるね。


 また、常歩に戻して反対側にたどり着いたところでピルーエットで、向きを変えさせた。

 常歩から速歩(はやあし)に変えて、大手門に戻ってきて、これで終了。吉法師君が振り向いて文句を言いたそうにしたが、また今度、と言って発知に頼んで吉法師君には降りてもらう。私も六郎から降りる。吉法師君はお尻をさすっている。やっぱり、さっきのであざぐらいはできたかもしれない。


 弾正忠さんが前に出て、集まっている人たちに呼びかけた。

「皆の者、ここに居る三人は異国から来た、弾正忠家の客人である。彼らは異国よりこの馬を初めとして、様々な物を持ってきてくれた。まずは、今見たような馬の他にも4頭の馬がおる。よって、これらの馬を育て、子を産ませる場、牧場をこの那古野城の南、古渡に作る。ついては相応の報酬を与えるので、我こそはという者は10日後の朝、古渡に集まれ。人数は200人までとする。さて発知よ、何かあるかな?」


「某は五島(ごとう)発知、集まってくれた人には某から昼には食事を出すのでよろしく頼みたい。」


「私は発知の妻の富士子。昼の食事は私が作るのでよろしく。」


 最後は安兵衞ね、そう思っていたら、安兵衞がなにやら笑っている。何か企んでるわ。


 安兵衞は大きく足を開き、両手を水平に広げた。そうして吉法師君に向かって叫んだ。


「織田弾正忠家、嫡男、吉法師殿、この字は何か?」


「だい?」吉法師君がなんとか答える。


 すると、安兵衞は足を揃え、身をかがめ、脇を締めて縮こまった。


「これはどうか?」


「しょう、ちいさいの小じゃ!」今度は満面の笑みを浮かべて、吉法師君が答えた。


「あっはっは、この国の文字は面白いの。物の形が字になるとは実に面白い。さて、ワシは大きいものが好きよ。よって、我が名は大地(だいち)安兵衞。どうじゃ、吉法師殿、大きかろう。」


「うん、やすべえはおおきい。なまえにふさわしくおおきい。」


 二人がそうして笑っていると、見物人たちの中にも笑っている声が起こり始め、やがて笑いが広がっていく。


 あーあ、最後は全部、安兵衞がこの場の人気をとっちゃった。子供だけじゃあなく、人垂らしでもあるんだよね、安兵衞は。


参考文献

ウィキペディア様: 歩法(馬術)

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