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巻藁舟にいざなわれ  作者: hatch
第1章 2047年から旅が始まる
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第3話 密談

 密談


 発知、富士子、安兵衛の三人は、与えられた信定の隠居所の一室で眠っていた。いや、そう思わせながら三人はゲーム内にあったパーティの念話で活発に議論していた。

「それで、富士子、ご隠居殿の病気は何だった?」

「淡水魚に寄生する肝吸虫(かんきゅうちゅう)の肝ジストマ症、これによる肝硬変が最終的な死因のはず。私の見た範囲では肝硬変はまだ進んでないわ。肝吸虫を駆除すれば大丈夫。他にも回虫やら何やらもいるわね。というか、今日あった人全員が少なくとも回虫はいるわ。」

「やっぱりか。ご隠居殿は史実では来年の11月23日に亡くなっている。なんとか寿命を延ばすことができるか。」

「大丈夫。大体まだ、40代前半よ。あんなに老けて見えるのが私からすれば信じられないわ。さっき食べさせたコンペイトウの駆除薬で肝吸虫や回虫を駆除して、栄養状態を回復すれば、寿命を20年は延ばすことができるはずよ。あのコンペイトウは糖分以外の栄養も豊富だし、3ヶ月も飲めば若返ったようになるはず。」

「しかし、おまえら歴史を変えることに躊躇なさ過ぎないか?」

 安兵衛がいささか呆れたように割り込んだ。

「いいんだ。この世界が俺たちの時代に直結する時代のはずはない。多分、平行世界の一つだろうさ。あるいは、三人が現代でゲーム機の不良で仮死状態になり同じ夢を見ているのかもしれない。だから俺はやりたいようにやる。勿論、魔法万歳な世界を作るつもりもないし、俺たちがこの日本や更には世界全体を支配する気もない。そんな面倒はごめんだ。だが、今の時代の人たちが俺たちの知識や技術をどこまで理解し、それを使って生活を向上できるかを試してみたい。」

「うん、よく分かるけど、なかなか大変よ。」

「例えば?」

「さっき食べた夕食の漬け物、回虫の卵和えよ。」

 発知と安兵衛は飛び起きて、顔を見つめ合った。富士子は平然と寝たままである。

 しばらくして、ようやく二人は身を横たえた。

 安兵衛が富士子に確認した。

「富士子が平然としていると言うことは、俺たちが食べたものは全て無害化したって事だな?」

「勿論。回虫は火を通せばいいけど、塩では死なない。この時代の日本人に漬け物を食うなとはいえないでしょう?」

「ちょっと、甘く見ていたな。回虫の駆除は海人草(かいじんそう)を使えばできる。海人草は紀伊地方にあるから交易で手に入る、俺の祖父は長崎の五島列島出身にしたから南の島では海人草が豊富で経験上民間薬として知られていたことにすればいいって、簡単に考えていたんだがなあ。」

「いえ、虫下しならミブヨモギの花蕾の方がいいわ。味もましだし、日本で栽培できるし、種も用意してある。ベネチアの医師だとした私の父が作った薬とすれば大丈夫よ。まあ、明日の朝ご隠居様は大量の回虫まみれの大便とご対面するはずだから、ショック療法としては十分よ。」

「おい、何気に容赦ないな、富士子。」

 安兵衛が「ナマンダブ、ナマンダブ」と呟いた。明朝のご隠居殿、ご愁傷様である。


「基本的な俺たちのストーリーを確認すると、俺の祖父が五島から明の杭州に渡った。そこで財を築き、今度は父が蘇州からインドに渡り、そこからベネチアに渡った。ベネチアで富士子の父に会い、ポルトガルの船乗りたちの壊血病を知る。そこで、明の知識で治療薬を発明し、ポルトガルで大儲けをする。これの小道具としては大西洋側から分かっている範囲のアメリカ大陸と、空白だらけの太平洋があるあのゲームにあったカンティーノ世界図まがいの『世界地図』でなんとかする。」

「それで、とりあえずはどうする?」

「明日の朝、ご隠居殿に富士子が回虫駆除の種明かしをする。どうせ勘のいいご隠居殿の事だ、富士子を問い詰めるはずだ。富士子は古今東西の医術を、幼い頃から医者だった父親から学んでいてご隠居殿の老け具合からそれを推測したことにする。ついでに、俺の父親から日の本の百姓が人糞を肥料として使っていて、日の本では寄生虫が蔓延していたことを知っていたことにする。」

「なるほどな。」

「それから、ご隠居殿は、何故最初に薬を飲ませることを説明しなかったと富士子を問い詰めるかもしれない。その時は初対面の富士子の言うことをご隠居殿が信じないかもしれないと言えばいい、それに・・・・・」

「それに、どうしたの発知?」富士子が問いかけた。

「なに、孫を見舞いに寄越すだけで、最近顔を見せない跡継ぎの弾正忠(だんじょうのちゅう)殿に同じいたずらをしたくはありませんかと提案するのさ。」

「そいつはひどい」安兵衛が笑い声で答えた。

「なに、悪巧みを一緒にすれば、仲はよくなるさ。それにこう言えば、明日帰るだろう五三郎についていってご隠居さん共々、織田弾正忠殿に会うことができる。ご隠居さんの後ろ盾を得た上で弾正忠殿に会えるメリットは大きい。ついでに今度は弾正忠殿が重臣たちに同じいたずらを仕掛けさせれば、弾正忠殿も悪巧みの仲間になり、信頼も得られる。どっちにしたって悪いことじゃないし、弾正忠殿の領地の農業改革も進めやすくなる。」

「しかし、問題はおれ達があの馬車や六頭ものペルシュロンやフリージアンを連れて、何故ここにこれたかの説明が難しい。」

「そこは開き直りましょう。私たちにも訳が分からないと。」

「それはどうなんだ?無理がありすぎないか?」安兵衞が富士子に反論した。

「だって、事実私たちがここにいる理由は私たちにも分からないでしょう。だったら嘘は少ない方がいいわ。気がついたらあそこにいたとしか言い様がないわ。神隠しか何か、それとも発知のお父さんがとんでもない人という設定でしょう、それなら発知のお父さんが想像もできない方法で私たちをここに送り込んだと思うかもしれないわ。だからこれから私たちがすることの多くは発知のお父さんのせいにすればいいわ。ともかく私たちには訳が分からないで押し通すべきよ。事実、分からないんだから。」

「なるほどな、それで行くか。ところで今の弾正忠殿の居城はどこなんだ?」

「那古野城だ、場所は俺たちの時代の名古屋城と同じだ。津島からだと17キロぐらいで、片道3時間強だな。あ、忘れていたがペルシュロンやフリージアンの問題もあったか。」

「それもあったわね。どうせなら牧場を作って繁殖させたいと持ちかけたら?あの馬は今の日の本の武士からしたら途轍もない価値があるわよ。」

「それもいいな。水田が作れないような場所は熱田台地には多いし、牧場の場所くらいなら選び放題か。」

「熱田台地とは何だ?」

「那古野城から熱田神宮に至る台地だ。後に家康が名古屋城から熱田まで台地の左縁近くに堀川を掘らせて、海運を整備して名古屋の繁栄の基礎を作った。ただ、今の尾張の中心地は清洲になる。弾正忠殿の主君の尾張南4郡守護代、織田信友(のぶとも)とその主君の守護、斯波義統は清洲城にいる。 」

「ややこしいわね。」

「形式的な尾張の№1は斯波義統(し ば よしむね)、№2が尾張南4郡守護代織田信友、№3が尾張北4郡守護代織田信安(のぶやす)だったか、ただし、経済的には弾正忠殿が尾張で一番力がある。」

「ひょっとして、弾正忠殿は経済に理解があるだけに、農業に弱いとかないか?」

「あるかもな。」

「それじゃあ、上総堀(かずさぼり)はどうだ。あれなら、今の時代でも深い井戸が掘れるし、水くみも必要ない。水田は無理でも、小麦、大麦にデンプンの元になる馬鈴薯を大量に作れるだろう?」

「おい、またスコッチを大量生産するつもりじゃないだろうな?」

「いや、大麦の麦芽(ばくが)とデンプンで水飴を作り、それで甘い酒を造れたら売れないか?新しい、大衆に人気が出る安価な甘い酒、古代ギリシア神話いや、『西遊記』の蟠桃の実を搾って作った不老不死の酒、神々の作った神酒は男のロマンじゃないか!!!」

「前半で安価な酒、後半で同じ酒が神々の酒では脈絡がなさ過ぎだろうが、この底なしの呑み助が。」

「まあまあ、酒はほどほどにしても、上総堀で畑作をするのは歓迎よ。小麦、大豆が作れればみそ、醤油が作れるし、麻を育てて、繊維と麻の実もとれる。麻の実からは食用油も取れるしね。後はオリーブの木で食用油を大量に得られるけど時間がかかるわ。漢方薬の元になる薬草の栽培も必要ね。とにかく、米に頼りすぎる今の農業をなんとかしないと小氷河期にある日本から戦をなくすのは無理。弾正忠殿にも、土地の開発に力を入れさせて、三河や美濃にちょっかいを出させるのをできるだけ控えさせるようにしないと。周りが敵ばかりで、肝心の尾張も掌握できないままで内も敵ばかりじゃあ、どうしようもないわよ。よくもまあ、あの状態から史実の信長公は天下統一目前まで行ったわね。」

「うん、それにちょっと科学技術か土魔法でごまかして、めっちゃ深く掘れば上総堀で温泉も期待できるか。おれの父の名は隼人でとんでもない知識を持ち、何をやらかすか分からない人物、俺がその血を引いて山師、安兵衛が鍛冶師、富士子が医者で農業指導者・・・・・」


 三人の悪巧みはその夜、遅くまで続いた。

参考文献

1.youtube  上総堀り~伝統的井戸掘り工法 1/4 https://www.youtube.com/watch?v=53e3OnZfN14&t=391s


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