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イーサンと愉快な仲間たち

作者: ひのうさ


     舞台は建築途中のとある豪邸の中。

     1人の若い男を2人の男が取り囲んでいる。

     その2人の中の1人が、縮こまっている若い男に怒声を浴びせる。


イーサン 「お前、とんでもねえことをしてくれたなッ。誰の指示も待たないで勝手に主柱を組み立て、しかも、失敗したことを誰にも報告もしないだなんて、新人のくせに随分と肝がすわってるじゃねえか、ええッ?」


ジュリアン 「そ、そんなぁ……。で、でもッ、大工長だって言ってたじゃないですか。新人だからって、なんでも教えて貰えるなんて思うなよ、って」


イーサン 「バカやろうッ。だからって、なんの指示も貰わずに、主柱を勝手におっ建てるヤツがいるかッ。(頭を抱えながら)ちくしょう、このままじゃ、仕事だけじゃなく、違約金まで取られる羽目になるんだぞ」


コーディ 「そーだそーだ。仕事を抜き取った大工長にはなにも残らないんだぞ。金も女もなーんにも」


イーサン 「やかましいわッ」


     おちょくるコーディにイーサンがゲンコツをくらわす。

     すると、問題の連絡を受けた、現場監督のデービスが息も絶え絶えに登場する。


イーサン 「あ、デービスさんッ。すいません、このバカが取り返しもつかないヘマをやらかしましてーー」


デービス 「いい、いい。取り敢えずは。起きたことは仕方がないだろう。まずは話を……」


     デービスは気が動転しているのか、どことなく口調が硬い。

     説明を促されたイーサンは、ジュリアンを指差しながらデービスに事情を説明する。

     その間、ジュリアンは恐縮したままだが、時折納得のいかないような表情を見せる。


イーサン 「ですから、さっき連絡をした時に教えた通りで、このバカが勝手に主柱を間違ったまま組み立てて、しかも、そのことを今の今まで黙ってたんですよ」


コーディ 「おかげで大工長は真っ赤っか。職を失って女も抱けず、ただ酒に溺れる毎日を予感して、気持ちは先に酔っぱらってるってわけだ」


イーサン 「お願いだから黙ってくれ。ーーそれで、この主柱を取り替えるのにはかなりの人手が必要で、今動ける奴らでやるなら、あと数日はかかるんです」


デービス 「明日の披露会には……」


イーサン 「無理です」


ジュリアン 「間に合いませんね」


デービス 「……。それでジュリアン、君の言い分は」


コーディ 「デービスの旦那。こんなやつの話なんて聞く必要ーー」


     話を遮ろうとするコーディを、デービスが手で遮る。

     するとジュリアンは、身を乗り出すようにして、デービスに話し始めた。


ジュリアン 「ちょうど、デービスさんがクライアントとの会合で現場にいなかった時のことでーー」


コーディ 「(イーサンに傍白)ねぇ大工長、姑みたいにガミガミいうデービスの旦那と毎日仕事なんてしてみろ。騒ぐことが仕事の赤ん坊だって、旦那と比べりゃ可愛く見えるってもんさ」


イーサン 「(コーディに傍白)はぁ? 気でも動転してんのか? そりゃ、赤ん坊とデービスさんを比べたら赤ん坊の方が可愛いに決まってんだろ」


コーディ 「(イーサンに傍白)ちげえよ、そういうことじゃねえよ。(傍白)これだから冗談の通じない阿呆は。俺も大概だが、おんなじ阿呆でもこんな風には育ちたくねえな。俺を生んでくれたお袋の口に感謝だ」


デービス 「おいコーディ。なに1人でニヤニヤしてるんだ。そんな場合じゃないだろう」


コーディ 「こりゃ失礼。ジュリアン君、お先をお続けになって」


気取った、ふざけた口調でコーディがジュリアンに続きを促す。

イーサンが調子にのるコーディの頭を叩く。



コーディ 「痛ぇ! 俺の頭は木魚じゃねぇんだぞ」


デービス 「コーディ、黙ってろ。ジュリアン、先を」


ジュリアン 「確かその日の昼休みに、大工長から支柱の組立図を渡されたんです」


イーサン 「俺がか?」


ジュリアン 「はい。コーディさん経由で」


コーディ 「(メンバーを指差しながら)俺を経由して、大工長からジュリアンに」


デービス 「確かなのか?」


コーディ 「いえ、いえいえいえ。全く覚えは御座いません」


イーサン 「まてまて、俺だってこいつに伝言を頼んだ覚えなんかないぞ」


ジュリアン 「そういえば、コーディさんは結構酔ってましたからね。記憶がないのも仕方ないとーー」


コーディ 「あ、おい馬鹿ーー」



慌てるコーディ。デービスは顔をしかめる。


デービス 「ーー酔ってた? まさかお前、勤務中に酒でも煽ってたのか?」


コーディ 「いやいや、違うんですよッ。酔ってたって言ってもほんの少しでーー」


デービス 「記憶にないくらい、少しだけ酔ってたのか? なんとも器用なやつだな。その器用さを仕事にも活かしてくれると、とても助かるよ」


コーディ 「ま、任せてくださいッ。さーさ、ジュリアン君。話の続きをしてくれたまえ」


ジュリアン 「えーと、それで、僕はコーディさんに聞いたんです。コーディさん、なんでこの組立図を僕に? って」


デービス 「それで?」


ジュリアン 「どうやら大工長はお前のことを高く見ているようだぞ、とだけ」


イーサン 「まてまてまて、そんなこと言った事も、思ったこともないぞッ」


ジュリアン 「ひ、ひどい」


落ち込むジュリアンの肩をコーディが叩きながら。


コーディ 「いやいや、そんなことないぞ。だって大工長はお前のこと、物理的に高く見てるじゃないか」


     ジュリアンとイーサンがお互いの顔を見合わせる。

     すると、身長が低いイーサンは自然とジュリアンを見上げる形になる。

     イーサン、怒りながらコーディーを追いかける。


イーサン 「テメッ、この野郎ッ。身長の話はするなとあれほどーー」


コーディ 「ひぇー、ちっちぇのにおっかねぇー」


デービス 「おい、そんなことしてる場合じゃないだろ。いわば、私たちの将来がかかってるんだ。もっと真面目になってくれ」


     デービスが割って入る。

     イーサンが仕方なく引き下がる。


デービス 「道化にずっと構っていたら、話は前に進みやしない。ジュリアン」


ジュリアン 「はい。それで、僕はてっきりこの図面は任されたものだと思ってすぐに作業に入ったんです」


     ジュリアンが図面を取り出して、どう組み立てたかを説明する。

     観客にも見えるよう、大きめのものを用意する。




ジュリアン 「本当は4つの同じ大きさの正方形を作らなくちゃいけなかったんですが、なぜか材料であるマッチ棒が余分にあったので、はりきって1つ多く作ってしまったんです」


コーディ 「ん? まてまてまて。マッチ棒が材料?」



コーディが質問するが、他の3人は無視する。


デービス 「1、2、3、4、5……確かに5つあるな」


コーディ 「なんだか嫌な予感がするぞ。適当に1つ引っぺがしたりぶっ壊したりすれば解決するんじゃないですかい?」


イーサン 「そんなことができるならとっくにやってるさ。なんの因果か、2つのマッチ棒しか移動させることができなくなっちまったんだ……。しかも、マッチ棒を重ねたり、正方形の辺以外に使うのは禁止なんだ」


コーディ 「嫌な予感が当たったぞ。これは俺が嫌いな頭の体操クイズってやつだ。なんてご都合主義な因果だ。大工になってこんなことをやるだなんて、一度も聞いたことがないぞ」


デービス 「諦めろコーディー。だけどこれなら少し工夫すれば、なんとか今日中に柱を修復できそうじゃないか? 皆んなそう思うだろ?」


イーサン 「できる気だけはするんですが、これがなかなかな難しくて……」


コーディ 「俺は考えることは嫌いだ。こういうのはデービスの旦那が得意なんじゃないですかい?」


デービス 「俺だって必死に考えてるさ。そうだ、観客の皆様にも一緒に考えてもらおうじゃないか」


コーディ 「そりゃいいや! 俺たちなんかより、よっぽど利口な顔つきをしてらっしゃるからな」


イーサン 「それでは、これから俺たちが数個の答えを出します。皆様は正しいと思った答えで大きな拍手をしてください」


デービス 「それじゃあ早速、誰か思いついた人はいるか?」


イーサン 「それじゃあ俺から」


     イーサン、間違った答えを提示する。




ジュリアン 「あんまり拍手がありませんね」


デービス 「そうだな。確かに4つできてるけど、正方形じゃないからこれは違うな」


ジュリアン 「じゃあ、こんなのはどうですかね」


     ジュリアン、間違った答えを提示する。




デービス 「確かに、正方形が4つあるが大きさが違うからこれも違うな。じゃあ、こんなのはどうだ」


     デービス、間違った答えを提示する。




イーサン 「おぉ。4つ、正方形が同じ大きさで」


ジュリアン 「確かに、これなら条件もクリアしてますね」


コーディ以外、お互いに納得し頷きあう。

コーディだけ答えを見つめて考える。


コーディ 「待て待て、これじゃあ正方形の辺以外に使ってるから違うじゃないか」


コーディに指摘され、一同黙る。


デービス 「悔しいが、確かにそうだな。じゃあコーディ、そういうお前は何か思いついたのか?」


コーディ 「よし、ここで真打ちの登場ってわけですね。まかせてくださいッ」


     コーディ、正解を提示する。





     しかし、周りの3人の顔は晴れない。


コーディ 「どうです? これ、正解でしょう?」


イーサン 「確かに、4つ出来てるが……」


ジュリアン 「なんでしょう、この釈然としない感じは」


コーディ 「ん、なんだなんだ。褒めてくれてもいいんだぞ?」


イーサン 「……」


ジュリアン 「……えーと、その、ありがとうございました、コーディさん」


コーディ 「おう、これくらい朝飯前よ!」


デービス 「……よし、じゃあ早速作業に取り掛かるぞ」


イーサン 「そうですね」


ジュリアン 「行きましょうか」


     デービス、イーサン、ジュリアン退場。

     コーディが引き留めようとする。


コーディ 「お、おいおい。ちょっと待ってくれよッ。もうちょっと感謝してくれてもいいんじゃ無いのか、おーいッ」


しかし3人は気にもせず立ち去る。

     コーディ、1人で立ち尽くす。


コーディ 「こんな幕切れ、いったい誰が納得するっていうんだ」


     デービスの声だけが舞台に響く。


デービス 「そうだ、コーディ。勤務時間中の飲酒の件。後でしっかりと話を聞かせてもらうからなー」


コーディ 「……勘弁してくれよ!」


     幕。


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