裏の裏の裏をかく男達
僕ら3人はある研究室に忍び込んだ。そこである薬を盗むためだ。
そいつを売れば、大金が手に入る。
僕の仲間である明人と孝太は心配そうにこちらを見つめた。
「薬は見つかったか?」
明人が声を低めて、きいてきた。
「ああ、あったよ」
机の引き出しの中から、ビンに入っている小さな薬を取り出し、ポケットに入れる。
「ふははははは」
僕は思わず声をあげて、笑ってしまった。
「どうしたの?」
穏やかな孝太が心配そうにきいてきた。
「お前らにはすまないが、ここで死んでもらう」
隠し持っていた拳銃を僕は取り出した。
「なんだって!」
明人は後ずさりをする。
「この薬は僕のものだ。手伝ってくれてありがとう。大金は独り占めするからな」
そして、引き金を引き、銃口を明人に向ける。
「じゃあな」
発砲した……。
つもりだったが、肝心の弾が出なかった。
「あれ?」
どうしてだ。
すると、明人は不気味な笑みを浮かべて、
「残念だったな。裏をかいてお前の拳銃から弾を抜かせてもらったよ」
と、自慢げに言った。
なに?明人がそんなことを……。
「俺の勝ちだよ。バーカ」
「予測していたのか!」
「ああ、そうだ。申し訳ないが死んでもらうのはお前らのほうだ。俺のズボンのポケットには銃弾が入った拳銃が……」
明人はポケットに手を突っ込む。
「ない!」
明人があせりはじめた。
「バカはお前の方だよ、明人」
ここまでは僕の計算通りなのだ。
「なんだと?」
「裏の裏をかいて、お前が用意した拳銃を盗んでおいた」
これで明人の負けだ。晴れて僕が大金を独り占めできる。
「今度こそサヨナラだ」
明人から盗んだ拳銃をズボンのポケットから取り出す。
そして、発砲しようとしたが、またしても空砲であった。
どうしてだ……。
「お前が俺の拳銃を奪おうとするなんて、お見通しだ」
「まさか!」
「そうさ。裏の裏の裏をかいて、自分の拳銃から弾を抜いておいたのさ」
すべてお見通しということか……。
しかし、まだ負けてない。
「明人。残念だったな。裏の裏の裏の裏をかいて僕はナイフを……」
「残念なのはお前だ。裏の裏の裏の裏の裏をかいてそのナイフをオモチャに変えておいた」
「あの……」
孝太が弱弱しい声で言った。
だが、今は彼にかまっている暇はない。
「裏の裏の裏の裏の裏の裏をかいて、僕には爆弾を……」
「裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏をかいてその爆弾を解除しといて……」
「あの……」
「裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏をかいて!」
「こっちだって、裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏をかいて!」
「あのー!」
孝太が大きな声を出した。
僕と明人は言いあいを終える。互いににらみ合いながら。
……この部屋が静寂に包まれる。
すると、パトカーのサイレン音が聞こえてきた。
ヤバイ。警察だ。
「二人とも」
「なんだ、孝太?」
僕はなんだか嫌な予感がした。
「実はぼくね、裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏をかいて警察なんだ」
そして、僕と明人は同時にこう言った。
「参りました」