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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
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008 初ダンジョン

 今日も午前の授業がつつがなく終わりお昼休み。


 午前中は恭子達は日陰に話しかけることもなく、お互い不干渉を決め込んでいた。達と言うのも、今までクラスメートなんぞに興味が無かったから気付かなかったのか、恭子のパーティーメンバーは全員クラスメートだったのだ。


 向こうも日陰のことなど興味がなかったのか気づいていなかったみたいだ。


 まあ、それはそれとしてだ。問題は向こうがこれから接触してくるかどうかだ。


 日陰は接触してきて欲しくないというのが本音であった。


 めんどくさいし、面と向かって使えないと言ってきた連中と話しても気分が悪いからだ。それに向こうだって気まずくて声をかけたくないはずだ。


 そんな事を考えながら日陰は一人ご飯を食べる。


 今日は一人だ。いつもと同じ一人の食事。我ながら美味しいと絶賛できる料理に舌鼓を打ちながら読みかけの本を読む。


 これは、日陰の悪い癖なのだが物語に熱中してしまうと他のことと並行してやろうとしてしまうのだ。行儀が悪いと分かっていても止められない。


 そう、面白い小説がいけないのだ。罪な小説め。と一人心の中で言い訳じみたことを言いながら箸とページを進める。


 すると、「ぐ~~~~~っ」と後ろから腹の虫の鳴き声が聞こえる。振り向くことはしない。振り向かなくても誰だか分かる。


 そう、腹の虫が暴走しているのは恭子だ。


 飲み物を買いに行くときにチラリと確認したが恭子は昼ご飯を持ってきていないわけではない。昨日と同じくパンがある。


 だが彼女はそれを食べずに主人のいない席の上にあるお弁当箱を凝視していた。言わずもがな日陰のである。


 また、「ぐ~~~~~っ」と腹の虫の声が聞こえる。


「はあ…」


 小さく溜め息をつく日陰。腹の虫と熱視線のせいで食べづらいことこの上ないのだ。


 日陰は本に栞を閉じて弁当箱の蓋を閉め箸も仕舞う。弁当箱を風呂敷に包み本を持って席を立つ。場所を変えるのだ。


 日陰が席を立ち教室から出ていこうとすると「あっ」と声があがる。声の方を見ると恭子と目があった。


 恭子はすぐに目を逸らしたが意識はお弁当にいってるのかチラチラとお弁当を見てる。


 日陰は溜め息を飲み込み止めた足を進める。


 教室から出るまで熱視線は日陰のお弁当に注がれていた。



 

 場所は変わり屋上。


 日陰は屋上でご飯を食べていた。


 本当は屋上は鍵が閉まっているのだが日陰はこの屋上の鍵が壊れていることを知っている。


 これは、ゲームになったときにプレイヤーに備わった技能を使っているのだ。


 プレイヤーは知りたいと思った物をトントンと二回叩くと対象物から対象物の状態やらなにやらを表示したウィンドウが出現するのだ。


 日陰はたまたまドアのウィンドウを見ることができ壊れていることを知ることができたのだ。


 恐らく鍵が壊れていることは日陰しか知らないだろう。日陰だけの秘密の場所。うん、なかなか良いものだ。


 そんな事を考えながら上機嫌でご飯を食べる日陰。が、しかし


「おやおやぁ?こんな所にいたのかね?」


 突然乱入者に秘密の場所は秘密ではなくなった。


「んぐっ!?」


 驚きご飯をのどに詰まらせてしまう日陰。慌てて飲み物を飲もうとするが飲み物がもうすでに終わってしまっていた。


 どうしようかと慌てる日陰。


「あらあら、何やってるのよ」


 そう言うと乱入者は飲み物を日陰に差し出した。


 日陰はそれをひったくるように受け取ると一気に飲み込む。


「っぷはあっ!」


 詰まっていた息を吐く日陰。


「ふふふ、慌てん坊だね君は」


「…驚かさないで下さいよ校長先生…」


 日陰は恨みがましい視線を乱入者の瑞穂へと向けたが、気を取り直して聞いてみた。


「…それで、何か用ですか?」


「ああ。一緒にご飯を食べようと思ってね」


「そうですか。でも遠慮しておきます。今ので最後の一口ですから」


 そう言って日陰は弁当を仕舞うと立ち上がった。


 瑞穂は日陰にジト目を向けると言った。


「つれないね君は…」


「生憎ですが、一人が好きなんです」


 それに何だか瑞穂は胡散臭かった。最初の時に日陰に真実を隠していたからかもしれないが、それだけでもないような気がした。


 一言で言えば怪しいのだ。何が怪しいのかは分からないがすごく怪しい。


「それでは、失礼します」


 日陰はそれだけ言うと屋上を後にした。


 階段を下りながら日陰は考えた。


 今日、屋上にいることがバレてしまったので明日からはどこで食べようか。


 教室は論外、屋上も瑞穂が来るからダメ、図書室は飲食禁止、中庭はカップルばっかで居づらい。


 そこまで考えて、ふと思う。


(この学校で僕が安らげる場所はないかもしれません…)


 もういっそ妥協して屋上で瑞穂と食べてもいいかもしれない。


 だがやはり、彼女はいまいち信用できない。


 日陰は、これからの昼食を食べる場所を考えながら教室に戻ったが結局良い案は思い浮かばず、レベリングの時間が来てしまったので、この件はいったん保留となった。




 昨日と同じ装備に着替え校庭にいる日陰。


 日陰は集団よりやや外れたところで空を見ていた。


 今日も見事に晴天である。


「君、ちょっといいか?」


 雲一つない空を和やかな気持ちで眺めていると誰かに声をかけられた。    


 いったい誰であろうか。声の方を見るとそこにいたのは昨日、日陰が事情を説明した外部指導員の先生であった。名前は確か瑞穂が九重先生とか言っていた。


「どうかされましたか?」


「いや、その、なんだ。すまなかったな。結局、出席扱いで欠席にできなくて」


 九重の言葉に日陰は驚く。まさか謝りに来るとは思わなかったのだ。それに、彼は瑞穂から日陰の嘘を聞かされているはずだ。それなのに謝るのは何故なのだろうか?


「いえ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい。それに、僕は嘘をついたんですから謝られる筋合いはありませんよ」


「確かにそうだが、だがそれでも君の特異性を考慮せずにパーティーを組めだなんて言ってしまった。その事についても謝りたい。すまなかった、配慮が足りなかった」


 軽く頭を下げる九重。大袈裟に謝らないのは目立つ様なことをして日陰を目立たせないようにするためなのだろう。


 自己満足だけで謝るのではなくちゃんと謝る相手の意を汲み取る。そんなことができる彼が日陰には配慮が足りないようには見えなかった。


「頭を上げて下さい九重先生」


 日陰は彼を嫌いになれなかった。彼はレベルゼロである自分に対して真摯に向き合ってくれる。それが、少しだけ嬉しかった。


「先生だなんて止めてくれ。おれは外部指導員なだけで教員免許なんぞ持っていない」


 先生と呼ばれて少しむず痒そうな顔をする九重。


「それでは、九重さん。僕は気にしてませんので大丈夫ですよ。それに、慣れてますから」


「…そうか…」


 微妙そうな顔でそう言う九重。彼は納得はしていないが、これ以上謝ってもかえって迷惑になるのだろうと考えたのでそれ以上は言わなかった。


「それと、君はソロでやると聞いたのだが…」


「ええ、はい。そちらの方が気が楽ですから。校長先生からも許可は降りてます」


「そうなのだが、本当に大丈夫か?」


「問題ありませんよ」


「そうか…それならいいのだが…あまり無茶なことはするなよ?」


「重々承知してますよ」


 日陰がそう言うと九重は若干心配そうな素振りを見せるが、これ以上言っても無駄なことを悟り最後に注意を促すに留めた。


 その後、九重は皆の元へと行き今日の説明を始めた。


 日陰はやはり少し外れたところでその話を聞いていた。


 聞き流していたの方が正しいのかもしれない。


 九重の話が終わると、一行は高校の近場にあるダンジョンへと向かった。日陰にとって高校初のレベリングだ。少し気合いを入れて集団の最後尾を歩く。


 歩く日陰を心配そうにチラチラと見る者がいたが気づかない振りをした。



 ○ ○ ○



 高校の近場にあるダンジョンは山だ。山と言っても登山をしながら戦うというわけではない。      


 山の中にダンジョンがあるのだ。中味がくり抜かれ道や部屋が作られているのだ。


 登山もできるのだが迷宮として訪れる者の方が多いのは言うまでもないことだろう。


 標高は二百メートルとさほど高いわけではないので必然的に階層もそう多くはないとのこと。確か二十階くらいあるみたいだ。基準として多いのか少ないのかは日陰の知るところではないが、九重が多くないと言っているのだから多くはないのだろう。


 それと、この山の名称だが、この山は『迷宮山』と呼ばれているらしい。


 ダンジョンのある山だから迷宮山。安易なネーミングセンスである。


「さて、それじゃあ早速パーティーメンバーでこの迷宮の攻略を進めてくれ。補助員は昨日と同じ者がついて行く。よし、始め!」


 九重の合図でパーティーがぞろぞろとダンジョンに入っていく。このダンジョンはまだダンジョンマスターが倒されていないらしく、それを倒すために我先にと言った感じなのだろう。


 日陰は特に焦る事無く集団が入るまで突っ立ってる。


 ダンジョンマスターを倒せばレアアイテムや多額の賞金などが手には入るみたいだが、日陰には興味がなかった。


 それに、自分が倒せるとも思っていない。


 倒せるとも思えない相手の討伐報酬に一喜一憂するなど時間の無駄だ。


 少しすると集団もいなくなり入り口には誰もいなくなった。いや、一人だけいた。


 外部指導員の一人なのだろう。他の外部指導員と同じ制服をしているので間違い無い。


 彼女は綺麗な金髪をショートカットにしていてなかなかに美人であった。


 日陰は彼女と目が合うと自然とそらしてしまう。


 睨まれた怖い。とかではなく、単に美人さんと目があったのが恥ずかしいだけだ。


 日陰は早足で入り口へ向かい彼女の横を通り過ぎる。


 彼女は日陰を一別するだけで特に呼び止めることもしなかった。


 昨日と若干被る状況だったので胸中で安堵する。


 だが、気持ちをすぐに切り替える。ちょっと情けない感じではあったかがもうダンジョンに入ってしまったのだ。ここからは気を引き締めて行かなくてはいけない。


 ダンジョンの中は何故か明かりが灯っており少し薄暗くはあるが視界に困ることはなかった。


「よし」


 日陰は拳を握って軽く気合いを入れると歩き出した。初ダンジョン、気合いを入れていこう。






 端的に言おう。迷った。


 ダンジョンに入って十数分。日陰はモンスターとエンカウントすることなく安全に迷っていた。


 それはそうだ。日陰は地図を持っていないのだから迷って当たり前だ。


 と言うか、何故皆は迷ったりしないのだろうか?昨日時間内に学校に帰ってきたという事は迷うことなく行動できたに違いないのだ。


 頭を捻るがいっこうに分からない。


 実は、これには理由があり、ステータスプレートにはマッピングと言う機能が備わっているのだ。


 そのマッピングを使うと通った道を記録していく地図が作れるのだが、日陰はダンジョンがこれが初。そんな機能は知る由もなかったのである。


 それにステータスを上げるときは草原や荒野などの見晴らしの良いところで、しかも太陽達に着いてきて貰ってでしかやっていないのだ。たまに、森などにはいるときは太陽達が密かにマッピングをしていたのだ。


 そのため彼はマッピングを知らない。なので迷う。


 いくら頭を捻っても帰還方法が分からない。


 さてどうしたものかと悩んでいると「あっ」という声が聞こえてくる。


 それに気づいた日陰は声の方と反対側に飛び退き鉈を構える。


 帰還の目処がつかないのでそれを考えている内に忘れていた。ここがダンジョンであることを。


 エンカウントしてしまったものは仕方がない。さてどうやって倒すか、と考えたところで止まる。


 日陰が聞いたのはモンスターの鳴き声ではなく「あっ」という人間の声だ。と言うことはモンスターでは無く人間。


 彼は声の方を冷静になって見る。


「よ、よう…」


 そこにいたのは恭子達のパーティーだった。


 彼のダンジョン初のエンカウントはモンスターではなく気まずい関係の級友達であった。   

  


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