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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
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006 声の再来

 夕ご飯を作り兄弟三人を待つ間、日陰は暇を持て余していた。


 買い物も行ったお風呂も沸かした調理器具も洗った。およそ一般的な高校生があまりしないであろう事を終えた日陰はソファーに座り天井を仰ぐ。


 家事をする以外に他にやる事がない日陰はこうしてやることが終わったら暇を持て余してしまうのだ。


 多趣味な兄達とは違い日陰の趣味は読書とゲームと家事だ。家事が趣味に入ってしまうあたり日陰らしいと言えば日陰らしいのだろう。


 それでも、読書やゲームなど人並みの趣味は持ち合わせていた。


 趣味である家事が終わったのだから本を読むなり、ゲームをするなりと暇を潰せばいい。いつもならばそうしている。


 だが、今日は何となくそんな気分にはならなかったのだ。


 そう言えば、世界がゲームになった今でもゲームは前と変わらず売れている。ゲームになった世界でゲームをやるのもどうかと思ったりしなくもないがそれでも日陰はゲームをする。


 ゲームが今も大多数のユーザーに人気なのは単純に「ストーリーを楽しみたい」だとか「リアルでの戦闘は疲れるし痛いから嫌だから」だとかが大半の理由だ。


 まあ、確かに日陰も次回作のストーリーが気になって買っているゲームがあるし、リアルの戦闘は怪我をすると普通に痛い。それなら、携帯ゲームやネットゲームの方が良いと言うのも分からないでもない。と言うか、良く分かる。


 日陰含めそう思う人がいるからゲームは今も販売されている。勿論ゲームセンターも存在する。


 日陰はゲームセンターには行かない派だ。一回毎にお金がかかるし、何より五月蝿いのが嫌だった。


 静かなところでゲームに夢中になるのが好きなのだ。五月蝿いところに好き好んでいきたいとは思わなかった。


 そして今、まさに静かな空間。ゲームをやるのには打って付けであるのに日陰はゲームをする気にはなれなかった。


 何が原因と聞かれれば色々あると思う。


 今日起こったことへの苛立ち、驚き、落胆。今日一日で色々ありすぎた。その整理を頭がしたがってるんだと思う。だからゲームをする気になれない。    


「まあ、これから何が起きるわけでもないですし…ゆっくりしますか…」


 目を瞑り体をリラックスさせる。


 こうしていると何だか意識が遠のいていく。色々あったせいか精神的に疲れているのかもしれない。


 今日は、灰色な日々を送っていた日陰にとっては赤色過ぎた。赤色過ぎというのは、危険とか刺激的とかそんな感じだ。うん、大方間違ってはいない。


 遠のく意識の中そんなどうでもいいことを考えていた。


 このまま寝てしまっても良いな。そう思っていたが、遠のく意識は『ピピピピピ』と言う電子音によって現実に引き戻された。


 顔をしかめ目を開けると目の前に小さな白い板が浮いていた。ステータスプレートよりかなり小さいそのプレートには電話のマークと『非通知』『応答』『拒否』と書いてあった。


 ここで、ステータスプレートについて少し補足説明を入れようと思う。


 ステータスプレートには、ステータスを見る以外に幾つかの機能が備わっている。


 一つは、チャット機能。これはフレンド登録した複数の相手とチャットができると言うものだ。


 次に、今目の前にあるプレートを見れば分かると思うが通話機能だ。これはフレンド登録した相手とどこにいても通話ができると言うものだ。 


 とまあ、他にも機能はあるのだが今は置いておこう。今は日陰にとってそれより大切なことがあるのだ。


 日陰は目の前のプレートを凝視する。別段おかしな点は見受けられない。一つを除いては、だが…。


 日陰が凝視するある一点、そこに問題があった。


「非通知…?」


 そう、非通知だ。先も言ったとおり通話機能及びチャット機能はフレンド登録した相手と使用可能なのだ。


 そのため『非通知』と表示されることなどあり得ないのだ。


 では、なぜ非通知でかかってきたのか。


 日陰に得も言われぬ不安が襲いかかる。これは出て良いのか。出てはいけないのか。


 そう考えている間も『ピピピピピ』と言う、呼びかけの電子音はまるで日陰を急かすように鳴り続ける。


 迷った末に日陰はボタンを押した。


 『拒否』の。


 だって、非通知だなんて怖いではないか。何があるか分からないのだし。それに今日はもうやっかい事はゴメンであった。


 変な緊張をしてしまった日陰は、背中にじっとりと汗をかいてしまった。変な緊張をしたせいかすっかり眠気も覚めてしまっている。


「…先にお風呂にでも入りますかね…」


 日陰は小さく嘆息すると立ち上がった。


 部屋に戻りタンスから服を取り出してからお風呂場へと向かう。


 脱衣所で服を脱ぎお風呂に入る。


 頭と体を洗ってから湯船につかる。


「ふ~~~~~~極楽極楽…」


 若干年寄り臭いことを良いながら日陰は湯船につかった。


 こうしてお風呂に入ると一日の疲れが抜けていくかのように体の芯まで温まっていく。


 完全にリラックスしている日陰の耳にまた『ピピピピピ』という電子音が聞こえてくる。それと同時に目の前にプレートが現れる。


 日陰は迷うことなく『拒否』を押す。


 だが、すぐにまた電子音が響き、プレートが出現する。


 日陰は若干苛立ちながらも『拒否』を押す。


 鳴り止む電子音。


 そしてすぐ、また鳴り響く電子音。


 額に青筋を浮かべる日陰。温和な日陰でも流石に連続で通話されるとイラッと来るものがあった。


 日陰は思い切り指を叩きつけるように『応答』を押した。


 そして、


「何回も何回も五月蝿いです!!いい加減にして下さい!!」


 怒りの限り言い放った。すると、


『こっちもいい加減にしてくれと言いたいね!!何回拒否すれば気が済むんだ君は!!』


 と、男とも女ともつかぬ声で返された。


 その声に日陰は思わず固まってしまう。


 この声は聞いたことがある。ちょっとの間しか聞いていなかったが、それでも記憶から離れることはない。そう、


「お前…あの時の……ッ!!」


 日陰に絶望を与えたあの日の声だ。   

 

 声は日陰の言葉を聞くと嬉しそうな声で喋り始めた。


『やあ、二年ぶりだね。元気にゲームしてたかい?』


 その呑気な声を聞くとふつふつと怒りが沸き上がってきた。


『いやあ、私の方はなかなか楽しませてもらってるよ。世界各地で色んなドラマが見られているからね。喜ばしい限りだよ本当に』 


 それを聞いた瞬間堪えきれなかった。


「お前…ふざけるなよッ!!」


 声の限りそう叫んでしまう。


 声のこの世界の在り方を喜ぶその言葉を聞いて言わずにはいられなかったのだ。それに、もしもう一度、今度はまともに話せるときが来たならば言いたいことがあったのだ。それを言うまで止まれそうにもなかった。


「お前のせいで、どれほど僕が苦しんだと思ってるんだ!!友人からも見限られて蔑まれる!!クラスメートや先生からは卑下されるし腫れ物を扱うように接せられる!!」


『………』


「全部全部レベルゼロのせいだ!!お前のせいだ!!何で僕なんだよ!!何でレベルゼロなんだよ!!」


『………』


「なあ、僕に恨みでもあるのか!?何か気に食わないことをしたのか!?何でなんだよ!!答えろよ!!」


『………』


 日陰の悲痛な現状報告にも糾弾にも質問にも声は答えない。いくら待っても静観を貫く声に日陰の苛立ちは更に増していく。


「なんとか言ったらーーー」


『すまない』


「…は?」


 日陰の言葉を遮り放たれた声の言葉に日陰は思わずとぼけた声を上げてしまう。


『本当にすまない』


 すると声はもう一度同じ事を言ってきた。どうやら聞き間違い出はないらしい。


 突然の謝罪の言葉に言葉を出せずにいる日陰。


 すると声はその沈黙をどう受け取ったのかは知らないが話し始める。


『私は君が気に入った。あの日、君だけは私の意図に気づいてくれた。この世界をゲームにして傍観して楽しむ。その事に気づいて指摘したのは君だけだった』


「それが…なんだって…」


『だから私は君にプレゼントをあげたかったんだ。喜んでくれると思った…』


 声はいくらかトーンを落とすと言った。


『だけど、それは君にとって迷惑な物だったのだね…だから、すまない……』


「今更…何を…」


 突然の謝罪に混乱する日陰はまともな答えを返せずにいた。だが、少しすると頭の回転が戻ってきて声の言葉を飲み込む。


 冷静になった日陰は声にいくつかの質問をしてみることにした。


「なあ、プレゼントってどういうことなんだ?」


『言葉通りだ。君の称号は魔王討伐の切り札なんだよ。つまりは君が英雄になる役目を担うように仕向けてみたんだ。英雄って言うのは皆が憧れるものだと思っていたからね…』


「ちょ、ちょっと待って!切り札?英雄?ごめん、ちょっと話が見えないんだけど」


『そうか…まだ知られてないんだったね…』


「知られてない?何が?」


『それはね……王……能りょ……』


 突然、声にノイズが走り聞き取り辛くなる。と言うか、所々がノイズに邪魔されて聞こえなかった。


「おい?どうした?おい!」


『レベ…………ロ……そ…が………………力……』


「何?聞こえないって!」


『それと……危険………』


「危険?危険って何が!?」


『イベ…ト……生…………襲……………』


「おい!おい!」


 謎の警告を最後に声は聞こえなくなる。プレートにも『通話終了』となっている。


 声は一体何を言いたかったのであろうか。結局、ノイズに邪魔され最後まで聞き取ることはできなかった。


 それでも、何か嫌な予感がする日陰はお風呂に浸かっているにも関わらず身震いする体を両腕で軽く抱きしめる。


 お湯に首まで浸かりぽつりと呟く。


「……何もなければいいけど…」


 日陰の呟きはお風呂場に木霊するが、それを聞く者は日陰以外にはいなかった。 



 ○ ○ ○



 お風呂からあがりリビングに戻ると、もう既に三人とも帰ってきていた。


「お帰りなさい」


「ただいま」


「たっだいま~」


「…ただいま」


 三者三様の挨拶を聞きながら日陰はテーブルにおかずを並べていく。と言っても、今日はカレーなのでサラダを人数分出してカレーライスを並べるだけなのでそんなに手間ではない。


 すぐに用意ができ四人とも椅子に座る。


「いただきます」


「いただきます」


「いっただきま~っす!」


「…いただきます」


 やはり三者三様な言葉を聞きながら日陰も食べ始める。


 うん、我ながら美味しくできたと思う。


「ん~うんまいね~!やっぱりカレーは最高だよ!」


「…カレー、グッジョブ」


 そう言いながらバクバク食べる満月と真月。その食べっぷりに嬉しく思いながらもどこか既視感を覚える日陰。


 そうして思い出した。恭子の食べっぷりに似ているのだ。


 日陰はその事を思い出してから渋い顔をする。他愛の無いことでも自然とレベリングの時のことを連想してしまうからだ。 


「ん?どうした?」


 日陰の渋い顔を目ざとく気づいた太陽は心配そうに日陰に問う。


「ううん。何でもないですよ」


 日陰は、太陽を安心させるように笑う。


「そうか。でも、何かあったら俺に言うんだぞ?」


「うん、ありがとうございます。たい兄」


 太陽の心遣いは素直に嬉しいが、日陰が思ったことをわざわざ太陽に言うのもはばかられた。それに、言いたくないというのが本音でもあった。


 それに話したところで太陽達を心配させてしまうだけだ。三人にはあまり心配をかけたくはない。


 レベルゼロと言う時点で既に迷惑をかけているのだ。これ以上迷惑の上塗りはしたくないと言うのもあった。


 だから、日陰は先ほどお風呂場での事は三人には伏せることにした。最後はノイズでよく聞こえなかったので、確証もないし聞き間違いかもしれないからだ。


 どちらにしろ憶測で話すには聞こえた内容が不十分すぎた。


「そう言えば」


 不意に満月が呟いた。


 思考を一旦そちらに向ける。


「日陰、今日レベリングだったよね?…どうだった?」


 心配げな表情で日陰を見つめる満月。真月も太陽も心配げな面もちであった。


 満月はレベリングは上手く言ったのか?と聞きたいのでは無い。何か嫌なことはなかったか?と聞きたいのだ。


 その事を重々承知している日陰は、三人を安心させるように笑顔を作ると言った。


「大丈夫だよ。問題無いです。レベリングの授業は出ないでも出席扱いにしてもらえるようにしましたから」


 問題無い訳ではない。一悶着どころか、二悶着あったのだ。問題がないわけ無い。


 それでも日陰は問題無いと言いはる。三人を心配させたくないからだ。


 満月は日陰の答えを聞くと安堵した表情を見せた。真月も太陽も同様であった。


「良かった~それなら安心だよ~」


「…心配、無いね」


「そうだね。校長に直談判しなくてすみそうだ」


 太陽がさらっと恐ろしいことを言ったが、満月も真月も、日陰出さえもスルー。


 真剣みを帯びた顔をしている太陽が言うと冗談に聞こえないし、冗談ですまないことを三人とも知っているからだ。


 結局、日陰は悶着あったことは話さず、ご飯を食べ終えると疲れがたまっていたのかすぐに眠りについてしまった。


 

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