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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
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004 パーティーメンバー

自分が思った以上に主人公が卑屈な感じで驚いています

 がっくりと落とした肩を戻し気合いを入れるためにパシパシと軽く頬を叩く。


 そうして日陰は彼女達に向き直る。向き直った日陰を確認すると恭子は右端から一人ずつ紹介をしていった。


「眼鏡で三つ編みのうちの魔術師。代湧雪子よわき ゆきこだ」


 彼女は先ほど不安げな顔をしていた女の子だ。よく見れば他の五人の内三人は雪子を励ましていた子だ。


「よろしくお願いします」


「よ、よろしくね」


 俯きがちにそう挨拶する雪子はそう言うと隣の女子の後ろに隠れてしまう。日陰が思っていたとおり気弱な子みたいだ。


 恭子は二人目を指差す。


「目つきが悪くて高身長のうちの斧使い、瀬高美波せたか みなみだ」


「貴女にだけは目つきが悪いと言われたくないわ」


 美波はそう言うとキッと日陰を睨んだ。睨まれた日陰はビクッと身を竦める。


 暫くは観察するように日陰を見ていた美波だが、フンッと鼻をならすとそっぽを向いた。 


 蛇に睨まれたカエルのようだった日陰はホッと固めた体を緩ませた。


(滅茶苦茶怖かった…)


 もう既にこのパーティーでやっていけるか心配になっている日陰を置き去りに恭子は三人目を指差す。


「巨乳でおっとりしてるのがうちの細剣使い、音無豊おとなし ゆたかだ」


「ふふふっ、よろしくね~」


「よ、よろしくお願いします」


 間延びした声で挨拶をする豊。恭子の紹介の仕方のせいか豊の豊な胸に目がいってしまうが、美波の鋭い眼光により視線をよそに向ける。目だけで人を殺せそうな彼女は日陰がもう胸を見る意志がないとさとるとまたしてもフンッと鼻をならしてそっぽを向いた。


 またしても蛇に睨まれたカエルになった日陰をやっぱり置き去りにして、恭子は四人目を指差す。


「健康的な日焼けとショートカットが似合ううちの弓兵、三木円みき まどかだ」


「よっろしくねぇ!」


「よろしくお願いしますっ」


 快活な挨拶をする円にこちらも何となく微妙に元気に答える。なんだかそうしなくてはいけないような気がしたのだ。


 日陰はそう考えると円を見て納得する。円はかなり背が小さく小学校低学年にしか見えないのだ。まるで小さい子と接している気分になるからつられてしまうのかもしれない。


 次に恭子は五人目を指差す。        


「暗くて何考えてるか分からないのがうちの治癒士、本暗餡子もとくら あんこ


「…よろしく…」


「よろしくお願いします…」


 餡子は挨拶だけを済ませるとふいっとそっぽを向く。


 そして恭子は最後の六人目を指差す。


「最後に、パツキンお嬢様の槍使い、薄氷リリス(うすらい りりす)だ」


「ふんっ、精々足を引っ張らないようにしてよね」


「は、はぁ、よろしくお願いします…」


 絵に描いたような高慢系お嬢様に思わず面食らう日陰。


「そんでアタシが片手直剣使いの金本恭子。改めてよろしくな!」


「よ、よろしく。金本さん」


「堅い堅い!アタシの事は恭子で良いよ」


「うっ、ええっと…」


 いきなり名前で呼べと言われても人見知りの日陰にとってはハードルが高い。


 困り果てて言葉に詰まっていると豊から助け船が出される。


「それで恭子さん?このお方の紹介をされてませんけど、お願いしてもかまいません?」


「ん?おう!すっかり忘れてた!」


 そこは忘れないで欲しかったが天然な恭子に言っても無駄なのだろう。そう思いつつ日陰は話を変えてくれた豊に小さく会釈して感謝を示す。すると豊はニコニコしながらペコリと小さく会釈を返してくれた。

 

 キャラの濃いメンバーの中で豊は常識人のようなので密かに安心する日陰。そんな日陰をよそに恭子は日陰の紹介を始めた。


「えっとだな、こいつは陽向日陰。レベルゼロって言えば分かるよな?」


 恭子の紹介で皆の雰囲気が変わる。痛いほど静かな空気がメンバーの間を支配する。


 そんな中、何故こんな空気になったのか理解できていない恭子は呆けた面をしている。


「え?なに?どしたの?」


「どうしたもこうしたも無いわ。何で新メンバーがよりにもよってレベルゼロなの?」


 状況を理解できていない恭子の問いに答えたのは、レベルゼロと聞いてからずっと日陰を睨んでいる美波だった。


 美波は冷たい視線を日陰に向けていた。日陰はこの視線に嫌と言うほど覚えがある。


 日陰はこの時点で悟ってしまった。このパーティーにはいられない。いてはいけないと。


 俯いてグッと拳を握りしめる日陰。そんな日陰を尻目に美波は恭子に言い放つ。 


「レベルゼロなんて数合わせにもなりはしないじゃない。お荷物はパーティーにいらないわ」


「み、美波ちゃん。何もそんな言い方しなくても…」


「そうは言っても雪子。貴女も魔術師か前衛職が欲しいって言ったじゃない」


「それは…そうだけど……でも…」


 言いよどむ雪子。彼女も日陰を弁護したいと思ってはいるがパーティーにはもっと違う使える人が欲しいと思っているのだろう。それはそうだ、同じ立場だったら日陰だってそう思う。


「良いじゃないかレベルゼロでも。私たちが守れば良いだけだろ?」


 少しムッとした感じで恭子が言う。この時日陰は彼女を止めたかった。彼女が仲間と喧嘩をするのを止めたいからじゃない。自分のためだ。自分がーー


「守られるだけの者なんて仲間とは言え無いわ」


 自分が否定されるのが嫌だったからだ。


 分かってる。自分が使い物にならないなんて自分が一番分かっている。


「そうだね~ボクもちょっと日陰っちじゃ役不足だと思うな~」


 円の無邪気な否定の言葉が日陰の心を抉る。


「…回復…面倒…」


 餡子の隠しもしない本心が日陰の心を抉る。


「ふんっ!肉壁なんて必要ありませんわ!」


 リリスの侮蔑の否定の声が日陰の心を抉る。


「そうですね~今回はご縁がなかったという事で~」


 豊の気を使った否定の声が日陰の心を抉る。


「ま、まだ使えないって決まった訳じゃないだろ!」


 恭子の擁護の声が日陰の心を抉る。


 分かってる。分かってるから、もう止めて欲しかった。


 恭子に擁護されるごとに自分の惨めさを自覚する。皆に否定されるごとに自分の存在価値が無くなっていく。


「だ、だけどーー」


「ゴメン」


 恭子の言葉を遮って日陰は言葉を発する。皆の視線が日陰に集まる。


 内心ビクビクしながらも日陰は顔に笑顔を浮かべる。そうしないと自分を保てそうになかった。


「僕が無理を言ってお願いしたんです。余り者になるのは格好悪いからって。金本さん無理を言ってゴメン。皆も、迷惑かけてごめんなさい」


「お、おい」


 日陰はそう言うと頭を下げてからその場を後にする。恭子が何かを言ってるが振り返らない。日陰は引率の外部指導員の先生の所まで行く。 


「あの、すみません」


「ん?どうした?あぶれたか?」


「いえ、そう言うわけではないです」


「だったらどうした?」


「僕、レベルゼロ何です」


「ーーーっ!?」


 日陰の突然のカミングアウトに先生は多少面食らったような顔をしたが、すぐに表情を戻した。恐らくは事前知識として多少は知っていたのだろう。


「それで、どうしたんだ?」


「はい、僕はレベルゼロでステータスも上がらないのでダンジョンで死ぬ確率が高いです」


 これは嘘だ。レベルは上がらないがステータスは上がる。中学の頃のステータス表と比べればこれが嘘だと分かるだろう。だが向こうもわざわざ上がっている筈のステータスを確認するといったことはしないはずだ。それに日陰はレベルゼロだ。何も上がらないと思われていても不思議はない。


「そうだな」


 日陰の読みが当たったのか、それとも向こうがこちらの事情を知っているのかは定かではないが、話を続けてくれるみたいだ。 


「ですので僕はレベリングに参加をしたくはありません。レベルが上がらないんですから行っても意味ないですし。それに先生も死人は出したくないですよね?」


「……」


 先生は少しばかり考えるような仕草をすると口を開いた。


「…分かった。この授業は出ないで構わん。校長にも俺が掛け合っておく。出席扱いにはしておくから安心しろ」


「ありがとうございます。それじゃあ僕は時間潰しに図書室に行ってますね」


 日陰はお礼を言い頭を下げると踵を返して校舎に入るべく玄関に向かった。


 いつの間にか周囲の視線を集めていたが今はそれを気にするほど心に余裕はなかった。


「おい!待てよ!」


 恭子に肩を掴まれ無理やり向き合わされる。彼女の細腕のどこにそんな力があるのか知らないが、掴まれた肩は結構痛かった。そうか、ステータス補正がかかってるんだと、どうでも良いことに気付く。    


「それじゃあアタシのパーティーは一人足りなくなるだろうが!」


「僕がいても足手纏いになるだけですよ。かえって迷惑になります」


「だけど!」


「金本さん、痛いんで離してもらえませんか?」


 ステータスの低い日陰には恭子がちょっと力を入れるだけでも痛いのだ。それが、無意識の内にかなり強く掴まれているのでとてつもなく痛い。HPもちょっと減ってそうだ。


「あっ、ごめん…」


 力が入りすぎていたことに気付いた恭子は掴む力を緩めたが、離すつもりはないらしい。


「離してくれませんか?」


「お前は…良いのかよ?」


「なにがですか?」


「このままで良いのかよ」


 このままがどこまで指すのか分からないので日陰は黙る。すると珍しく恭子の方から気付いてくれたのか口を開く。


「使えないって言われたまんまで良いのかよ?」


「良いですよ別に。他人にどう思われようと気になんてしません」


 嘘だ。だったら無理矢理にでもパーティーに入る。恭子が何とかしてくれるのを信じて待ってた。でも日陰は待たなかった。嫌だったからだ。自分が卑下され否定されるのが。


 でもそれを表には出さない。出したところで意味などなさない。日陰の心が更に抉れるだけだ。


「これ以上授業の時間を潰してしまうのも申し訳ないので僕はもう行きますね」 


 力が緩んだ恭子の手を日陰は手で払い歩き出す。


 恭子もこれ以上日陰を構ってくることはせずにいた。


 そう、それで良い。これで日陰はこれ以上惨めな思いをせずにすむ。


 レベルゼロ故にパーティーに入れずレベルゼロ故に悲しいすれ違いを招く。疎まれ、蔑まれ、卑下され、拒否され、否定される。実に惨めだ。


 思えば日陰は浮かれていたのかもしれない。


 高校に入ってまともに話してくれる人が出来て一緒にご飯を食べて、それでいて一緒のパーティーに誘ってくれてそれで気が緩んでいたのかもしれない。


(ああ、それじゃあいけない。中学の頃を忘れた訳じゃないだろうに)


 中学の頃にそれなりに親しかった友人に遠ざけられたことを思い出す。彼女らも同じだ。ステータスだけで人を判断する。


 ステータス至上主義。その概念は変わることはない。


 ゲームとなったこの世界で根深く広がり決して覆ることは無い。


 思えばどうしてステータスが上がることを彼女達に言わなかったのだろうか。言えばもしかしたら入れてくれたかもしれない。そんな甘い考えが頭をよぎるが実際は、言っても変わらないだろう。目安の付けづらい面倒な奴を誰が好き好んで自分のパーティーに入れるだろうか。


 そんな事を考えているともう既に下駄箱に到着していた。校庭を見やると皆もう出発したのか校庭にクラスメートの姿は無い。


 どうでも良いかと思い下駄箱の上履きを取り出そうとして床に落としてしまう。そんなちょっとのことでも苛立ってしまい日陰は下駄箱を殴りつける。


「クソッ!」


 下駄箱を殴りつけた所で苛立ちは収まらない。だが、無性に虚しくなり日陰は靴を履き替えると装備セットを制服に替えて図書室へと向かった。


 図書室で時間を潰しても気分が晴れることはなかった。

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