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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第二章 臨海合宿
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007 姉とパーティーメンバー

 殺鬼の髪を整えて、衣服もしっかりと整え終わると、日陰と殺鬼は皆の待つリビングに向かった。


「皆さんお待たせしました。さあ、料理をしましょう!」


 リビングのドアを開けて、日陰が元気よくそう声をかける。が、日陰のテンションとは裏腹に、リビングは剣呑な雰囲気に包まれていた。


「皆さん、どうしました?」


「……なんでもないよ。日陰は気にしないで」


 日陰が小首を傾げて問いかけると、満月は溜息を一つ吐いてそう言った。


 この雰囲気で何にもなかったわけがないのは明らかだ。満月は何かを隠している。


「まつねぇ、何かあったんですか?」


「……大丈夫、だよ。日陰は、気にすんな」


 訊く相手を変えて、真月に訊くもそうはぐらかされてしまう。


 何かあったのは明らかなのに、はぐらかされるのは日陰としては面白くない。


 次は恭子に訊こうとした日陰であったが、唐突に後ろからふわっと優しく抱きつかれる。


 日陰の後ろには一人しかいないので、犯人は直ぐに分かった。


「日陰~あまり詮索してやるなよ~」


「殺鬼さん……」


 眠たげな声と顔でそう言う殺鬼は、日陰の頭に顎を乗せて欠伸を一つする。


「女の子にはな、ときには男の子に知られたくないことがあるもんなんだぁよ~」


 殺鬼にそう言われ、確かにと納得を示す日陰。


「それに、ご飯作るんだろ~? あたしゃぁお腹ぺこぺこだぁよ~」


「……分かりました」


 日陰が頷くと、殺鬼は良い子良い子と日陰の頭を撫でたあと、ソファの空いているところに座り、ぐだぁっとだらしなく体を預ける。これでは、衣服の乱れを整えた意味が無いのだが、そこら辺は日陰ももう諦めている。


「さて! 気を取り直して! 皆さん、お料理しましょう!」


 日陰が明るい声でそう言えば、皆もぎこちないながら雰囲気を明るくしようと頑張ってくれる。


 実際、日陰と殺鬼がいない間に一悶着あった。


 これは日陰も悪いのだが、満月と真月は日陰が恭子達のパーティーに入ったことを知らなかったのだ。だから、今日来るのは別の友人だと思っていたのだ。


 それが、蓋を開けてみれば犬猿の仲とは言わないまでも、一度口論になった相手のパーティーメンバーだと知って、なんであんたたちが来ているのだと突っかかってしまったのだ。


 事前に聞いていればそんなことは起こさないくらいには満月は分別をわきまえている。しかし、何も聞かされていなかったので、つい条件反射で噛みついてしまったのだ。


 だが、満月はそれを日陰に言わない。日陰も悪い部分もあるが、誰が来るかを訊かなかった満月も悪いのだ。だからこそ日陰を責めたりしない。けれど、面白くない。だから少しつっけんどんな言い方をしてしまったのだ。


 恭子達の方は、案の定、満月の言葉にリリスが言い返してしまい、気まずい雰囲気になってしまったわけだ。


 それに、他の皆も、一度はレベルゼロだからと日陰を否定してしまったことを負い目に感じている。だから、満月と真月がいることに、少しだけ居づらさを感じてしまったのだ。


 それが、剣呑な雰囲気の正体である。


 そして更に、その剣呑な雰囲気が少しだけ悪化したことを日陰は気付いていない。


 殺鬼が日陰に抱き着きその頭に顎を乗せていたことで、特定の人物の殺鬼に対するヘイトが上がり雰囲気は更に悪くなった。


 因みに、殺鬼と一緒にいることに太陽と満月、真月は異論をとなえたが、日陰の意思が固いとみるとそれを了承した。だから、今更殺鬼がいることに不満はない。それは日陰も自分たちも納得したことだからだ。


 ともあれ、日陰の明るい声で多少は雰囲気を盛り返した。


 そして、さて料理をしようかと言うところで、ふと気づいた。


「ねえ、陽向君」


「なんですか?」


「この人数じゃ台所には入れないのでは?」


「あ……」


 美波のその指摘に、日陰は今さら気付いたと声を出す。


 日陰の家のダイニングキッチンは一般家庭のものと同じくらいだ。そんなキッチンに人が八人も入れるわけがない。今いるリビングですら少し狭く感じてしまうくらいなのだ。


「どうしましょう……」


 日陰が困ったように言うと、円がひょいっと手を上げる。


「はいは~い! ボクは食べたいだけだから、別に料理は出来なくてもいいよ~!」


 素直にそう言う円に、雪子と豊が苦笑をする。


「そうねぇ~台所に立てる人数は、三人くらいかしら? だったら、私も辞退するわ~」


「そもそも、今日のこの集まりって恭子が料理をできるようになるって話なのでしょう? だったら、料理ができる人は参加する意味がありませんわ」


「それじゃあ、とりあえず今日は料理ができない人だけにしましょう。金元さん以外は誰が料理できないんですか?」


 日陰がそう言うと、餡子が手を上げた。


「…………わたし、和菓子しか、作れない……」


「なるほど。それじゃあ、今日は僕と金元さんと本暗さんで料理をしましょう」


「お、おう!」


「…………わかった」


「はい、それじゃあお二人とも、エプロンをつけてくださいね」


 そう言って、二人に日陰お手製のエプロンを渡し、三人は台所に向かう。


「さて。それで、私たちは手持無沙汰なわけだけれど……」


 どうしようかと豊に視線を送りながら頭を掻く美波。


「……お茶くらいなら出すわよ。座ってなさい」


 そう言うと、満月は立ち上がりコップとお茶を取りに向かった。


 そう言われたら座るしかない五人は、テーブルの前の座布団に腰を降ろす。少し狭いが、座れないことも無い。


 ソファに座ろうかとも思ったが、さっきまで満月が座っていたし、今も真月が座っているので気が引けるのだ。


 満月が黙々とお茶の用意をする中、リビングにいる八人全員が無言になる。


 お茶の準備を終えると、満月はソファにどかりと座る。


 満月は、お茶を一口飲むと五人を見る。


「……日陰があなたたちのパーティーに入ったことは、もういい。それは日陰が決めたことだし、私がとやかく言うことじゃないから。ただ、一つ言っておきたいことがあるわ」


 満月は五人を睨むように見て、言葉一つ一つに圧をかける。


 元来気の強いリリスと冷静な美波は平気であるが、他の三人は少し委縮してしまっている。


「もし、あなたたちが日陰をレベルゼロだからって厄介者扱いをしたら、わたしは絶対に許さないから」


 威圧を込めて、至極真面目にそう言えば、五人は真面目な表情になる。


「そんな無責任なことはしません。陽向はもう私たちの仲間です。それに、陽向はレベルゼロとは言え、その戦闘能力は計り知れません。手放すなんて惜しいことするはずがありません」


 レインボーキャンディーのブーストと、『換装』と言う隠し玉を使ったと言え、日陰はあの殺鬼と互角に渡り合ったのだ。そんな彼の戦闘能力を皆もちゃんと評価している。


「ワタシは一度決めたことに異を唱える気はありませんわ。思うところが無いわけではないですが、それでも一度ワタシの庇護下に入れた以上、無責任なことはしませんわ」


 リリスが気丈にそう言えば、庇護下と言う単語に一瞬満月の眉がピクリと動くが、それだけで口には出さなかった。


「わ、私は、せっかくだから、陽向君と仲良くなれたらな、と……」


 少し恥ずかしそうにそう言う雪子を見て、満月はこくりと頷く。見るからに内気な彼女がここまで頑張って言ってくれているのだ。それを信じないと言うのは野暮であろう。


「日陰っちは美味しいお菓子くれるからむしろウェルカムかなー! それに、女子力凄い高いから、お母さんみたいで落ち着くー!」


 円が元気にそう言えば、満月もうんうんと何度も頷いて納得を示す。


「私も、陽向くんにはいてもらった方が嬉しいです。見た目も可愛いですし、あんなに純粋な人がいれば、空気も和みます」


 豊がそう言えば、満月は首が取れてしまうのではと思うほどの頷きを見せた。


「うんうん! なんだ~! あなたたちちゃんと分かってるじゃない!」


 日陰の魅力を言い当てた彼女たちを、満月は拍子抜けするほどあっさりと受け入れた。


 その軽さに少しだけ呆気にとられるも、空気が軽くなったことでほっと一息つく。


「ねぇ、ちょっといい?」


 しかし、空気が軽くなったのも束の間、殺鬼がだらしなく寄りかかっていた身体を起こし少しだけ真剣な顔になって口を挟んできた。


「なに?」


 満月は少しだけ眉を寄せながらも、ちゃんと話を聞く気があるのか、続きを促す。


「あいつ……日陰は、確かに強いけど、なんというか……う~ん。こういう時なんて言うんだっけ~?」


「……茶化してるの?」


「茶化してないよ! 思い出せないだけ~! ちょっと待って、今思い出すから!」


 怒気を滲ませて言う満月に、殺鬼は慌てた様子で弁明すると、腕を組んで考えるしぐさを見せる。


 数秒、そのままうんうん唸っていたが、やがて思い当たったのかぽんと両手を打ち付けた。


「そうだ、自己犠牲だ! 日陰は確かに強いけど、少し自己犠牲的なところがある。あれは見てて危なっかしい」


 いや~すっきりしたとひとり晴れやかな顔をする殺鬼。


 確かに、殺鬼の言う通りなところはある。一人で殺鬼に挑んだあと、殺鬼に胸を貫かれた後見せた笑顔。あの笑顔は最早自分は諦めていて、けれど恭子達に後は任せたと託すような笑顔であった。自分の役割はここで終わりだと言っているようでもあった。


 自分がやられてしまうことを受け入れて戦っていた。それは自己犠牲以外の何者ではもないだろう。


 殺鬼にそう言われれば、確かにそうだと納得してしまう。


「ああっと、それでだ。日陰は危なっかしいから、ちゃんと見といた方が良いぞ? あいつ、自己犠牲なんて考えてないくらいのこと言ってたけど、口で言ってても本質はそうすぐに変わるもんじゃないからな。意識が変わっててもしばらくはよく見といた方が良いぞ~」


 それだけ~と最後に言うと、殺鬼はまたぐで~んとソファにだらしなく体を預けた。


 殺鬼の言葉に、皆は思案するような顔を見せる。


 そんな中、真月は常と変わらぬ無表情で五人を見る。


「……それも含めて、日陰ちゃんを、見ていてほしい……わたしたちも、いつでも一緒に居られるわけじゃ、ないから……」


 そう言うと、真月はいすまいを正すと、ぺこりと頭を下げる。


「……弟を、どうぞ、よろしくお願いします……」


「こ、こちらこそ? よろしくお願いします?」


 なんだか娘を嫁に送る母親みたいな真月に、代表して美波が答える。


「まあ、真月もこう言ってるわけでさ。わたしも思うところが完全に無いわけじゃないけどさ、日陰があなたたちを信じたのなら、わたしも信じるよ。でも、だからこそ、日陰を裏切るようなことは絶対にしないでほしい」


 日陰はレベルゼロになってから、周りから急速に人が離れて行った。だから、人間関係に臆病になっている。そんな日陰が仲間を得て、その仲間がまた離れて行ったら深く傷つくことは目に見えている。


 だからこそ、恭子達に日陰を裏切って欲しくないのだ。日陰の悲しむ姿を、もう見たくないから。


「あの子は、臆病だから。一人になったら、また・・壊れちゃう」


「……また?」


 ポツリと呟かれて満月の言葉に、美波が訊き返す。


 訊き返された満月は、はっとしたような表情を浮かべると、慌てたように日陰の方を見た。


「……大丈夫。音除けの魔法、張ってる……」


「……ありがとう、真月」


 真月の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす満月。


「あの、なにかあったんですか?」


 美波が問う何かとは、もちろん日陰についてだ。が、満月は辛そうな顔をすると、弱々しく答えた。


「今は話せないかな。もっとも、こんなこと、話す機会なんて無い方が良いけど……」


「……とても、話しづらいこと。できれば、聞かなかったことに、してほしい」


「……わかりました」


 二人の悲しげな雰囲気に、美波もこれ以上食い下がるのは無遠慮が過ぎると考えて引き下がる。


 しかし、思い当たる節が無いわけでも無い。


 日陰と初めてダンジョンで遭遇したとき、何かのタガが外れたのか、日陰の口調は常からはありえないほど乱れていた。それに纏う雰囲気も常のそれとはまったく別であった。その後、直ぐに気絶してしまったから、その姿を見たのはあまり長くなかったが、それでも、別人だと錯覚してしまうくらいには、あの時の日陰の変わりようは激しかった。


(あれが関係していないとも限らない……けれど、確証も無い、か……)


 とりあえずは、頭の隅に留めておこうと考える美波。


「厄介な事情があるにせよ、それだけで、陽向くんをのけ者にはしません。それに、厄介な事情があるのは、なにも陽向くんだけじゃありませんから」


 そう言った美波は自虐的に微笑んでおり、言外に自分もそのうちの一人だと語っていた。


「な~、暗い話とかもうよくな~い? さっきからテレビの音全然聞こえないんだけど~」


 空気を読まず、はたまたあえて空気を読まなかったのかは分からないが、殺鬼が音除けの魔法のせいでテレビの音が聞こえないと文句を言ってくる。


 それを聞き、真月は音除けの魔法を解除する。


「それじゃあ、暗い話はここまで! 一週間後に迫った臨海合宿の話でもしましょうか!」


 ぽんと軽く手を叩いてそう提案をすれば、美波達も笑みを浮かべてそれに応える。


 満月たちと美波たちは話し合いをしなかったせいでこじれただけであって、ちゃんと話せばわかり合えるのだ。なにせ、双方バカではないし直情的でもない。冷静に物事を判断でき、自分の正も非もちゃんと判断できるのだ。


 だからこそ、話してしまえばわだかまりは無くなり、ただの先輩後輩としての関係になる。


 そこからは、料理が出来上がるまでガールズトークに花を咲かせた。


 その様子を殺鬼は横目で見ながら、結局テレビの音が聞こえない現状に、少しだけ溜息を吐いた。


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