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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
23/39

022 双子VS惨鬼

 体育館のあたりから爆音が轟いたのを真月はその耳に捉えた。思わず振り返りそうになったが、今はそれどころではない。


 真月は迫り来る凶刃を双剣で辛うじて受け流す事に成功する。


「……ぐっ!」


「ほう。今のをいなすとはな…」


 素直に感嘆の声を上げる男。


「ワタシもいるっての!」


 そう哮りながら、男の死角から満月が片手斧を振り下ろす。左手にも同じ物を持っているので、双斧だ。


「もちろん、忘れてなどいないとも」


 男は死角からの攻撃も難無くその太刀で受け止める。そうすると、目の前ががら空きになる。


「……もらい…!」


「そこまで俺は甘くはない」


 男はそう言うと背に回した太刀を思い切り振り上げ、満月を弾き飛ばすと真月の剣を受け止める。


「…双撃衝そうげきしょう!」


 真月は双剣士のアタックスキルを「双撃衝」使った。刀身が赤く光り、その威力を上げていく。


「むっ」


 男はそうもらすと、自身もスキルを発動しようとする。だが、それを満月は許さない。


「撃斧・深牙!!」


 弾かれた後すぐに体制を整えスキルを放つ。


「ぐうっ!」


 満月のスキルが、男の背中を深く抉る。痛みで力が緩んだのか、太刀の押し返す力が弱くなる。


 もともと、真月のスキルに押されていた男の太刀はそれにより強く押されてしまう。その期を逃がさずに、真月は双剣に力を込める。


「……吹き飛べ…!」


 その言葉と同時に、男は吹き飛んでいく。男の後ろにいた満月はすでに移動をしておりそれに巻き込まれることはない。


「……満月…どう思う?」


「どう思うも何も、バカにされてることに腹が立つわね」


 仰向けに地面に倒れる男にそう言うと男は笑いながら立ち上がる。


「くっ、はははははははははははっ!いやあ、すまぬな。お前たちがこれほどまで出来るとは思わなかったのでな。手を抜いていたことを許せ」


 その声は本当に楽しそうで、それでいて好戦的なものを含んでいる。


 だが、二人にとってそれは嬉しいことではなくとても厄介なものでしかなかった。


「……真月…どうする?」


「どうするって…戦うしかないでしょ」


 戦い続けて汗を流してはいたのだが、先程からはイヤな冷や汗が流れている。  

「それにバカにされたままって言うのも、ムカつくしね」


「……ん…それは、同意」


「いやはや、そう怒るな。ここからは俺も本気でいこうと思っているのだ」


 そう言うと男は太刀を両手で(・・・)構える。 


 そう、男は先程から太刀を片手でしか構えてなかったのだ。

  

「まあ、できれば手加減してくれた方が嬉しいけど」


 男が両手で太刀を構えると先ほどとは打って変わって急に弱気になる満月に、男は苦笑を交えて言う。


「まあそう言うな。立派な戦士に敬意を表すのだ。素直に受け取れ」


「……お断り…なのよ…鬼さん」


「…そう言えば名前を名乗っていなかったな。俺の名は惨鬼だ」


 残鬼。斬鬼。慚鬼。


 考えられるにいくらでも浮かんでくる名前だ。だから、思い付いたどれも可能性があるのでどれだかはわからない。


 だから、可能性がありそうなものをいってみた。


「聞くからに惨たらしそうな感じね…」


「まあそうだな。我らの名は惨殺という文字からとっているからな」


 少しだけ自慢げにそう言った惨鬼を余所に満月はやはりと思う。


 だが、真月はそんな事などどうでもよく、惨鬼の言葉に気になる点があった。


 それは惨鬼が「我ら」と言ったことだ。我らと言うことは少なくとも惨鬼含め二人以上はいると言うことだ。


 この一人でも厄介極まりない鬼が少なくとも後一人は確実にいるとなると、かなり面倒だ。


 真月は視線を惨鬼のカーソルに合わせて、惨鬼のレベルを確認すると溜め息をもらす。遭遇時に一度確認をしてはいたのだが、とりあえずもう一回確認してみたのだ。何かの見間違いならいいなと思いながら確認をしてみたものの、やはり見間違いなどではなく、惨鬼のレベルは堂々と映し出されていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Name:惨鬼            Lv.89 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 本当に何の冗談なのだろうか。


 満月も真月も今まで対峙してきた敵の中で、これほどまでに強い敵はいなかった。 


 満月と真月のレベルは二人仲良く60だ。惨鬼は二人の役30も上だ。


「はあ、本当に貧乏くじだよね…」


「……ん、仕方ない」  


「でもさぁ、こう言うのって、普通フルレイド組んで戦う相手でしょ?二人じゃ無理だよ~」


「…泣き言、言うな…」


 そうは言ったものの、満月が泣き言を言いたいのも分かる。


 事実、惨鬼を相手にするならば、フルレイドで望臨んだ方が良いに決まってる。いや、良いと言うよりも、それが定石であって今の彼女らの状況が異常なだけだ。


 では、なぜこのようなことになっているのかと言えば、惨鬼と遭遇してすぐ、他のパーティーメンバー六人には、周囲のパーティーに援軍を要請するため向かって貰ったのだ。


 普通であればそんなことはせずに、伝令役に一人か二人向かわせればいいのだが、意外なことに惨鬼の方から提案してきたのだ。そこの二人だけ残って他は仲間を呼んでこい。それまでこの二人にはとどめはささん、と。


 正直、敵の言うことなんぞ信じられないし、惨鬼の言ったことが本当という確証もないのだ。


 だが、それでも、その口車に乗せられるしかなかった。現状、一番生き残れる確率があるのが惨鬼の提案したこと以外にほかならないからだ。


 因みに逃げるという選択肢もあったのだが、それは惨鬼が許してくれそうにもないのですぐに却下された。


 それらの理由があり、彼女らは今二人だけで惨鬼の相手をしているのだ。


「…泣き言は言い終わったかな?それでは、行かせて貰う!」


 惨鬼はそう言うと、太刀を腰のあたりに構え、一気に踏み込んでくる。


 先ほどよりも明らかに速度の上がった踏み込みに、二人は多少焦るも、すぐに冷静になり素早く対処をする。

 

「早いけど、まだいける!」 


 満月は惨鬼の鋭い一閃を両手の片手斧で受け止める。


 先ほどよりも明らかに思い一撃に、満月は思い切り歯を食いしばる。


 一瞬、拮抗しているかに思えたが、満月が徐々に押されてきている。


「うっ、くうっ!」


 思わず呻いてしまうほどに力強い一撃。その一撃が急にふわっと軽くなる。惨鬼が太刀を引いたのだ。

 

 もう一撃来るかとも思ったがどうやら違うらしい。


 惨鬼がその場から飛び退くと、惨鬼のいた場所を双剣が通過する。言わずもがな、真月の一撃である。


 惨鬼は真月の一撃を回避するために飛び退いたのだ。


「……むぅ…」


 それなりの一撃を繰り出したのだが、容易くかわされてしまったことに、唇を尖らせる真月。


 そんな仕草を見せる真月ではあるが、彼女は惨鬼に違和感を感じていた。


 今の一撃を軽々と避けたのだから、彼はやはり強い。実は真月の先ほどの攻撃は、惨鬼の死角からの攻撃で、その上スキルを使って威力よりも速度を重視させた一撃だったのだ。


 それを容易くかわすのであれば、先ほどの満月の背中への攻撃もかわせてよかったはずだ。それなのにかわせなかったのには何か理由でもあるのか。


 いや、単に手を抜いていただけなのだろう可能性も捨てきれない。それに、さっき惨鬼自身も言っていたではないか。「本気でいく」と。今までが本気ではなかったということなのだろう。種も仕掛けもありはしないのだ。


 だが、そうすると厄介である。


 種があるのであれば、その種を暴き、弱点を突けるのだが、それが単に実力だと言われれば手の出しようがない。


 小細工なんかとは違い、実力であればそれを覆せるのも実力しかないのだ。もちろん、小細工が通用するときもあるだろうが、惨鬼はそれに当てはまらないだろう。


 いよいよ本格的にヤバくなってきた。     


 今の二人には惨鬼の実力を覆せるほどの実力は持ち合わせていない。


 援軍を呼びに行っている仲間も、いつ帰ってくるのか分からない。


 二人の中に焦りが生まれる。


 正直、仲間が来るまで待って欲しいところではあるが、それを惨鬼は許してはくれないだろう。

 

「さあ、段々と上げていくぞ」


 まだ上があるのかと愚痴りたくなるのを堪え、惨鬼の動きに意識を向ける。


 ザッと土埃を巻き上げて惨鬼が踏み込む。


(やっぱり早い!)


 言葉通り、先ほどよりもかなり上がった速度で肉薄してくる惨鬼。


「ふっ!」


 鋭い一閃。それをなんとか反応し、両手の片手斧で受ける。だが、先ほどよりも上がっていたのは速度だけではなかった。一閃するその威力も上がっており、満月はその威力に押され吹き飛ばされる。


「があっ!」


「…満月!」


「余所見とは余裕だな?」


「…しまっ」


 満月に気を取られてしまった隙をつかれ、真月も後方へと吹き飛ばされる。


 辛うじて双剣で受けたものの、峰が勢い良く胴に当たり肺から空気が抜ける。


「…がっ!がひゅっ…」


 空気が抜けせき込んでしまう真月。


 せき込む度に胸部に痛みが走る。恐らくは、肋骨にヒビでも入ったのだろう。


 隣に視線を移せば、満月も似たような状態だ。     


「これは…本格的にマズいね…」


「……ちょっと、厳しい…」


 もうすでに肩で息をしている二人に、惨鬼はつまらなそうに言う。


「ふむ、流石にこれだけレベルが離れていると手も足も出ないか…だが、レベルの割にはよくやった方だな」


 惨鬼は徐に太刀をしまい、腕を組むように袖に手を入れる。    


 その仕草はまるで戦いは終いだと言っているかのようであった。


「これ以上はどうやっても時間の無駄だな。お前たちだけでは俺を楽しませるには不十分なようだ……そうだな。時間もあることだし、少し与太話でもするか」


「…何を…」


「まあ聞け。お前たちの強さにも関わることだ」


「…」


 そう言われると黙るしかなくなる。


 自身の強さに関わる話なのであれば、この状況を覆す突破口が見つけられると思ったからだ。


 それに、仲間が来るまでの与太話なのであれば、それに乗らない手はない。


 二人が聞く姿勢を見せたからか、惨鬼は話を始める。


「俺の世界。つまり、お前たちで言うところの崩壊世界では元々このような仕様だった」


 そう言うと惨鬼は自らの頭上をちょいちょいと指差す。


 その示すことは自身のカーソルの事を差しているのだろう。


「奴の言葉を借りるなら、崩壊世界は元々その"ゲーム"という仕様だった。生まれた頃からレベルがあり、ステータスがあり、経験値があった。皆それが当たり前だった。当たり前だった世界だからこそ、崩壊世界ではレベル至上主義な風潮があった」


 それは知っている。この世界も、ゲームになってからはその風潮が強くでているのだから。


 そのことを知っているのだろう。惨鬼はどこか哀れむような視線を二人に向ける。


「数字に踊らされたバカどもは気付いていない。数字が全てではないことをな…」


 先ほどの哀れむような視線から一転、今度は訪ねるような視線を向ける。


 その問いかけは恐らく、二人に対しバカかそうでないかと問いかけているのだろう。


 その問いかけを受け、満月はキッと惨鬼を睨み付ける。


「バカにしないで。レベルが全てだなんて思ってない。レベルで計れないことだって確かにある。それを忘れて生きるほど、私は愚かじゃない」


「……優しさ、脆さ、美しさ…他にも、色々あるけど…どれも数字で計れるようなものじゃない…」


 二人の答えを聞くと、惨鬼はフッと嬉しそうに微笑む。


「そうだ。この世の中には数字だけでは計れないことが多い。お前たちはそれを分かっているようで嬉しく思うよ」


 別に敵に嬉しく思われても微妙なところだ。


 そんな二人の心境が伝わったのか、惨鬼はまたもやフッと笑う。


「俺のこの強さも、数字だけじゃない。色々な経験を積んで、色々な考えを知って、色々な人と出会って出来た強さだ。それはどれも数字じゃ表せない」


「…つまりは、なにが言いたい…?」


「フッ。すまぬな。どうも俺は喋るのが苦手なようでな。要領を得なくて申し訳無い。…そうだな、つまりは、数字だけが全てじゃない。それ以外の要素も全部ひっくるめてそれが強さなんだ。と、俺は思ってる」


 惨鬼の言ったことを聞き終えた二人はその顔に驚愕の色を露わにする。


 その言葉は二人にとっては青天の霹靂であった。


 なんだかんだ言っても、二人もステータスが強さを決めると思っていたのだ。全てを計るのはレベルじゃないと思ってはいても、それで強さは計れると思っていた。


 だが、惨鬼の言葉で理解した。


 強さとは全部ひっくるめた全てが自分の強さなのだと。


 例えばだ。戦っている最中に自分が激昂したとしよう。そうすれば、頭に血が上り冷静な判断が出来なくなる。そうなれば、いくらステータスが高くても相手に攻撃を避けられるかもしれない。


 逆に、自分がいつも以上に冷静になれば相手の動きを細部まで読み取り、例え相手の方がレベルが上だとしても勝てるかもしれない。


 そう考えると、なるほどと胸にストンと落ちるものがあった。


 勝ち気な性格も、気弱な性格も、逃げ腰も、無茶無謀も、全部強さになりうる。それが弱さになるときがあっても強さにもなる。


 二人は立ち上がると、ニヤリと笑う。


「……ありがとう…鬼のお兄さん…」


「いや、こちらが楽しむためでもあった。こちらこそ与太話に付き合ってくれて感謝するよ」


「いやいや。鬼のお兄さんの話で分かったことがあるよ」


「ほう…」


 先程から、不安ではあった。


 体育館の方から爆音が轟いたときから、日陰の身に何かあったのではと。


 だが、それも惨鬼のおかげで吹っ切れた。


「分かったことか…それは気になるな…」


「気になる?それじゃあ、教えて上げるよ」


「……時間、無いから……結論だけ、言うね…」


 真月がそう言うと、空から十四人の陰が二人の方に降り立った。


「「ウチの自慢の弟は強い!!」」


「……なるほどな…」


 惨鬼はそう言うと高らかに笑い声を上げる。


「くっ、クハハハハハハハハハ!そうか!それは面白い!お前たちの弟とやらと戦いたくなった!そうと決まれば……決着をつけようか」


「オーケー。第二ラウンド、始めよう」


「……ここから、本番」


「なんだか良い雰囲気だけど割り込むよ。遅れてゴメンね二人とも」


 落ち着いた優しい声音で割って入ってくる者に真月が答える。


「……ん、大したこと、無いよ…たい兄」


「そっか。まあ、無事で何よりだよ」


「こっちも遅れてゴメンね?色々捜して回ったけど、どこも手一杯だった」


「ん~ん。問題無いよ!むしろ最強の助っ人連れてきてくれて感謝だよ!」


 一パーティーしか連れて来れなかったことを謝るパーティーメンバーの、新居百合子にい ゆりこに、満月は笑顔でそう答える。


 もう察しがついているとは思うが、百合子が連れてきたのは太陽達のパーティーだ。


「……たい兄、いるなら、安心…」


「期待に添えられるように頑張るよ」


「そうだぜ太陽。俺達も期待してっからよ!」


「そうよ太陽。リーダーなんだから、カッコいいところ見せてよね?」


「いや、むしろイケメンだからカッコ悪いところ見せろよ」


「そうだな。それなら俺ら頑張れそう」


「ゴメン。笑って戦えないかも」        


「それ分かるわ。ワタシも笑っちゃいそう」


「カッコ悪いところ見せてくれればもっと好きになれる気がする」


「皆酷いこと言うね!?」


 若干涙目になりつつそう叫ぶ太陽に、パーティーは茶目っ気のある笑みを浮かべる。


「まあ、笑われるのがヤだったら、頑張れや」


「私達もサポートするからさ」


「むう…皆素直じゃないなぁ…」


 小さく唸る太陽に、満月達のパーティーメンバーも苦笑気味である。


「さて、そろそろ準備は良いか?」


「ああ、待たせたようで悪いね」


「そうだな。随分待ったよ」


「そうか。それじゃあ、始めようか」


 太陽の言葉で皆が各々武器を構える。


「行くぞッ!!」


 太陽の言葉を受け、先陣が一斉に地を蹴る。


 満月・真月パーティー&太陽パーティーVS惨鬼。


 第二ラウンドが始まった。 




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