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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
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019 応戦開始

 恭子達が体育館でギャーギャーと騒いでいる間にも、太陽の率いるパーティーは、爆発のあった山へと到着していた。


 太陽はその手に斧槍を持って十分に警戒しながら山を歩き進めていた。


 そんなとき、後ろからパーティーの副リーダーである、小川祥吾おがわ しょうごが声をかけた。


「太陽。やっぱり少し待った方がいい。俺達だけじゃ危険だ」


「大丈夫だよ。俺達は斥候。敵を確認したらすぐに離脱するだけだ」


「そうだが、すぐ近くに味方もいないんだ。すぐに味方が援護を出来る体制にしておかないと俺達が危険だ」


「だが…」


「太陽。お前が弟が心配なのは分かる。だけど、それで焦って俺らが失敗したら弟さんだけじゃなく、町の皆まで危険さらされることになるんだ。一度落ち着け」


 祥吾の言葉に、太陽は考え込むようにして俯くが、それも数秒のことで、すぐさま顔を上げた。


「そうだね。そうした方がいい。ごめん祥吾。俺焦ってたみたいだ」


「しょうがねぇよ。家族の為に必死になるのは当たり前だしよ!」


 祥吾は気のいい笑顔でそう言うと、思い出したように振り返る。


「今の放送されてないよな?」


「ああ、大丈夫だ。今は違うグループだ」


 太陽の言葉に、祥吾はホッと胸をなで下ろすと、忌々しげに上空に佇むある物を睨みつけた。


「しっかし悪趣味だよな。こんな映像放送するなんてよ」


 祥吾が睨みつけていたのは上空に浮かぶステータスウィンドウだ。ただ、これはステータスウィンドウではない。上空に浮かぶ大きな四角い板には映像が映し出されている。その映像というのが、この町で起こっているイベントの戦闘シーンなどだ。


 すでに多くの攻撃班が町中にポップした魔物と戦闘を開始している。それが、空に浮かぶ大きな四角い板に映し出されているのだ。板の枚数は四枚。大きさは体育館の床よりも大きい。


 しかも、どうやらこの映像はエリア範囲外にも放送されているらしいと言う連絡を太陽はエリア範囲外にいる父親に連絡を受けていた。


 恐らくは、ネットゲームなどで大会がネットで生中継されたりするのと同じ要領なのだろう。 


 先ほどから、映されているのは戦闘をしているところだけなのだ。今のところ、日陰の所は映されていない。と言うことは、日陰の所は戦闘をしていないということだ。そのことに密かに安堵をする太陽。


 満月と真月の所も放送されていないので、あの二人も大した戦闘はしていないのだろう。


「取りあえず、俺達はここで待機だ。皆、周りに警戒をーーー」


「ーーーあれぇ?あなた達プレイヤー?」


「ーーーっ!?」


 突然かけられた声に太陽達は握りしめていた武器を構える。


 その太陽達の動作に、声の主はニヤリと笑った。


 声の主は身長180程の高身長の薄い着流しを着崩した長髪の女。その傍らには、その女よりも大きい二メートルはあろう着流しをきっちりと着込んだ男がいた。


 それだけならば、普通かもしれない。だが、その二人にはおよそ普通ではない要素が含まれていた。それは、彼女達の額には立派な角が二本生えているのだ。


 長身の女は武器を構える太陽を見ると声を弾ませていった。 


「あれ、闘う?闘う?んも~しょ~がないな~!惨鬼、ここは私にやらせて」


「……了解した。俺は先に行くぞ」


「あいあ~い。りょ~かい!」


 惨鬼と呼ばれた長身の男は太陽達に目もくれずに歩いていく。しかも、太陽達の横を堂々と通るという始末だ。


 皆が緊張に体を固めていると惨鬼はフッと笑うと言った。


「安心しろ。今ここでお前達とやり合うつもりはない。お前達の相手は殺鬼だけで充分だ」


 惨鬼のその言葉に嘘はないのか、彼はそう言うと本当にその場を後にした。


「さ~て!惨鬼も行った事だし……やろうか?」


 殺鬼はそう言うと腰に下げた太刀を抜き、構える。


「どうする太陽。コイツ、多分ボスだぞ」


 後ろから声をかけてくる祥吾に、太陽は頷く。


「ああ、そうだな。でも、逃げるのは無理らしい。向こうはやる気満々だ」


「そうね、逃げるなんて無理そうだわ」


 二人の会話に、パーティーメンバーの霧島奈々きりしま ななこがそう言ってくる。


 奈々子の言ったとおり、殺鬼はこちらに殺気をぶつけてきている。


 戦うしかないのであればと、太陽は相手のレベルを確認しようと、相手のカーソルに視線を合わせる。そうして、表示されたレベルに驚愕する。


「う、そだろ……?」


「太陽…?」


「祥吾……ヤバいよ……勝てるか分かんない…」


「なに言ってーーー」


「嘘でしょ…?」


 祥吾が太陽を叱咤しようとしたところで、奈々子も声を出す。


「奈々子?」


「こ、これは……」


 口をパクパクとしているが言葉になっていない奈々子。そんな二人にじれた祥吾は自身も相手のカーソルに視線を合わせる。そして、彼等がなぜこんなにも驚愕をしているのかを理解する。


「は、81……?」


 そう。殺鬼の上に表示されたレベルは81だった。     


 太陽のレベルは64。祥吾は58。奈々子は55。他のメンバーも全てレベル50代だ。誰一人として殺鬼のレベルに追いついていないのだ。しかも、太陽がパーティー内でトップのレベルだ。


 流石に多勢に無勢だと考える者もいるかもしれない。だが、太陽はそうは思わなかった。


 当たり前だが、レベルが違えばステータスが違うのだ。向こうのステータスが高ければ個々の技量だけでは対応できない。八対一という有利な状況で戦っても相手の個人技だけで蹴散らされる可能性がある。それだけ、このレベルの差には大きな溝があるのだ。


「無理だね。撤退しなきゃ死ぬよね…」


 冷や汗をかきながらそう判断する太陽。


 他の皆もそう思っているだろうが、気の抜けない今、反応を返す者はいない。


「でも…ね…」


 そう呟くと太陽は斧槍を構え直す。


「ここで逃げたら…俺の愛する家族が危険にさらされるんだよ…それだけはさせられない」


「へぇ…そ~いうの嫌いじゃないよ。このレベル差を認識して、そう言える度胸もかってあげるよ」


「それはど~も……皆は、逃げて良いよ…これは俺の我が儘なんだからさ…」    

 太陽は殺鬼を睨みつけながらそう言う。その顔にはすでにかなり汗がにじみ出ていた。いつもの飄々とした笑顔も、今では少し強がった風な笑顔に見える。


 そんな笑みをする太陽の背中を祥吾はバシンと勢いよく叩いた。


「いったあっ!?なにすんのさ祥吾!?」


「バカかお前は。ダチ置いて逃げるなんてダサい真似するわけねぇだろうがよ!もちろん死ぬつもりもないし、誰も死なせるつもりはねえ!……生きてクリアするって藤堂ちゃんも言ってしな!」


「祥吾…」


 すると、今度は奈々子が軽くパチンと背中を叩く。


「そ~そ。あんた置いて逃げたら、あんたの双子ちゃんと弟くんに怒られちゃう。可愛い子に嫌われたくないわよ私は」


「奈々子…」


「他の皆も同じみたいだよ?」


 太陽はメンバーの顔を見渡す。彼らの目は一様にやる気に満ちており、誰も逃げることを考えてはいなかった。

 

 思わず太陽はふっと微笑んでしまう。


「そっか…ありがとう、皆」


「いいってことよ」


「ははっ、前から思ってたけどさ、皆って結構バカだよね~」


「「お前もな!!」」


 祥吾と奈々子はそう言うとまた太陽の背中をバシッと叩く。


「そうそう。時々お馬鹿になるよね太陽は」


「ああ、度し難いぐらいにな」


「ま、まぁ、そこが太陽らしいと言えば、らしいところだけどね」


「そうだね。誰かのためにバカになっちゃうだけだもんね」


「君野くん、それって褒めてるの?」


 他の面々も口々に太陽のことを褒めたり貶したりする。


 そのことに若干顔をひきつらせる太陽。


「皆、目の前に敵がいるって分かってる?」


 太陽の言葉に、皆は思い出したように殺鬼に視線を向ける。殺鬼も、ここまで放って置かれるとは思っていなかったのか、構えをとったまま表情をひきつらせている。なんだか、少しだけそのことに申し訳なくなってしまう。   


 だが、そんな太陽とは裏腹に皆は特に気負った様子もなく言う。


「「「まあ、何とかなるでしょ」」」


「お、お前達ね…」 


 先ほどの緊張具合はどこへやら。軽い調子でそう言った皆に、太陽は若干呆れ気味に後ろをちらりと見る。


 だが、太陽の呆れ気味の声にも構うことなく祥吾と奈々子は言う。


「まあ、頼りにしてるよ。リーダー」


「そ~そ。信じてるぞ~」


 そんな軽い調子の二人の言葉に太陽ははあと息を吐く。だが、その顔に呆れは見受けられなかった。それどころか、少しばかりの微笑をたたえていた。


「信じてもらってるなら、頑張らないとね」


 そう言うと太陽は気が抜けて緩んでいた手を握り直す。


「悪かったね殺鬼。待っててもらって」


 太陽の謝罪に、殺鬼は頬をひきつらせながら言う。


「まったくだよ。まあ、こちらとしても復活して直ぐに会った人間を殺すのも勿体無いと思ってたからね………」


「そうかい。それは助かったよ…それじゃあ、始めようか?」


「いや、いい」


「は?」


 戦闘を拒否した殺鬼は、その言葉通り構えをとくと、太刀を鞘に収める。そのことに呆けた声を上げてしまう。他の皆もぽかんとした表情をしている。


「な~んか大分興がそがれちゃったしね~。アタシは気分が乗らなきゃ戦わない主義なの~」


 そう言うと殺鬼は踵を返して歩き始める。  


「あ、でも。次会ったら問答無用で襲うから。楽しみにしててね~」


 思い出したようにそう付け足し、殺鬼は軽く膝を曲げて伸ばし跳躍する。  


「何だったんだ…あいつ?」


 殺鬼の行動に思わずポツリと呟く太陽。それは、多分殺鬼も思っているであろう事なのだが、それを指摘する者は両者には存在しなかった。


「まあ、取りあえずは助かったってところかな?」


「そうだね」


「だけど、結局はあいつとは戦うことになるんだろ?」


「ああ、そうなると思う。一応、九重先生に報告しておこう。それから、俺達も魔物を倒そう」


 太陽が今後の方針を伝えると、皆は口々に了解と返す。


 取りあえず、危機を脱した事に安堵しながら、太陽は今回のイベントがとてつもなく厄介になるだろう事を予感していた。


 殺鬼でレベルが81もあるのだ。もう一体の惨鬼と呼ばれた長身の男もそれと同等かそれ以上のレベルを有していることは間違いなかった。


 いや、多分だが惨鬼の方が強い。なにせ惨鬼は太陽達の相手は殺鬼で充分だといったのだ。それは彼が殺鬼よりも強いと言うことを示している。


 そのことに太陽は知らず知らずの内に顔をしかめる。


 決して今の状況を楽観視していたわけではないが、これはあまりにもこちら側に分が悪いと考えたからだ。


 この町は、比較的にモンスターも弱く、安全なレベリングができるのだ。最高でも40を越えるか越えないかのレベルのものだけだ。それなのに今回の敵は80以上のボスが二体。自分達よりもレベルが上の相手との戦いに慣れていない者が多いだろうこの町では充分にあの二人を相手取れないだろう。


 太陽達のパーティーのレベルは高校でトップクラスだ。そのトップクラスの太陽達ですらあの二人に届かないと悟ったのだ。他の者達では分が悪いのは明らかだ。


 しかも、他の者は多かれ少なかれもうすでにモンスターと戦闘をしているのだ。消耗した彼らでは万全のとき以上に分が悪くなるはずだ。


「皆、急ごう。他のパーティーと早く合流した方がいいと思う」


「そうだな。パーティー一つじゃ勝てそうにない相手だ」


「って、皆そんな勝てそうにない相手に挑もうとしてたの?バカなの?」


「それはお前もだろうがバーカ!」


「ははっ、そうだね~」


 軽口を叩き合いながら太陽達は他のパーティーと合流をしようと動き始めた。 


 



 

「まったく、変な野郎達だったよ」


 木の枝を踏み台にして跳躍しながら、先ほどのことを毒づいている殺鬼。


「せっかく目覚めて最初の会合が、あんな奴らだったとは思わなかったよ」


 彼女は今向かう場所も決めずに、跳躍を繰り返している。ただ、面白そうな予感のする方に向かって跳んでいるので、目的地が無いわけではないのだが、いかんせん勘で進んでいるので面白そうな目的地と言うの曖昧なのだ。結局の所、殺鬼の面白いと思った匙加減次第なので、目的地は彼女の気に入ったところになるのだが、それでもやはり曖昧なものであった。


「まったく。人をほったらかしにして仲良く軽口叩き合っちゃってさ。そりゃあ、やる気もそがれるってもんだよね」


 プンスカ怒りながらも跳躍を続ける彼女は、あることに気付き足を止める。


「んん~?」


 目の上に手の横側を当てよく目を凝らす殺鬼。


 彼女は今しがたまで、山の木々を足場に跳躍をしていた。したがって、彼女は高いところにいる。そのため、彼女は町を一望することができるのだ。


 彼女はかなり目がいいので、町の様子がよく見える。とりわけ、戦闘に特化しているので動くものにはかなり敏感になっている。


 そんな彼女だから気付くことのできた事。


「な~んで人が一方向にしか行ってないのかな~?」


 それに、よく見比べてみれば、町には誘導する人と、誘導されている側の人とで人が別れている。


 そのことに気付いた彼女は、人が向かう方向に目を向けた。そこには見たことのない大きな建物があった。まあ、崩壊世界の者である彼女からしたら、どの民家も見慣れないものではあったが、それでも、普通の民家だと言うことは理解が及んだ。


 だが、今彼女が見ているところは彼女の理解の範疇には収まらなかった。そのことが、彼女の好奇心を大きく刺激した。


「ふふ~ん。これはさっきの野郎達に感謝だね~」


 ニヤリと楽しそうに口元を歪める殺鬼。


「山を降りなくて正解だったよ。そうじゃなきゃ気付けなかったからね~」


 彼女は、口に手を当ててにっしっしと笑う。


「まあ、ゆっくり行こうかな~。人は集まってからの方が面白いしね」


 彼女はそう言うと木から飛び降り、山道を歩き始めた。

 

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