マブダチ春子ちゃんの計画
大好きな人は私の心の支え。
大好きな人は私の心の癒し。
大好きな人は私の心の栄養。
大好きな人はいつしか私の全てになる。
私の学校には異名がある。
≪イケメンスクール≫だ。
誰が考えたのか知らないけど、そのネーミングセンス皆無の示す名前の通りこの学校には美形が多い。
高い身長に爽やかな笑顔、優しい物腰。もちろん舞い降りた天使のような造形。
(なんでこんなにイケメンがそろったのか分からないけど、それにつられてまぁかわいい子もすごく多い。)
その中でとりわけ異彩を放っているのが2年の羽後輝【うご あきら】だ。
その美しさはすれ違う女子が失神するほどだって話だ。
かくゆう平凡代表の私、春子もその失神女子の一人。
そして今日も、輝君で始まり輝君で終わるのだ!
「輝君!ちょっといいかな!!」
「春子ちゃん今日も元気だね。」
輝君は今日も超絶スマイルでお迎えしてくれた。眩しい…!
輝君と同じクラスになれるだけで奇跡だと思ってたらなんと隣の席に。
しかも輝君はこんな平凡な私の名前も知ってて、フレンドリーに話しかけてくれた。今じゃすっかり自他ともに認めるマブダチだ。
これって結構凄いことじゃない!?
「輝君…いつもお昼は購買でしょう?実は春子、お弁当作ってきたんだ…。それで…その…。」
「春子ちゃんの手作り?嬉しいな。貰ってももいい?」
気持ち悪いくらいに真っ赤になってもじもじする私に決して引いたりしない。しかも優しいまなざしに笑顔付。さすがイケメン!
仕込みは昨日からじっくり手をかけて。
朝の4時に起きて仕上げをした。本当に心と気持ちを込めたから1人分を作るのが精いっぱいだった。
だから私のお弁当は母の手作りなんだ。
「………。」
「輝君?どうしたの?え?顔真っ青だよ…。もしかしてお弁当、口に合わなかった…?」
「いや、すごくおいしいよ…ちょっと感動してただけ…。本当に嬉しいよ、ありがとう。」
汗をにじませながら輝君は引きつりながらも笑顔は崩さず完食に向けて箸を進めていく。
決して怒ったりしない、大人な輝君。
次々に彼の口の中に入って行くセロリのおかず。
「輝君、具合悪いんじゃない?ねぇ、無理しないで保健室行こう?」
「え…いや大丈夫だよ?」
「輝君の事だから朝から具合悪いの我慢してたんでしょう?体調悪いなら学校はお休みしなきゃ。」
「う、うん…そうだね、頑張りすぎちゃったな。保健室でちょっと休んでくるよ。」
「私も行くよ!心配だもん。」
そういって輝君の手を引いて前を歩く私には全然気づくことが出来なかったけど。
その時の輝君の顔は本当にとろけそうなほど嬉しそうな顔をしてたんだ。
☆★☆
静寂と消毒液のにおい。
なんだか落ち着かない。
「春子ちゃん…」
飛んでいた意識が引き戻される。
そう、ここは学校の保健室だ。
先生は私たちが来たときには居なかった。お昼かな?
「体調はどう?」
「うん、大丈夫だよ。」
ベットに横になっている輝君の声に気付き、ベットを仕切るカーテンから顔を出せばほっとした顔を見せてくれた。イケメンもそんな顔するんだね。迷子になった子が母親を見つけて安心したような、そんな顔。
「授業は?いいの?」
そう言った輝君は言動に反して手を私にゆっくり伸ばし、そっと包み込むように掴む。
まるで壊れ物みたいに。
「そうだね、そろそろ行こうかな。テストも近いしね。」
掴まれた手をいとも簡単に振り払う。
輝君の目が傷ついたって言ってる。でもすぐに笑ってそうだね、ごめんって言ってくれた。
分かってるよ、輝君。
「輝君なら誰かがノート見せてくれるから心配しないでゆっくり休んでね!」
そういって振り返らずに保健室を出て、長い廊下を歩く。
決して怒らない輝君。優しい輝君。
具合が悪くなるほど嫌いなセロリをすべてのおかずに使用したお弁当を食べても。
寂しい気持ちを踏みにじる、上辺だけ懐く女がまとわりついても。
明日にはきっとまたいつものように笑ってくれる。
輝君は許してくれる。
でも私は許さない。私は決して許したりしない。
私の最愛の魂の半身である弟を追い詰めたこと。
私の全てで後悔させる。
そして今日も彼の弱みを探す。
私の一日は輝君で始まり、輝君で終わるのだ。