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最高の魔法技師は異世界人  作者: 夜桜
第2章 学園編
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009

 

 午前の授業が終わり、昼休みとなる。

 普通の日本の学校であれば、こういった休み時間にクラスメイトから質問攻めにあうということが想像されるが、誠にそれは起こらなかった。

 ただでさえ、このクラスは編入生に対して興味薄で話しかけられそうにないというのに、先ほどあれだけのことをしてしまったせいで完全に浮いてしまったのである。

 そのことを誠は結構後悔した。


(僕、もしかしてこのままぼっちですか……)


 そんなことを思っていた誠だったが、予想外の人物から話しかけられる。


「ちょっといいかしら」


 それは隣の席のナタリアであった。

 彼女は真剣な表情で誠を見つめている。

 誠は女の子にここまで見つめられるという経験がなかったので、かなりドキドキしているようだ。


「えっと、ナタリアさんですよね。何か用でしたか」


 誠はとりあえず丁寧に受け答える。


「クラスメイトなんだから、敬語はいらないし、呼び捨てで構わないわ」


「そう?それじゃ遠慮なく話させてもらうね」


 その様子に、やはり周囲の学生は驚いている。

 ナタリアはこれまで他人と話すことなど滅多になかったからだ。

 その孤高な態度に、だれも話しかけることができなかった、というのが正しい。

 怖いもの知らずの馬鹿な男子が以前声をかけた時には、完璧に無視されて撃沈したらしい。

 そんな彼女が自分から他人に話しかけるというのは、このクラスの中で相当なできことであるのだ。


「それで、何か用があったの?」


「さっきのあなたの理論について聞きたくて。あの理論は誰かに教わったのかな」


「いや、あれは独学というか……。実験しててそれが一番自然な解釈だと思ったって感じかな」


「それじゃあ、元素っていうのは?それも自分で考えたの?」


 この質問には誠も若干困ってしまう。

 異世界から来たことを話すかどうか迷ったからだ。

 セスやサラは話しても問題ないと思うと言ってはいたが、これ以上このクラスで浮いてしまうというのも困るからな。

 悩んだ結果誠はとりあえずの答えとして無難なものを選んだ。


「それはちょっと話すのに時間が掛かる気がするから、とりあえず一緒にご飯行かない?お腹すいちゃって。食べながら話すことにするよ」


 ナタリアは少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに返事をした。


「ええ。わかったわ。学食に行きましょ」


 余程誠の理論のことが気になったのだろう。

 そうして誠とナタリアの2人は学食へ向かった。



 この校舎は1年生用の校舎であり、学食はその1階に位置する。

 因みに誠たちの教室は4階だ。

 この学食は学生は無料で利用できるので、ほとんどの学生が利用する。

 今日も学食にはすでに多くの人がいるが、注文の窓口はクラスごとに別れており、Aクラスの窓口にはほとんど人がいない。

 誠とナタリアに気を取られていたせいであろう。


 誠は肉中心のかなりボリュームのあるAセット、ナタリアは魚と野菜中心のヘルシーなBセットを選んだ。

 2人は席を確保し、食事を始めようとする。


「いただきます」


 誠は日本にいた頃の癖で、手を合わせた。

 その様子を見たナタリアは不思議そうに尋ねる。


「それはなに?」


「ん、ああ。これは僕の故郷に伝わる食事の作法というか、習慣みたいなものかな。食材になった命に対して感謝の意を表すといった意味があるみたい」


「それは素敵な習慣ね。いただきます」


 ナタリアも誠の真似をして手を合わせた。

 その姿を見て誠は微笑む。


(ナタリアって、最初は気難しい子かと思ったけど、根はいい子なんだな)


 誠はナタリアと今後うまくやっていける気がしてきていた。

 2人はそうして食事をとり始めた。

 しばらくは2人とも食べることに気を取られていたが、ナタリアが思い出したように口を開いた。


「そういえば、元素の話!」


「ああ、ごめん。すっかり忘れてたよ。さて、どう説明したものか……」


 誠は少し考える。

 そしてその上で改めて口を開いた。


「とりあえずこの元素というのは僕の考えたことではなく、知識として持っていたというだけかな。あまり詳しいことを話すのは少し難しいんだけど」


「そう。私はそんな考え初めて聞いたわ」


「多分そうだと思う。僕もこのことを知っている人にあったことは全然ないからね」


(この世界では、だけど)


 誠は心の中でそうつぶやく。


「あの水の生成は私でも出来ることなのかな」


「しっかりした知識があればできると思うけど、今のままじゃ難しいかも」


「それはどういうことなの?」


「まず、魔法を発動するためには、その起こしたい現象の発生原理をちゃんと知っていなくてはいけない。ナタリアは水がどうやってできるかわかるかな」


「……わからないわね。そういうことね」


「ああ。そういうことだよ。でもそれさえわかればナタリアにも生成できるよ」


「それは教えていただくことってできるのかしら。……いえ無理よね。そんな世紀の大発見なんですから」


 そう言って悲しそうにしているナタリアだったが、返ってきた答えは予想外なものだった。


「いや、全然構わないよ。そのくらいのことだったらお安い御用さ」


「え、でもそんな簡単に教えてもらっちゃっていいの?」


「もちろん!ナタリアはクラスで一番最初に話しかけてくれたしね」


 誠はそう言って笑顔を向ける。

 そんな笑顔を向けられたナタリアは少し頬を赤く染めている。


「ありがとう。すごく嬉しいわ。今日の放課後とかって時間空いてるかな?もしよければその時間に教えて欲しい」


「わかった。じゃあ放課後に教室に残って勉強会だね」


「うん!本当にありがとう」


 こうして誠にも友達(?)第一号が誕生したのである。

 そのあとも2人は魔法トークに花を咲かせていた。

 あまりに熱中しすぎて、午後の授業に遅れそうになっていたのはご愛嬌である。




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