008
ヒロイン登場です。
ようやく女の子が出せました。
1週間が過ぎた。
今日は誠の入学だが、編入するのにも申請が必要とのことで時間がかかったのである。
特に誠の場合は特待生として学園に入るため、1週間もの時間を要したらしい。
誠は学園長室の扉をノックする。
「どうぞ」
学園長室から誠がこの1週間でものすごく聞き慣れてしまった女性の声が響く。
「失礼します」
誠は学園長室に入ると、そこには当然学園長であるサラがいた。
今日は一段と機嫌が良さそうに見える。
逆に誠は、サラと会った瞬間から表情がこわばり始めたように見える。
「あら、マコト君どうしたの?緊張してるのかなー?」
「い、いえ。問題ありません」
この時、サラは誠が学園に入学することに対してそれなりに緊張しているのだろうと思ったようだ。
だが、実際は違った。
誠は、サラに若干怯えているのだ。
なにせこの1週間というもの、朝から晩まで、それこそ寝る時までサラにベッタリとくっつかれていたのだから。
しかも途中で、サラの年齢をセスにカミングアウトされてからは、おばあちゃんに添い寝されてドキドキしてしまったと頭を抱えたという。
そんな調子であるが、今日から誠も学園の一員だ。
そこで、サラから黒いローブが与えられる。
その時、誠はふと気いてサラに尋ねる。
「学園長、なぜ僕のローブは黒いのですか?学園の中で見かけた人たちはみんな白だった気がしますが」
「サラ」
「……サラさん」
「そうよ。私とマコト君の仲なんだから次に学園長とか他人行儀な呼び方しだらぶっ殺すからね♪」
サラは誠に名前で呼ばれなかったことが不満だったらしい。
「……それで、どうなんです?」
「ああ、ローブね。黒は特待生の証なの。かっこいいでしょ?」
なるほどと誠は思った。
学園にホイホイ特待生がいても困るであろうからである。
「因みに他に特待生は何人程いるんですか?」
「8人かな」
「は?」
誠はその人数の少なさに驚いた。
自分があんな簡単に特待生と決まったのだから、流石にもう少し多いと思っていたのだ。
「分かっていないみたいだけど、あなたは特別よ?そんなホイホイ特待生にしたりしないんだから」
「はあ」
そんな生返事しかできない状態であったが、サラは続けた。
「マコト君が今日から入るクラスは、1年のAクラス。学園は5年間あるのはたしか教えたよね」
「はい。先日お聞きしました」
学園は5年間もの間研究設備を貸してくれるのだ。
素晴らしいと誠は内心思っているのである。
「Aクラスというのはその学年で最も優秀な人間が集まるクラスなの。とは言ってもあなたの優秀さと比べてしまったら皆かわいそうだけど。あなたはこれからこの世界の魔法を引張ていく男なんだから、ここらで一発派手にやってきてね!」
誠は、そう簡単にはいかないだろ、と心の中で呟きつつ苦笑いを浮かべる。
そんな誠を見て若干不服そうなサラであったが次の指示を出す。
「まあいいわ。次は職員室に向かってちょうだい。そこにあなたのクラスの担任がいるから。リゼット先生という方よ」
「分かりました。サラさん、僕を学園に入れてくれて本当にありがとうございました」
誠は深く礼をする。
そんな誠に対してサラは若干照れた様子で返す。
「いや、私は大したことしてないわ。ただセスに頼まれたからよ。それにあなたの知識にも興味があったし」
「それでも、ありがとうございます」
「ああ、もういいから。早く行きな」
「はい。失礼します」
そうして誠は学園長室から出て行った。
「本当にあの子は、いい子なのよね。なんとか力になってあげれるよう頑張らなきゃ」
一人部屋に残っていたサラはそうつぶやく。
誠は知らず知らずのうちにこの世界の人と絆を紡いでいっているのであった。
職員室まで来た誠は、本日2度目のノックをする。
そのノックに対してなんの返事もないが、職員室ならそういうものだろうとしそのまま入る。
「失礼します」
入った部屋は結構広く、教員用の机が50程用意されている。
ただ、そこにいるのは数人の先生だけだった。
そんな先生のうちのひとりが、黒いローブをきた誠を見て席から立ち上がりこちらにやってくる。
「君がマコト・トウドウか?」
「はい。あなたが担任のリゼット先生でしょうか」
「そうだ。これからお前の担任となる、リゼット・フェレ。これからすぐに教室に行き、授業を受けてもらう。問題ないな」
「はい」
誠はリゼットの教師というより、軍の教官かなにかではないかという態度に若干ビビってしまう。
リゼットの見た目は、身長こそ誠より5センチほど低いが、その鋭い目と赤のショートヘアから、女性であることを忘れてしまうほどの威圧感を放っているように感じる。
スタイルはいいが、胸はかなり平らである。
本人はその事をかなり気にしているのだが、周りはその高圧的な態度からそれに気づくことはない。
そんな教官、もとい担任教師のリゼットに連れられ誠は教室に向かう。
「ここで待っていろ。呼んだら入ってこい」
「分かりました」
教室の前までたどり着いた誠はそこで待つように言われる。
リゼットは教室に入っていってしまう。
誠は緊張に包まれていた。
これからどのような人達とどのような時間を過ごしていくのか。
期待半分、不安半分といった感じだ。
だが、覚悟を決めなくてはいけないと腹をくくる。
「今日からこのクラスに編入生が入ることになった。マコト、入れ」
リゼットの声が教室の中から聞こえる。
その声を聞いた誠は、一歩一歩しっかりとした足取りで入っていく。
そして、教壇に立つリゼットのとなりまで行き、着席している学生たちの方へ向き直る。
教室は、後ろの席に行くほど段が上がっていくような形になっており、大学の講義室のような印象を受けた。
学生たちは皆、編入生である誠に注目している。
いや、正確には編入生であることに注目しているのではなく、黒いローブを着た特待生であることに注目しているのだ。
この学園にとって編入生自体はあまり珍しいことではないのだが、その編入生が特待生というのは実は学園始まって以来のことであったのだ。
そのことを誠はもちろん知らない。
「マコト、自己紹介をしろ」
リゼットのその言葉に誠は緊張した面持ちで自己紹介を始める。
「はい。本日より編入することになりました、マコト・トウドウと申します。この学園の名に恥じぬよう、勉学、研究などに励みたいと思います。よろしくお願いします」
クラスの学生は特に反応こそ見せないが、誠にずっと注目している。
(もしかして、ちょっと硬すぎた?ジョークでも交えたほうがよかったのだろうか)
そんなことを考えている誠である。
なんとも平和な頭をしていることか。
「マコト、お前の席は窓際の最後尾の空席だ。席に付け」
「はい」
誠は言われたとおり、教団から見て右奥にある窓際の席に着席する。
隣は女子学生でだった。
しかも誠と同じ黒いローブを羽織っている。
綺麗な水色の髪を肩のあたりまで伸ばしており、その顔は百人いたら百人全員が美人だと答えるであろう絶世の美少女である。
さらに、胸もサラほどではないが、巨乳である。
それでいて特待生なのだから、学園でも相当人気があるだろう。
そんな彼女はこちらを全く気にした様子もない。
誠は若干やりづらさを感じつつも、リゼットが授業を始めたのでそれに集中することにした。
先日サラからもらった教科書を取り出す。
この時間は『魔法理論』という科目らしい。
内容としては、どのような理論で魔法が構築されるのか、そして一般的に使われている魔法に関する知識が主な内容である。
ただ、この世界の魔法に関する認識と誠の魔法に対する認識はずれており、検証実験の結果から誠のほうが正しいことがわかっているため、あまり聞く意味はないように感じた。
しかし、魔法の原理、魔力の定義については研究が続けられており、多様な考えがあるようだ。
その考えはもしかしたら今後の自分の研究に役立つかも知れないと、誠は真剣に授業を受ける。
「では、ここで魔法の原理について数人に考えを発表してもらおうか」
数十分ほど授業を進めたリゼットはそう言った。
その言葉によって、教室に緊張の空気が流れる。
誠としては特に困った問題でもないので冷静だ。
先ほどの自己紹介の方が緊張していたせいか、そのギャップで全く緊張など感じないのである。
「まず、イヴァン・セルラオ」
リゼットが名を呼ぶと、教室の中央付近にいる男子学生が立ち上がる。
「大気中の魔力を使って放つのではないでしょうか」
「30点だな。それに自分の意見も全く入ってないではないか」
そんなリゼットの吐き捨てるような言葉に、イヴァンと呼ばれた男子学生はションボリと着席する。
「次にナタリア・スカーレット。答えろ」
「はい」
誠の隣の女子学生が返事をして立ち上がる。
(ナタリアって言うんだ)
誠はそう思いつつ、隣で立ち上がった少女を見ている。
「魔法というのは、自分の中にあるエネルギーを用いて大気中の魔力に干渉し、放ちます。問題となるのはどれだけそのエネルギーと魔力との変換効率を上げるかというところに行き着くと思われます。一般的には、魔法を放つのに必要なエネルギーを小さくすることはできないという説が最も有名ですが、私は放つ魔法のイメージをどれだけ詳細に持つことが出来るかで効率は上げられると考えています」
「よし、座っていいぞ」
ナタリアは満足そうな表情で席に着く。
そんな彼女の回答を聞いたクラスの学生たちは皆さすがはナタリアだと思っている。
なぜならナタリアはこの学年で最も優秀な学生であるからである。
「それでは最後は、今日編入してきたマコトにやってもらうか」
リゼットのその言葉に、クラス全員がご愁傷様と心の中でつぶやいたことだろう。
なにせ先ほどのナタリアの回答を超えるものなど、自分たちでは答えられないだろうと思っているからである。
だが、彼らはすぐにその考えを改めさせられることになる。
なにせ、誠はこの世界の常識が通用しない男であるのだから。
誠は立ち上がり、回答を始めた。
「まず、この世界では一般的に自分のエネルギーを体外の魔力に干渉しさせて魔法を放つと言われていますが、僕はそう考えていません」
誠のその言葉にリゼットも眉をぴくりと動かす。
「そのためには魔力という概念について考え直す必要があります。僕は魔力はあらゆる元素、そしてエネルギーの代替となる物質か何かであると考えています。元素というのは、この世界に存在する物質を構成する小さな粒子のことです」
その誠の言葉にリゼットが返す。
「つまりこの世界の物質はすべて小さな粒でできていると言うのか」
「はい。ですがそれを確かめることは今はできませんので、そこはそういうものであると考えることにしてください。話を戻しますが、魔力をあらゆる元素、エネルギーの代替となると仮定すると、その魔力を用いることであらゆる物質、エネルギーを作り出すことができることになります。ここで重要になってくるのがイメージです」
ここまでの話についてこれているのは、教師であるリゼットと誠の隣に座っているナタリアだけである。
「ここで、自分の体内のエネルギーを使用することをイメージせず、体外の魔力をエネルギーとして使用するようにイメージすることで、自分は全くエネルギーを使用せずに魔法を放つことができます。魔力はエネルギーの代替となるわけですから。ただ、この世界では自分の体内のエネルギーを使うということが定着してしまっているので、それはかなり困難なことです。しかし、少なからず消費するエネルギーは減らすことが出来るでしょう」
その言葉に、クラス全員が驚く。
誠のいうことが本当であるならばこの世界の常識は覆るからである。
誠は自分の理論を復習するかのように、言葉を紡いでいく。
「さらに、この世界では水を生成する魔法などはできないと言われていますが、この理論に基づけばそれは可能となります。なぜなら、魔力はあらゆる元素とエネルギーの代替となるからです」
「ほう。つまりお前は水の生成が可能だというのか」
「はい」
その言葉にまたしてもクラス中が驚く。
それはナタリアも同じで、あいた口がふさがらないといったところだ。
「おもしろい。では前に来てそこの花瓶に水を生成して見せろ」
リゼットは、教室の前の方にあるガラス製の花瓶を指差し挑発するように誠に言う。
花瓶の中の水は、図ったかのようになくなっていた。
クラスの学生は、流石に口からでまかせだろうとか、できるはずがないと思っている。
だが、誠は余裕の表情でそれに答える。
「先生、ここからで問題ないですよ」
そう言って誠は花瓶に手のひらを向ける。
そして次の瞬間には、寸分の狂いもなく花瓶の中に水が生成された。
「なっ!?」
リゼットは驚きの声を上げてしまう。
学生はというと、驚きすぎて声を上げることもできない。
ナタリアはじっと誠の顔を見つめている。
その表情は真剣そのものである。
「以上が僕の考える魔法の原理です。よろしかったでしょうか」
「あ、ああ。着席していいぞ」
誠はそうして席に着く。
その後の授業は、リゼットも学生も集中できていない様子だった。
(ちょっとやりすぎたかな……でもサラさんには知識を隠す必要はないと言われてるし、問題ないよね?)
クラスで唯一落ち着いているのは、反省すべきかどうかも迷っている誠だけであった。
<訂正>
教室の中にコップがあるというのはあまり自然ではないというご指摘を受けまして、ガラス製の花瓶に変更いたしました(09/08)
今後共ご意見、ご感想ありましたら、是非お願いします!