006
(さてどうしたものか)
誠は悩んでいた。
結局対人戦闘において有効な魔法を考案できずにいたからだ。
ダメだとわかっていながらも電撃の魔法を使ってみたが思っていたとおり出力の調整が難しく、暴発の危険性があるので使えない。
空気の塊をぶつける魔法も、結局威力を落とすことはできなかった。
まさか威力が強すぎて困ることがあろうとは、と誠自身途方にくれている。
(そもそも命を狙ってくる相手に何故手加減をしなくてならないのだ!?)
ついにはそんなことまで思ってしまう始末である。
これはいけないと思った誠は、PCに向かうために部屋に戻った。
こういう時に落ち着くためには、やはり状況を整理するのが重要だ。
今日ここまでに行ったこと、考えたことを文字に起こしていく。
そうしてみた段階で誠はあることに気がついた。
(そういえば僕、鉱物とか生成してないな)
その時誠の中に一つのアイデアが浮かぶ。
早速試してみることにした。
以前水の生成をした時のように繰返し文の簡単なプログラムを作成し、それを保存する。
その後、誠は家の外に出る。
「まずは鉄の生成だ」
誠は保存したプログラムを走らせ、手のひらの上に鉄を生成した。
「よし、これは問題なく行けるようだ。それならこれはどうだ」
誠は少し離れた地面の上に鉄を生成した。
「よしよし。あとはここに熱エネルギーを加えたら……」
誠の思惑はうまくいったようで、鉄の形状が変化した。
その代わりに余りにも熱せられたため周りの地面も形状がおかしくなってしまっているが。
「よし!ただ、鉄の場合は確か融点が1538℃だから人間の方もかなりやばそうだな。もう少し違う元素にすればいけるか」
ただ、ここで問題なのは融点の低い元素は個体の形状で安定しづらいのだ。
「とりあえず発想は悪くない気がするし、しばらくは氷の生成でいくか」
最終的に敵の足元を氷漬けにするということで解決した。
これで身動きは取れなくなるからかなり有効であるはずだ。
「それにしてもこんな簡単なプログラムだけで様々な物質を生成できるというのはすごいよな」
誠はそう思う。
そして、同時にこのプログラムを用いた魔法の術式定着は、あらゆる可能性を秘めているように感じた。
これから先、その研究をする必要が出てきそうだと思う。
(だが、今はそれよりも……)
誠はこの時ある決意をしていた。
――その日の夜
「セスさん、お話があります」
「なんだ。何かあったか?」
セスは心配そうな表情で誠を見た。
なぜなら誠がここ最近見せなくなっていた深刻そうな表情を見せていたからだ。
たった2週間程度の付き合いであるが、セスと誠の間には確かに絆が生まれていたのである。
「僕は、そろそろこの家を出ていこうと思っています」
「……なぜだ?」
「あまり長いあいだセスさんのお世話になりっぱなしというのも良くないと思いまして」
「そんなことなら全く気にしなくていいのだが」
セスはそういう。
本当のところは、セスにとって誠は急にできた孫のような存在で、離れるのが単純にさみしいというのもあるのだが、誠はそんな気持ちには全く気づいていない。
「そういうわけにはいきません。それに僕はこの世界をもっと見て回らなくてはならないように思うんです。それが、元の世界に戻るためのヒントになると思いますから」
「それはそうかもしれないな……。最初はどこに行こうと思っておる?」
「まずはこの国の王都に向かおうと思っています」
「ふむ。それはいい判断だと思う」
セスは少し考えるような素振りを見せたあと、再び口を開く。
「マコト、お主学園に通ってみてはどうだ?」
「学園、ですか?」
「ああ。王都には王立魔法学園と呼ばれる学園がある。そこには十分な研究を行える機関が備えられているし、留学制度もあるから他国の様子も見ることが出来るだろう」
誠はその話に食いついた。
(確かにその環境は僕にとっては最適な環境のように思える)
「その学園にはどうしたら入れるんですか?」
「それなら儂の推薦状を持っていけば編入できるはずだ」
「え、セスさんそんな有名な人だったんですか!?」
(王立の学園に一声かければ編入を認めさせられるって相当すごい人な気が……)
「そう大したものじゃない。儂に協力できることはさせて欲しい。どうかな」
「ありがとうございます。僕は、その王立魔法学園に通いたいと思います!」
「そうか。マコトなら学園でも必ず良い結果を残せると思う。そうと決まれば、明日にはここを出発しよう。久しぶりに儂も王都に出るとするかな」
そうして誠とセスは、明日から王都に向かうことになった。
「そういえばセスさんはどうしてこんな森の中で暮らしているんです?」
「ん、そういえば話していなかったな。儂は別にここで暮らしているわけではなくて、少し気分転換に来ていたのだよ。しばらくしたら王都に戻るつもりだったからちょうど良かったよ」
「そうだったんですか。なら、これからも王都でお会いすることができそうですね」
誠は少し安心していた。
この世界でセスは唯一の知り合いである。
だからこそ何かあった時に彼が近くにいてくれるのはありがたいのだ。
「それに、マコトが歴史的発見などをするのにもさほど時間がかからないような気がするしな。儂はその報告をできるだけ早く受けたいからな。マコトが来てからというもの研究者としての血が騒いで仕方ないのだ。研究者としてもう一度復帰することも考え始めておるよ」
「それはとてもいいと思います!そうしたらセスさんはライバルということになるかもしれませんね」
二人はお互いに笑いながらそんな話をしていた。
これから自分は、数々の発見、数々の発明をし、世界を驚かせるのだ。
そんなことを考えている2人は、新たな生活に思いを馳せた。




