005
誠が異世界に来て2週間が経った。
誠は今日も元気に実験に励んでいる。
今日はセスは用事があるらしく誠1人である。
そろそろ誠としてはこの世界で生き抜くために、自分を守れるだけの魔法を身につけなくてはならない気がしていた。
いつまでもセスに頼っているわけにもいかないというのもある。
この世界に来てから、セスに様々なこの世界の常識を教えられているのだが、その情報を聞く限りこの世界の治安はあまりよくない。
日本という法治国家にいたせいもあるかもしれないが、誠は危機感を覚えていた。
まず、この世界には魔物という存在がいる。
魔物は人間よりもはるかに強い力を持っており、単純な力比べでは絶対に勝てない。
そこで魔法を使って対処するしかないのだが、この世界で魔物に対抗するための魔法として考えられてきたのは火と風、それに土の魔法くらいなのである。たまに川の近くや、魚人族が水を使っているというのもあるか。
ともかく魔物に対抗するためには、魔法を強化していくしかないのである。
また、山賊や海賊といった者たちもいる。
彼らは人であるから魔法を使ってくるのだ。
だからこそ対魔法ということを想定した訓練を積むことも重要であると思う。
なにせ命はひとつしかないのだ。
この世界で生き残り、最終的に元の世界に帰ることを考えるのであれば、しっかりと生き残れるように鍛えなくては。
というわけでさらに実戦で使えるような魔法を開発していこうと思う。
まずは対魔物を意識した魔法である。
魔物というのは基本的に硬い。よってその防御力を上回るだけの魔法をいかにして生み出すかが重要である。
因みにこの世界の人は、火を放ったり、風で吹き飛ばしたりしつつ、少しずつ魔物の体力を削っていくという方法が一般的なようだ。
なぜかといえば、魔法に関する理解が浅く、それを応用できていないものがほとんどだからである。
だが、希に魔法に対してある程度の理解を持った者はより効率的に魔物を討伐できるような魔法を用いているようだ。
例えば火と風の魔法を同時に用いることによる、火災旋風のような魔法がある。
この世界では、火が燃え続ける原理、空気や風のの理解ができているものが多くないどころか、全くいないせいで、このような二つの魔法を組み合わせるというのはかなり高位の魔法師でなくてはできないらしい。
これらのことから、この世界の自分を防衛する手段であるはずの魔法ではあるが、あまり高いレベルの防衛手段となってはいないようであると言える。
さらに言えば、この世界の人たちの魔法には他にも問題がある。
誠の認識では、魔力というのはあらゆる物質やエネルギーの代替になるものとしている。
だが、この世界の人たちの多くは、魔力を用いるためには自分のエネルギーを消費して、そのエネルギーを周囲の魔力に干渉させることで魔法が発動するという認識らしい。
つまり、この世界の人たちは魔法を使うのに、自分の体力を消費しているのである。
これは、魔法のイメージという部分が関わっており、自分の体力を消費して魔法を使うイメージをしているから、実際そのとおり体力を消費しているのである。
さらに言えば、より強い魔法を放とうとすれば、より多くのエネルギーを使わなくてはならず、自分の体力を多く消費しなくてはならないというように認識しているようだ。
これによってこの世界の人たちは、魔法の使用を制限しなくてはならなくなっている。
だが、誠はといえば全く体力を消費するイメージを持っていないために、魔法を際限なく扱うことができてしまったのだ。
これだけで、この世界では異常なことだと言える。
これらのことを踏まえて、誠は考えたのだが、冷静になると現在扱える魔法だけである程度十分にやれるような気がしてきていた。
そこで対魔物のことはここで考えることをやめた。
次は対人戦闘、特に1対多の場合についてだ。
この場合はいかにして敵の攻撃を受けないか、もしくは攻撃を受けてもダメージをが逃せるかが重要である。
この防御というアイデアについては今までの扱えるようになった魔法を組み合わせながら使えばいけそうである。
だが、問題は攻撃に関してだ。
魔物の時は殺すことを前提として考えることができたが、人が相手となると話は別だ。
おそらく自分は躊躇してしまうだろうと誠は感じていた。
(相手を無力化できるような、そう、気絶させるような魔法がいいな)
誠の思考はどんどん深くなっていく。
「ある程度のダメージを与えて気絶を指せるような魔法、それでいて命を奪わない程度の威力か」
これはなかなか難しい問題である。
火の魔法であったり、真空を作る魔法であったりすれば、命を奪ってしまう危険性が高いのである。
だからこそ、新たな魔法を考える必要がある。
(電気ショックのようなものは流石に危険だしな……)
誠が一番最初に思いついたのは電撃だったが、これは調節を間違えると殺してしまいそうだったのでやめておくことにした。
(待てよ……空気圧を与えることで鼓膜を破ることくらいできるのではないだろうか)
誠が次に思いついたのは、鼓膜を破ること。
気絶はしないと思うが、相当の痛みが出て戦闘どころではなくなるはずだ。
(確か平手で叩かれた時などに、空気の逃げ場がなくなり鼓膜に圧力が掛かってしまうために鼓膜が破れるということがあったはず)
誠はその状況を実際に作り出すために思考を続ける。
だが、どうしても人間の耳周辺だけ空気の流れを止めるというのは高度すぎて厳しかった。
もうかなり面倒になってきたので、空気の塊を相手の顔面に打ち込み圧力を与えて鼓膜を破るということにした。
かなり雑ではあるが、死ぬことはないだろうし問題ないだろう。
一度試してみることにした。
誠は手のひらを木の方に向けて、空気の塊を放つ。
放った瞬間、誠はちょっとやってしまったという表情をした。
少し、勢いよく空気の塊を飛ばしすぎたようだ。
すると、木の表面がかなり削れてしまった。
「……これは制御を間違えると結構危ないな」
これでは鼓膜どころか顔面が削れてしまう気がする。
誠の中にどんどん危険な部類の魔法が増えていっていた。
実戦的といえば聞こえはいいかもしれないが、簡単に人が死んでしまうような威力なのである。
誠はひたすらに悩み続けるのであった。
あと少しで1章が終わる予感がしてきました。
2章からはおそらく1章ごとの長さが長くなると思います。
内容の方、どうぞ楽しみにお待ちください。
<修正>
空気の塊を放つ魔法に関して、少し修正を加えました(09/15)