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最高の魔法技師は異世界人  作者: 夜桜
第2章 学園編
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019

 

 30分ほどが経ったところで誠はミーティングルームへ戻った。

 あまり時間をとりすぎても、いい発想は出てこないだろうからである。

 とはいってもいきなり30分というのはなかなかに長い時間のような気もする。

 相談して、アイデアを出せと言われてもなかなか出てこないのが普通だろう。

 だからそう言った誠自身も、そこまでの期待はしていなかった。


「どうですか?いいアイデアは出ましたか?」


 部屋に入った誠は早速2人に尋ねる。


「一応1つ思いつきました」


 誠の問いかけにクリスが答える。

 2人で相談していると、やはり先輩であるクリスがまとめ役になるのだろう。

 それに、能力自体も今はクリスの方が優れているように見える。

 あくまで、()()、だが。

 今はまだ、あらゆる面での能力を見れているわけではなく、理解力などの面だけであるからだ。

 だが、研究において評価すべき点はそれだけではないと誠は理解していた。


「そうですか。流石ですね。では、そのアイデアを聞かせていただいていいですか?」


「はい。私たちが思いついたのは、避雷針のようなものを用いて電気の行き先を指定することです」


「なるほど。それは思いつきませんでした。それにしても、この世界にも避雷針はあるんですね」


 何気ない誠の一言に2人は眉をピクリと動かす。

 そしてクリスが口を開く。


()()()()にも、とはどういう意味でしょうか」


 そしてここで誠は自分がつい口を滑らしてしまったことに気が付く。

 誠が迷い人であるということは、今のところセスとサラしか知らないことなのだ。

 そのほうがいいだろうと誠は考えてきた。

 そのため、他人との距離をある程度とっており、自分の口からそんなことが漏れることもなかった。


 だが、ここにきてナタリアとクリスの2人とは、余りにも距離が縮まってしまったのだ。

 それが誠の心に緩みを生んだ。

 その結果がこれである。

 こうなってしまっては誤魔化すこともできないし、いつかは言おうと思っていたことだと腹をくくり話し始めた。


「少し脱線しますが、話さないわけにはいかないですよね。今まで話していませんでしたが、僕は迷い人なんです」


 誠としては意を決して言ったのだが、聞いた2人は然程驚いてもいないようだ。


「あまり驚かないのですね?」


「はい。私はもとよりそうなのではないかと思っておりました」


「私もよ。だって、マコトってあんまりにも常識が通じないんだもの。誰も知らないこととかものすごく知ってるしね」


 誠は拍子抜けといった様子だ。

 こんなことならもっと早く話せば良かった、とさえも思っている。

 それほどまで2人の反応はあっさりしていたから。


「それに、そんなことでマコトに対する気持ちは変わったりしませんしね」


「ありがとうございます」


「あっ!またクリス先輩抜けがけ!私も何があっても誠のこと大切に思ってるからね」


 ナタリアも強くそう言う。


「ありがとう、ナタリア」


 誠は若干照れている様子だ。

 それを隠すためか、話題を電気の魔法に関するものに戻す。


「それじゃあ話を戻しましょう。避雷針というアイデアはいいと思いますね。電気の魔法を放つ先に、避雷針があれば、電気を放つ先の座標を指定できるかもしれない。ただ、避雷針、この場合は導雷針といったほうがいいかもしれませんね。ともかく、これは確実に雷を呼ぶことができるわけではありません。なので安定した制御は叶わないでしょうね」


「そうですね。それは私も思いました。ですので現実的なアイデアではないですね」


「はい。ですが、位置を定めるというアイデアはいいと思います」


 そして次にナタリアが口を開く。


「そう言ってもらえると嬉しいんだけど、私たちが考えたのは電流の出力を制御するとかではないから、実際にやりたいこととはずれてるのよね」


「そうだね。でもこういう色々な方向から考えることが、新たな発見に繋がったりするからどんどんアイデアは出して欲しいな。それに、制御というのは出力だけじゃなくて、位置の制御も重要だからね。ありがたいよ」


「それで、誠はどういうことを考えていたの?」


「僕は完全に出力の方の制御に関してだね。これは最近思いついたことなんだけど、単純に互いに逆方向に流れようとする電流を合成することで、その差の電流を得る方法かな。二つの電流の大きさをあまり変わらなくすれば、一つ一つが大きくてもうまくいくんじゃないかなと」


「なるほど。確かにイメージ的にはそうなるのかな」


「僕にも実際どうなるかはわかんないんだよね。僕も電気の専門家とかじゃないし」


「これほどの知識があって、マコトは電気の専門家ではないのですか?」


「はい。全くもって。むしろ苦手なんですよね、電気。だからこそ魔法でもうまくいってないんですけどね。でも電気の制御ってしてみたいじゃないですか」


「そうですね。頑張ればできないことはないですよね!」


「はい。そう思います」


「じゃあ、早速実験してみよう!」


 やはりこういう時に元気に引っ張ってくれるナタリアの存在は大きいなと誠は思う。

 そうして3人はミーティングを後にして、実験室に向かった。




「それじゃあ早速やってみますか」


 誠はそう言いつつ、豆電球の片側を接地しておく。


 そしてナタリアとクリスの2人に目で合図し、誠は魔法を発動する。

 魔力によって電荷を生成する。

 次にその電荷の移動によって電流を発生させる。

 その電流は、電荷の移動方向を意識することで、大きさが調整されたものになる。

 ここまでの段階を経て、豆電球に電流を流す。


「やはり、安定感はまだ微妙か」


 誠はつい、そう漏らす。

 豆電球には電流が流れてはいるし、フィラメントが切れるような大電流が流れることもないのだが、光量が安定しない。

 これは、流れる電流の量が安定していないせいだろう。


「ここからは、次のアイデアが必要になりそうだが、とりあえず大雑把な制御はこんなところかな」


 誠のその言葉に2人も頷き、次なるアイデアを出すためにもう一度ミーティンルームへ戻った。



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