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最高の魔法技師は異世界人  作者: 夜桜
第1章 異世界転移編
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001

異世界転移物として、この設定で書きたい衝動にかられてしまいました。

頑張って書いていきたいと思います。

よろしくお願いします。


 

 現代社会で情報技術はとても重要な存在である。

 どの会社においても、SEやプログラマー、プログラムマネージャといった人がいて、ソフトウェア関係の管理をする人材として重宝されている。

 そんな彼らの仕事はハードではあるが、そんな仕事を楽しみにしている人も多い。


 プログラムというのは、自分が記述した内容に対して決められたアクションが返ってくる。

 それも、目に見える確固とした答えが現れるのだ。

 その事に楽しみを覚える者も少なくないだろう。


 彼、藤堂誠とうどうまこともそんな人間の一人だ。



 藤堂誠は真面目な理系の大学生である。

 4回生になってから半年となるが、もはや研究室と自宅との行き来だけが日常となってきている。

 誠の専攻は情報工学であり、プログラムに関する研究を行っている。

 真面目な性格からか着々と研究を進め、それなりの成果を出しているため、教授からの信頼も厚い。

 企業との共同研究を行っていることからも、もう立派なプログラマーと言えるだろうが誠はまだまだ甘いと向上心を燃やしている。


 今日もつい先程研究を終えて自宅へ向けて歩いているところだ。

 すでに日は落ちていて街灯の明かりを頼りに歩きながら、誠は身体を震わせる。

 もう9月も終わるということもあって、夜は割と冷え込むのだ。

 それなのに彼の恰好は半そでのTシャツ一枚に、下は短パン。

 昼間が暑いせいか、なかなか夏スタイルから抜け出せないでいるのだ。

 因みに、9月は大学生にとっては非常に楽しい夏休みであるはずなのだが、真面目な彼は夏休み返上で研究に打ち込んでいる。


「しかし、なぜ処理速度が向上しなかったのだろう。コード生成に問題があったのか、あるいはオブジェクトの数が多すぎるのか……」


 誠は夜道をぶつぶつと独り言を言いながら歩いている。

 それは他人からみたらただただ不気味である。

 彼は一度思考を始めると、それ以外のことが見えなくなってしまうのである。

 先程まで自分の作成していたプログラムのパフォーマンスに納得がいっていない彼は、研究室を出てからもずっとこの調子なのだ。


「だめだ、やっぱりデバッグをしながら考えよう」


 誠は一度諦め、思考を停止する。

 ポケットの中からスマートフォンを取り出し、メールを確認する。

 研究室のメーリングリストのメールが流れていたくらいで、それも特に誠には関係のないものであったので、すぐにスマートフォンをポケットに入れた。


 いつも通りの家路である。

 日常という言葉が最も当てはまるような平和な光景。


 しかし、そんな日常が次の瞬間には崩れることになった。




 大気の流れが変わる。


 大地が揺れる。


 街灯や月の光が、ありえない方向へ屈折していく。


 空気中を伝搬するあらゆる元素も異常な振動を起こす。


 誰がどう見ても異常であり、異質であるその現象は、それまでの日常をすべて壊してしまいそうな気さえ起させる。


 まるでこの世の終わりがそこに現れたかのような状況だ。


 天変地異か。


 あるいは神の悪戯か。


 何にしろその現象は現実として起きている。


 ――空間の歪み――


 そうとでも言えばいいのだろうか。

 この世のあらゆる物質がある一点において異常な反応を示したその現象。


「おいおいおい、なんだよこれっ!?」


 そんな誠の言葉は誰の耳にも届かない。

 そしてその現象は誠一人を飲み込むと、何事もなかったかのように消えた。



 誠には目の前の景色が一瞬にして変わったように見えた。

 その上、重力や気圧などが一瞬で変化した感覚に襲われる。

 あらゆる変化によって誠の身体は危険信号を発している。

 そんな状況を少しでも落ち着けようとし、誠は深く息を吸う。

 しかし、それが仇となった。


「ハァハァ……ハァッ」


 誠は突如過呼吸症候群に襲われたのだ。

 誠は何が起こっているか理解できないまま、意識を失った。




「んんっ……」


 誠は目を覚ますと、地面の上で寝ていた。

 自分の身に何かが起こったことを思い出し、その場にすぐに立ち上がる。


(ここはどこだ……)


 心の中でつぶやく。

 それも当然なのだ。

 そこは森の中。

 しかもただの森というよりは、もはや樹海と言った方がいいレベルも深い森なのだ。


(状況を整理しよう。僕は確か先程まで研究室から家に帰ろうと帰り道を歩いていたはずだ)


 誠は思考を開始する。

 最初に疑ったのは、誘拐。

 だが、実家はさほどお金持ちというわけでもないし、そんなことをされる理由もない気がする。

 しかも、さっき起きたのは目の前の景色が一瞬で変わるというわけのわからない現象だ。

 誠は考えても考えても理解ができない。


 誠はその時思いついたようにスマートフォンを取り出すが、電波がない。

 森の中であるから当然かと思い、次に背負っていたリュックの中を見る。

 その中には自分の研究用ノートPCや、太陽光充電器などが入っていた。

 それを見てひとまずは安心する。

 荷物はなくなっていない。


 さらに思考を続ける。


「荷物を取られていないことからも、やはり誘拐ではないようだな」


 ついいつもの癖で、独り言をつぶやく。

 その声に対して反応する者が近くにいるとも知らずに。


「だれかおるのか」


 誠の耳に誰かの声が入る。

 その声に誠の身体は硬直した。


(もしかして本当に誘拐だったのか!?)


 恐怖する誠の前に現れたのは一人の老人だった。

 背はそれほど高くなく、誠よりも10センチほどは低い160センチ程度に見える。

 白い髪と、あごひげが特徴的である。

 その老人は誠の姿を見て、その顔色を変える。


「まさか、迷い人か!?」


 迷い人という聞きなれない言葉に誠は不信感を覚える。

 誘拐犯には見えない。


「ともかくついてきなさい。日が暮れたら危険だ」


 そう言って老人は誠に背を向けて歩き出した。

 その老人の言葉で誠は従う他に選択肢はなかった。

 このままここにいても餓死するのが関の山だろうと分かっていたからだ。

 誠は警戒を解かず、細心の注意を払いながら老人についていった。



 しばらく歩き続けると、一軒の小屋にたどり着いた。

 どうやらここが老人の家らしい。

 誠は小屋の中に入るように言われ、素直にそれに従う。

 その中は、様々な書籍が散乱しており、家というよりは教授の部屋のように感じた。

 誠の研究室の教授の部屋もちょうどそのような感じだったからかもしれない。


 その部屋に二つあった椅子の内の片方を勧められそこに腰かける。

 老人ももう片方椅子に腰かけ、話を始める。


「まずは自己紹介をしよう。儂の名はセス・コートニーと言う。一応昨年までは王都で研究者をしておった。セスと呼んでくれて構わない」


 外人だろうかと思いつつ、誠はまたしても王都と言う聞きなれないワードに反応してしまう。

 だが、今はこのまま話を進めた方がいいだろうと判断し、自分の自己紹介もする。


「藤堂誠です」


 誠は出来るだけ感情を表面に出さないように取り繕いながらそう言う。


「トウド……ウ……マコト……」


 セスはとても発音しにくそうにしている。


「誠でいいですよ」


「そうか。マコト、お前にはいくつか聞きたいことがある」


 セスはそう言って質問を始めた。


「まず、お主はどこの出身だ」


「東京です」


「……ケレス王国という国名に聞き覚えは?」


 そんな国名は誠の記憶にはなかった。

 そんなことを尋ねてくるセスに対して疑問を覚えながらも答える。


「ありません」


「そうか」


 セスは考え込むような素振りを見せる。

 そして数秒間固まっていたかと思うと、その口を開いた。


「いいか。落ち着いて聞いてくれ。この世界はおそらくお主が暮らしていた世界とは異なる世界、つまり異世界だ」


「…………は?」


 しばらくの間、その場は沈黙に包まれた。



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