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ちょっと飛びました。
×××○年 八月十日
夏休みに入って十日が経った。
さすがに休みの期間なので、ここ数日は観察日記もただの日記になっているし。
……とは言ったものの、今のところは普通の日記のなかに、ゲーム登場キャラの話を入れたり入れなかったりしてただけだから、元々観察日記とは言えないけど。
観察日記としての本番は来年の夏休み終わりからになると思ってるし。
さて……正直、今日は暇だった。
なので家でゴロゴロしていたら、母と姉ちゃんの会話で、姉ちゃんが俺を買い物に付き合わせようとしているのが聞こえてきた。
ソロッと散歩に出ることにした。
姉ちゃんもせっかくの大学生なんだから、買い物くらい彼氏でも作って一緒に行けばいいのに。
――昔……前世からそうなのだが、どうも夏休みとかは学校の奴とは会いたいとはまったく思わなかった。
何と言うか……こう、夏休み明けに、久しぶり! みたいな空気が好きだったのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えながら散歩していると、
「お」
「よう」
偶然、緋山と会った。
どうやら緋山も暇らしく、そのまま緋山の家で遊ぶことになった。
そして緋山家に着く。
――……昔(前世)のゲームで見た家の外装と全く同じだった。
ちょっと感動してしまった。
緋山の家に入ると、彼の妹がだらけきった格好で出てきた。
――……あー、そういえば、そんなキャラだった。外面よくて家ではダラダラー的な。
「お兄ちゃん、おかえりー。おかえりついでにアイス買ってきて―……って、あれ!? お、お友達!? ちょっ! お兄ちゃん!! 友達連れてくるならゆってよー!」
そう言って妹さんはバタバタと自分の部屋に戻っていった。
「すまんな」
と緋山に苦笑いで謝られた。
いえいえ、だらけきった美少女を見られたのは役得ですから。
そして緋山の部屋、三人でゲームとかをして(途中でしっかりとした服に着替えた妹さんもゲームに参加しだした)一日が終わった。
帰るとき緋山が「コンビニに行くついでに送るわ」と言ってきたので、「イケメンかっ!」と思いつつ、送ってもらうことにした。――俺は方向音痴なんだ。
緋山家を出て少し歩いたところで、たまたま通りかかった緋山の幼馴染、『春風美鈴』さんと出会った。
すると緋山は突然、「み、美鈴。そ、その、少し、は、話せないか?」と若干緊張気味に言い出した。
突然どうしたかと思った。
そして同時に「どもりすぎ」とも思った。
――俺はこの時まで緋山はコミュニケーション能力が高いと。さすがはギャルゲー主人公だと思ってた。……女子は別なんですか……。
残念ながら春風さんはどう見ても急いでいる様子で、鞄は近くの塾のものだった。
当然春風さんは「ごめん、遥人。急いでるんだ」と言って駆け足で去ってしまった。
まあ、そうだろうな。
と思い、緋山を見ると、
「やっぱり、来年の九月以外はルートには…………」
そう、呟いていた。
――一瞬、ルート関係なく、今の状況と緊張しすぎのせいだよ! とツッコミそうになったが、こらえた。
それで、俺が「ルート?」と聞くと、びくりと体を揺らし、どもりながら、
「あ、え、あ、いや、数学の事。うん。宿題まだ終わってないからさ。そのこと考えてた」
と答えた。
――んな訳あるかいな。
とは思ったが、とりあえず「ふーん」と流しておいた。
……てか緋山め、春風さんと会ってから今の短い時間で俺の存在忘れてたんだ。
その後は途中まで雑談をしながら帰った。
今、改めて考えて、『ルート』という言葉や『来年の九月』と口走ったことから、もしかしたら緋山も前世の記憶があるのかもしれない。
……それもここがゲームの設定が元になっていることも知っているということは、俺と同じ世界で死んだ人、なのかもしれない。
よく考えると、自分の存在がある以上、他にそういう境遇の人がいても、おかしくないだろう。
ただ、春風さんとは緊張しながら話していたが、東野とは戸惑いなく接していたところを見ると、俺とは違い、『キメわん』の記憶はない、もしくは『キメわん』自体を知らないんだと思う。
うーん、どっちにしても、もう少し調べる……もしくはしっかり観察をしてた方がいいのかもしれない。
なんにせよ、ここにきて『キミだケに』の主人公が、原作の記憶もちかもしれないという面白い事例が発生したわけだ。
緋山は誰エンドを目指すのか、原作にはないハーレムエンドを追い求めるのか、はたまた原作キャラ関係なくひっそり暮らすのか。……自分から春風さんに話しかけてたからそれはないか。
とにかく正直楽しみで仕方がない。
小説のネタ探しがメインのつもりだったが、今は若干どうなるのか観察するのが楽しみになってきた。
早く来年の九月にならないかなぁ。
もしかしたら、『キメわん』の主人公も記憶もちだったりして……。
×××○年 八月二十一日
家に藤原さんが来た。
夏休みの宿題の仕上げを手伝うことになっていたからだ。
そしたら姉ちゃんがものすごく驚いてた。
そして、何やら藤原さんを上から下まで観察しだした。
ちょっと怖かったので、そそくさと部屋に入ることに。
宿題の方は、もちろん写させるのではなく、一通り自分でやってもらって、わからないところの解き方のヒントを教えるという形をとった。
安直に答えを聞かないあたりは、高校入学直後の東野とのやり取りが相当効いているようだ。
勉強を始めて二時間ほどで、藤原さんの宿題も終わった。
その後は、適当に雑談したり、ゲームをしたりして過ごした。
若干外に遊びに行きたそうな顔をされたが、暑いし、お金もないので何とか家で我慢してもらった。
お詫びと言ってはなんだが、自分でもできる簡単なお菓子を作ってみた。
姉ちゃんがその様子をじっと見ててやりづらかった。
藤原さんにはものすごく喜ばれた。
やはり我思う――お菓子の力は偉大なり。
夕方、藤原さんの帰宅時、今度は四葉さんと一緒に来る、と言われた。
――ちょっと待って、おかしい。
そういう前に彼女は帰ってしまった。
……藤原さんと四葉さんはいつ仲良くなったのか。
と言うか、なんで今度は四葉さんも一緒なのか。
そもそも何故次も家に来ることになっていたのか。
本日は混乱のまま一日を終了させていただきます……。
おやすみなさい。