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×××○年 五月十三日
今日は東野と緋山と中間テストの範囲の予想も兼ねたミニ勉強会をやった。
最初は東野と二人でやる予定だったのだが、そこに緋山も頼み込んできた。
東野が断るかと思っていたが、実は意外と緋山の成績も悪くなく、緋山は緋山で、俺のやり方を見て、東野との接し方を大体掴んだようで、東野も緋山なら問題ないと許可した。
さすがギャルゲーの主人公と言わざるを得ない。
勉強会はなかなか有意義なものになった。
放課後は部室に行った。
本当は既に部活は禁止になっているのだが、部活ではなく落ち着いて勉強ができるところがほしいと、頼み込んで許可をもらったのだ。
日頃の成績の賜物である。
そして、部室で今度は藤原さんと勉強会。
文芸部に入ってもらうときに言った、特典として勉強を教えるというのを実行に移しているということだ。
しばらく勉強をしていると、突然部室のドアが開いた。
誰かと思えば、ここの幽霊部員だった。
奴はいきなり、入学当初から目をつけていた美少女を見に行こうといい、断る俺を無理やり引っ張っていった。
抵抗はしたが意外と力が強く無駄だった。
道中奴が聞いてもいないのに現在の状況を話し出した。
入学当初から可愛いと噂の女子は三人いた。
その中の二人は、四月の段階で既に見に行ったとのこと。
残りの一人はどうやら病気がちで、中々学校に来れなかったが、今日は来ている。
で、俺を拉致った。
ちなみに何故俺を連れてくのかと聞くと、一人で行くのがさみしいからだと言われた。
死ぬほど殴りたかった。
幽霊部員に言われて、そういえばそんなキャラが『キミだケに』にいた気もする。
そのままその子のクラスまで連れてこられたが、そこに目的の人物はいなかった。
当たり前だ。
もうすでに放課後。病気がちなのであれば、すぐに帰宅しただろうに。
そう伝えると、ものすごく肩を落としながら、幽霊部員は去って行った。
――……そんなにか?
幽霊部員と別れて、どっと疲れた俺は、ゆっくり歩きながら部室に戻ることにした。
戻る途中、保健室の目の前で女子が倒れているのが目に入った。
何故そこで力尽きてる!?
内心そうツッコミながら、その子を支えて保健室に入る。
もしかしたら保険医の先生がいなかったから、そこで倒れてたのかと思ったが、普通にいた。
先生もこの状況に焦るかと思ったが、思いのほか冷静に対応された。
もしかしたら良くあることなのかもしれない。
そしてその女子を先生に預けたところで、女子が目を覚ました。
その子が先生と俺を見てボンヤリしていたので、あらかたの事情を説明した。
彼女は、申し訳なさそうな顔つきで謝ってきた。
丁寧に謝られてしまったが、基本的には目の前の保健室のドアを開けただけなので気にしないでほしかった。
その子は四葉阿澄と言う名前だそうだ。
そこまで聞いて思い出した。
四葉阿澄も『キミだケに』の攻略キャラだ。
えーと、病気がちであまり学校には来れず、来たとしても保健室の常連になることの多い子だった……ような気がする……多分。
確か、ゲームでも彼女の教室での出現率はとても低く、ほとんどが保健室か下校中に遭遇するキャラだったはず。
彼女の家は歴史ある家柄で、彼女自身箱入り娘として大事に育てられてた設定だ。
その儚げな容姿と庇護欲を刺激する性格で人気のキャラだった。
うむ、幽霊部員が見たがってたのは間違いなく彼女だな。
残念ながら教室にいないことの多い子だぞ、彼女は。
……そういえば、教室の出現率は低いが、重要なイベントはたいてい教室で発生していたので、彼女もまた攻略の難しいキャラだったはずだ。
軽く自助紹介したところで、部室に藤原さんを残しているのを思い出し、早々に保健室を出ようとしたところ、
「これも何かの縁だから、お前さんも四葉と仲良くしてやってくれ。そしてついでに私がいないときにこういうことがあれば、面倒を見てやってくれ」
と保険医の先生に言われてしまった。
先生がいないときは俺が看病するのか? ……とは思ったが、断るのも変な話なので、了承した。
すると四葉さんに「まあ、私の三人目のお友達です」と言われた。
……それは高校に入ってからの話?
結局俺は、その発言は聞かなかったことにして、保健室を後にした。
部室に戻ると、藤原さんにものすごく冷たい目で見られた。
おかしい。
俺は拉致られただけです。
帰りが遅くなったのも善意の結果です。
その後は勉強よりも俺が謝り続けることになった。
……ま、まあ、理由があっても待たせ続けたのは悪いことだしね。
明日は、今日のお詫びにこっそりお菓子でも持っていくとしよう。うん。