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×××○年 五月二日
ゴールデンウィーク直前の平日の放課後。
今日部室に生徒会役員達が来た。
別に何か問題があったわけではなく、ここに蒼月先輩が顔を出してないかと聞きに来たのだ。
つまり来たのは、だいぶ前にも日記に少しだけ記した、天野先輩だった。
天野先輩――天野霧彦は、『キメわん』の際には生徒会長だった人だ。
責任感が強く、常に正義を求める人だったが、時に行き過ぎて、ただ正論を振りかざし、ゲーム中でも主人公にアプローチをかける他のキャラともめることの多かったキャラだ。
蒼月先輩とは幼馴染で、面倒くさがりの蒼月先輩の叱る場面がよくあった。
仲はすごくいいようだが。
今回も例のごとくその蒼月先輩が学校内で見えないから探しに来たそうだ。
どうやら同じクラスではないらしい。
とりあえず聞かれたことは答えて差し上げた。
蒼月先輩は二十六日――先週の金曜日の段階で「明日からゴールデンウィークだ」と呟いていたと。
それを聞いた天野先輩は「あのアホがぁ……!」と低い声で唸っていた。
俺は笑いをこらえるので必死だった。
「ちょっといいかしら?」
その時もう一人の生徒会役員が声をかけてきた。
部室を訪れた役員は天野先輩だけではなかった。
それは『キミだケに』の登場キャラの『桐野真帆』先輩だった。
桐野先輩もゲームでは責任感が強く、キッチリした先輩で、『キミだケに』の世界では生徒会長だった。
性格は少し硬いところがあり、友好度の上昇数もかなり少なく、攻略するには少し根気のいる先輩でもあった。
それでいて他人の恋愛事には興味があって、誰かの恋の応援をするために策を練ることもある世話焼きな面もある人だった気がする。
そして確か、校則を第一に考えており、学校が大好きな人だったはず。
よく考えると、俺が中々女子と仲良くなるきっかけがなく、気付けば『キメわん』のキャラとばかり接点を持っていたので、主人公の緋山を除けば、初の『キミだケに』のキャラとの接触だった。
桐野先輩は新しく出来たばかりの文芸部の活動内容の確認のために、ここに足を運んだらしい。
天野先輩はそれのついでに蒼月先輩を探しに来たのだとか。
俺は以前に作っていた、活動内容のまとめを出し、桐野先輩に渡した。
何も準備してなかったと思われていたのか、目を見開いて驚かれたが……。
桐野先輩は一通り目を通し、軽く微笑みながら、「よく出来ているわ」と褒めてくれた。
活動内容はそこまで多くなかったので若干不安だったが、よかった。
桐野先輩は真面目な人間は好意的に見てくれるようだ。
悪い印象を持たれなかったようでホッとした。
そして二人はこれからもがんばってくれ、とエールをくれ、部室を後にした。
……しかし、二人とも今――と言うか、今年の段階では生徒会副委員長の地位にいるらしいんだが。
来年設定では両方とも生徒会長になる予定だ。
こんなところでも出てきた二つの世界が混同することの弊害。
結果がどうなるのか、結構楽しみだったりする。
ただその日部活に来ていた藤原さん(名前だけ貸してくれるのかと思ったが、藤原さんは意外と部活に参加してくれていた。……もう一人は完全に幽霊だが)に、デレデレしていたと、ちょっと怒り気味に注意されてしまった。
そんなつもりはなかったが、美人に褒められて気が緩んだか……気を付けなければ。
多少仲良くなろうとは思っているが、恋愛に持ち込むつもりはさらさらないのだ。
主人公もいるしな。