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ギャルゲー乙女ゲー観察日記  作者: 蛇真谷 駿一


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とある玉井君の観察


 文芸部。

 僕が入部した部活。


 元々文を読むのは好きだったけど、文を書くのは別だったので(作文は嫌いだった)、文芸部に入るつもりはなかった。

 でも、ある人と親しくなれたらいいなと思い、入部した。



 そしたら意外と文を書くのが面白くなっていた。






 部室に入ると、部長と最近任命された副部長が先にいた。

 なにやら副部長が額を押えながら小さく唸っていて、部長が困った様子で、その周りをウロウロしていた。


 ……………………。


 状況的になんとなく面白くなりそうだったので、観察してみる。


 部長たちからは見えない場所に陣取り、万が一覗いていたとバレないために、小説を持っておく。

 何かあったら、本に集中していて、何も聞いていなかったということにしよう。



 隠れてみていると、副部長がゆっくりと部長に話しかけていた。

 耳を澄ませてみたけど、あまり大きな声で話してるわけじゃなかったので、断片しか聞こえてこなかった。


 …………でも断片で大体わかった。


 昨日の文化祭――しかも後夜祭の話だ。

 この学校の後夜祭の暗黙のルールみたいのは僕も知ってる。

『後夜祭参加は、基本恋人同士で』

 絶対的なルールではないけれど、なんとなく毎年そのルールにのっとって後夜祭が行われてきた。

 僕もいずれは……と考えている。


 それはさておき、部長と副部長も昨日の後夜祭に参加したという話を風の噂で耳にしていた。

 それを聞いたときは、僕自身――やっぱりか。とは思った。

 だから大して気にすることはなかったけれど、今少し聞こえた話で、一つ思い出した。


 部長は、好意に――それも、異性からの好意に圧倒的に疎いということだ。


 副部長が以前から部長の事を恋愛感情で見ているのなんて、すぐに分かった。

 はっきり言って結構わかりやすいくらいだ。


 でも部長は気づかない。

 と言うか、好意には気づいているとは思うけど、それは同じ部活の仲間として、同級生として、友達としての好意と思っている節があり、恋愛感情とか頭にない感じだった。


 とはいえ僕も、さすがの部長も昨日の後夜祭で気づいただろうと思っていた。


 けど、盗み聞いた感じだと、どうやら違ったらしい。


 部長はどうやら、昨日副部長と一緒に行ったの後夜祭も、ただ友達と一緒に行った感覚しか抱いていないらしく、副部長を愕然とさせていた。


 普通は異性からこの学校の後夜祭に誘われた段階で、それは告白になる。

 だから副部長もそういう意味で部長を誘った。

 でも部長は暗黙のルールも知らなかったし、告白されたなんて全く思っていない。


 そして今、その事実を知った副部長が涙目になっていて、部長が困ってると言うわけか。


 鈍感な部長が悪いのか、しっかりと告白の言葉を口にしなかった副部長が悪いのか…………部長だな。



 さて、ここまで観察しておいてなんだけど、そろそろお暇したい。

 だって今の状況を理解した副部長が、少し悩んで、今、何かを決意したような顔をしてたからだ。

 ……このままいったら、告白の現場に居合わせてしまいそうだ。

 さすがにそれは気まずい。


 そして副部長が何かを言おうとして口を開いたとき、


 ガチャ!


「おはようございますー」

 救世主が現れた!

 瀬戸さんだ!

「あれ? 部長と藤原さんだけですか?」


 幸い僕のいる場所が入り口からも死角になっていたらしく、瀬戸さんにも気づかれてない。


 僕はこっそり入り口のそばに行き、わざとガチャ! と音を立て、挨拶をした。


「あ、玉井君! おはよ」

 女神!!


 その後は特に何事もなく、部活動が開始された。



 時間がある程度過ぎ、今日の部活は終わりになった。

 すると、タイミングを見計らったように、

「こんにちわー」

 と瀬戸さんの友達の緋山さんが入ってきた。


 瀬戸さんと一緒に帰るのかな? と思っていると、


「友達さん!! 一緒に帰りましょう!!」

 と部長に言い放った。


 少し驚いた表情の部長と瀬戸さん。

 だけどそれ以上に驚いていたのは副部長だった。


 そして焦ったように、私と一緒に帰るからダメ!! と言い出す副部長。

 そんな副部長に若干食って掛かる緋山さん。

 それを宥める瀬戸さん。

 部長は訳の分からなそうな顔をしている。

 ――この期に及んでまだ気づかないか、あなたは。


 ちなみに僕は傍観。


 傍観してみて感じたのは、どうやら、緋山さんも部長に好意を抱いているのでは? ということ……。

 つまり……三角関係……?

 なんだかんだでモテモテだな、うちの部長!


 若干羨みつつ、なんとなくボーっと部長たちの様子を観察していると、最終的に三人で一緒に帰ることになったらしい。

 部長の出した苦肉の策っぽい。


 そして三人は部室を出て行った。

 残ったのは僕と、苦笑いの瀬戸さん。


 瀬戸さんに事情を聴いてみると、ほぼ予想通りの答えが返ってきた。

「あはは……見てたからわかったと思うけど、菜月ちゃんも部長の事……ね」


 その後も少し話をして、瀬戸さんも帰宅していった。


 一緒に帰ろう……とは言えなかった。情けな。

 ……僕も帰るとしよう。



 僕の事はともかく、とりあえず、次僕が書く長編小説は、鈍感男子と同級生女子と後輩女子の三角関係恋愛ストーリーにしようと思う。



 ――――部長、すみませんがそのために観察させていただきます。




 ……何だったら観察日記として書き記そうかな……。




もう一話あります。

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