文化祭翌日 緋山遥斗 その二
光と二人で登校中、菜月に俺らの情報をリークした張本人と遭遇した。
そのことを問い詰めてみたが、なんか、のらりくらりと躱されてしまった。
その後は三人で少し話しながら一緒に登校していたのだが、学校が近づいてきたあたりで「じゃ、俺は馬に蹴られたくないので」と言い残し、一人さっさと学校に行ってしまった。
「なんだあいつ……」
「あはは……今時馬に蹴られるーとか言う人いるんだね」
一通りあいつを笑った後、ちょっとした沈黙があって、光が視線を彷徨わせてから、少しためらいがちに聞いてきた。
「あ……う……は、遥人さ、いっつもお昼って学食か購買でパン買ってたよね……?」
「ん? ああ、うんまあ大体。たまに気まぐれで菜月が弁当作ったりもするけど」
「え!!? …………ち、ちなみに……今日は?」
「今日は学食にしようと考えている。そして、日替わり定食かラーメンにするか悩んでいる」
「そ、そうなんだ…………えっとさ」
「うん?」
光は何やら深呼吸を一つした。
「えっとね! う、うち、今日おべんと作ってきたの! は、遥人の分も!! ……その、迷惑じゃなければ、貰ってほしいんだけど……」
そして真っ赤な顔をして俺に言ってきた。
えっと、それは、俺ためにわざわざ作ってきたってこと?
…………なにそれ超嬉しい。
菜月や美鈴が作ってくれたこともあるけど、それとはまた別の嬉しさだ……。
こんなマンガみたいな嬉しいことが現実に起こっていいのか!?
いやまあここも似たような世界だし、俺も主人公ではあるし。
とまあ、こんな感じに、あまりのテンプレな出来事に混乱してしまったわけだ。
で、少々黙りすぎたせいで、光に不安な思いをさせてしまったらしい。
「ぁ……ご、ごめんね! 何も言わずにこんなことして! 大丈夫! うちこう見えて結構大食いだから――」
「あ、いや! 違う! あまりの嬉しさに絶句してた!!」
「ふぇ!? あ……そう、なんだ!」
「ありがとう、光。ものすごく嬉しい。もう……昼休みが楽しみで仕方ない」
「ちょ、そんなに期待しないでよ!?」
「いや、パティシエを目指す光が、たとえお菓子以外とは言え、料理が下手なわけがない。さらにわざわざ作ってきてくれるということは、俺への想いもすごく詰まっているに違いない」
「ものすごく勝手にハードルを上げられた!!」
「はははっ、でも光の事だから、ちゃんと気持ち込めて作ってくれたんだろ? 絶対うまいに決まってるじゃん」
「うぅ………………じゃあ、期待……してて?」
「りょーかい。…………いやー……とりあえず早く授業終れ」
「ふふ! あははは! まだ授業始まってないよー」
そんな感じに、楽しく話しながら学校に入り、クラスのドアを開いた。
…………………………。
そしてとりあえず閉めた。
「? 何で閉めたの?」
「……開けたらわかるよ」
俺はクラスの連中を見て反射的にドアを閉めてしまった。
俺に言われて光もドアを開け…………閉めた。
「………………入りづらい」
「だよな。……まあ、いつまでもこうしているわけにもいかないし、入るか」
「うん……」
意を決して二人で教室に入る。
……クラス全員が俺たちを見てる。
しかもそろって微笑ましいものを見るような顔だ。
これは……かなり恥ずかしい……。
いや、これも一種の祝福だということは分からないでもないが……いやダメだ、これはダメだ。
最終的に俺と光の二人で、
「「その顔止めろ(て)」」
と声をそろえて言う羽目になった。
そしたら全員が声をそろえて『はーい、すみませんでしたー』と謝ってきた。
なんだその変な連帯感は。




