文化祭翌日 緋山遥斗 その一
お久しぶりですね。
番外編に二つ目です。
俺は昔……死んだ――んだと思う。
大学生だった俺が、うっかり階段から足を踏み外した。
で、目が覚めたら赤ん坊だった。
俗にいう転生と言うやつだと思う。
昔(死ぬ前)にその手の小説を読んだことがあったから知ってる。
で、成長していくにつれ、幼馴染の女の子が、ゲームのキャラで、自分の名前が主人公の名前ではないかと気づいた。
そのことから、ここがゲームの世界だと思った。
だが、高校生活を送るうちに、たとえゲームキャラの名前がついていても、それはキャラクターではなく、生きている人間なんだと理解した。
と言うか気づくのが遅かったと自分でも思う。
ゲームキャラ以外をモブと思うとか、ほんとに失礼だ。
ここは多分、ゲームの世界ではなく、ゲームのキャラが生きる世界なんだと思った。
考えを改めて、高校生活を謳歌しているうちに……好きな女の子が出来た。
それはゲームうんぬん関係なく、普通の夢を語る女の子だった。
そして、昨日の文化祭で、とうとう俺は……その子に告白し、付き合うことが出来た。
「付き合うまで何だかんだでいろいろあったなぁ……」
学校に行く準備をしながらボンヤリそんなことを考えていたら、妹の菜月が声をかけてきた。
「おにーちゃーん!! お客さーん!」
誰かと思い玄関に向かうと、
「えと……お、おはよ」
「うぇ!? あ、え、お、おはよう」
そこにいたのは、星海光さん――つまり……俺の彼女だった。
やばい……。
朝、彼女が迎えに来るとかめちゃくちゃ嬉しい。
嬉しさに悶絶する俺と、気恥ずかしいのか顔を赤くして黙っている光。
そんな姿もまたかわいい……などと考えていると、
「お兄ちゃん、彼女さんが迎えに来てうれしいのも、恥ずかしがってる彼女さんを見て可愛いとか思ってるのも分かったから、さっさと準備終わらせて来たら? いつまでも待たせてるわけにもいかないでしょ」
菜月が呆れたような目で言ってきた。
「うぉお!? お、おお! そうだな……って! なんでお前が光の事を知って!?」
そして何故俺が考えていたことも分かった!?
「お兄ちゃんの事は友達さんから昨日メールで教えてもらった。……それと考えてることは顔に出過ぎ」
やれやれといった表情のまま言う菜月。
……そんなに顔に出てたかな……。
「っていうか……うおぉぉぉぉ……あいつの情報かぁ……!!」
菜月の言う『友達さん』と言うのは俺と仲のいい友人の事。
んで、菜月とも仲のいい友達である。
高校入って初めて家に遊びに来た友達があいつだったから、気が付けば菜月はあいつの事を『友達さん』と呼んでいた。
そして何故かそのルートから俺の恋愛事情が妹に漏れてしまっている。
妹と友人の間の関係性について。
……なんか新しいラノベタイトルみたいになった。
等と考えていると、俺と妹のやり取りを見ていた光が笑いながら話しかけてきた。
「あはは……なんだかんだでうちもいろいろ相談したりしてたから、確かに実は結構、情報通な人物なのかもね」
「光も!? 俺もあいつに(流れでうっかり)相談したことあるぞ」
「そして時を経て最終的に私が知ることになるのです」
ドヤ顔の菜月。
何故だ。
「ちくしょー……てかあいつだって昨日で彼女出来たんだし、俺と同じ境遇だろうが。何故同志をおとしいれるぅ……」
俺の言葉にドヤ顔だった菜月がこころなしかムッとしたような様子で、
「違うよ」
と言った。
「?」
「え? 違うって?」
俺の疑問と光の質問に答える菜月。
「友達さんは誰かとお付き合いしたわけじゃないですよ」
「え、でも昨日後夜祭に女の子と二人で出てたぞ」
「うん……あれはー……三組の藤原さんだったと思うけど」
俺と光が昨日の事を思い出しながら言うと、
「昨日メールで聞きました。後夜祭には誘われたけどお付き合いはしてないそうです。告白も特にされてないとも言ってましたし、友達さん本人的には後夜祭に出てるリア充を羨んでたら、同情して誘ってくれたー……と、思ってるみたいです」
と言われてしまった。
俺と光はそのあり得ない答えにポカーンとしてしまった。
その状況でどうしてそんな考えにたどり着くのか……。
そんなテンプレみたいな鈍感ほんとに存在してたのか。
てかアホだ。
「てかアホだ」
おっと、つい心の声を漏らしてしまった。
「うん、アホだとは思う。でも友達さんっぽいとも思う」
菜月は俺の言葉に少し頷きながら言った。
光も事態が呑み込めたのか、若干苦笑いで言う。
「でも、藤原さんからしたら……もう告白した気でいるんじゃ……」
「あー…………」
そうかもしれない。
うちの高校の後夜祭は、本来、基本自由参加なのだが、昔から何故か恋人同士でしか参加しない風習になっていたらしい。
なのでその藤原さんも『後夜祭に男子を誘う』と言う行為自体を、告白と考えていてもおかしくない。
それで、承諾してくれた男子と付き合う事になったと考えてるかもしれない。
てかあいつ、後夜祭をリア充の巣窟と呼んでいるくせに、何故気づかない……。
俺がそんなことを考えているうちに、
「多分そうだと思いますよ。……でも、友達さん本人がそう思ってないなら、今友達さんは誰とも付き合ってないんです!」
菜月が口を開き、光のつぶやきに対し、そう言い切った。
「いやまあ、そうかもしんないけどさ……」
そう呟きながら、チラリと横目で光の様子を見ると、「え……え?」と何やら困惑した様子だった。
「光? どうした?」
「へ? え、いや、遥人、今の……って……」
「……じゃ、お兄ちゃん! 私はもう学校行くね? 遅刻しないように早く準備してきなよー」
「やべっ! そうだった。ごめん光、もう少し待っててくれ! すぐ終わらせてくる!」
「え、あ……う、うん」
菜月の言葉に急いで部屋に戻る。
そういや光がさっきなんか言おうとしてたけど……ま、後で聞けばいいか。
数日分は続きます。




