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最後です! 遅くなってすみませんでした!!
××××年 十月十五日
俺はこの日、いつもよりも圧倒的に早く学校に来ていた。
何故かと言うと、俺の記憶が正しければ『キミだケに』も『キメわん』も、十月十五日――文化祭二日目の早朝に告白イベントがあったはずなのだ。
そして、どちらのゲームも、その後の文化祭を一緒に過ごし、後夜祭へ……と言う流れだったはず。
そう思って早めに来たら、予想だにしない遭遇していた。
「あれま、どうも友達さん」
「どうも妹さん」
こんな早くに学校にいる理由を尋ねると、今日は早めに来て、二日目の準備をするらしいが、妹さんは早く来すぎたらしい。
なるほどと思い、なら雑談でもして時間をつぶそうと考えた。
緋山兄も星海さんもまだ来ていないことだし。
と考えていると、妹さん何やら言いづらそうにしていた。
「どうかした?」
と尋ねると、一呼吸置き、意を決したように口を開いた。
「きょ、今日! 誰か一緒に文化祭を回る人いますか!?」
「へ?」
「ですから、友達さんは、今日、一緒に文化祭を回る人いますか!? って聞いたんです! も、もしいないなら、その……私と回りましょう!!」
なるほど、いきなりで驚いてしまった。
…………だが……。
「あー…………申し訳ない。先約があるんだ」
そう、昨日の放課後、藤原さんと約束してしまったのだ。
もう少し早ければなぁ……。
「あ…………そ、そうですか…………そう、ですよ、ね…………」
なんか落ち込んでしまった。
それはそうだろう。
せっかく誘ったのに断られてしまったのだ。俺みたいなやつに。
しかも直前に頼むということは、もしかしたら他に一緒に回る人がいないのかもしれないし……。
とはいえどうしようもないわけで。
困った俺は………………とりあえず頭を撫でてみた。
…………今書いてて思ったが、なんで俺はこの時、こんな分不相応ことをしたんだろうか。
これをやっていいのは、イケメンか小さな子供に対してだけだろうに。
…………まあいい、この時の妹さんはあれだ。小さな子供という印象が強かったからやったのだ。
「ちょ、やめてくださいよー!」
妹さんは少し撫でられた後、ハッとして俺の手を払いのけた。
やはりイケメン以外には許されていない行動なのだ。
だが俺はこの後、
「いや申し訳ない。菜月ちゃんがかわいいかったからなのです」
………………と、俺みたいなやつが言っていい訳のないセリフを吐いていた……。
自分でもこの時はからかい半分で言っている自覚はあったわけだが……。
…………………………恥ずかしい。駄目だ死にたい。
からかってた部分もあったとはいえ、多分最重要な観察を前に、ちょっとテンションが上がってたんだろう……馬鹿みたいに調子に乗った発言だ。
死ねばいい俺。
しかもその上、
「……え、ぁ……………………あ! 今、とうとう名前で呼びましたね!!」
かわいいという言葉はスルーされる始末。
いや、それはまあ別にいいんだけど。
「さて、何の事でしょう妹さん」
「あれ!? 戻った」
その後も少し雑談をして、妹さんは教室に戻って行った。
その際に、
「やっぱり友達さんはお兄ちゃんに似てます!」
とまた言われた。
わからん。
さて、観察するために屋上で隠れて待っていると、互いに緊張した面持ちの二人が屋上に現れた。
そしてその緊張を隠すように話し出す二人。
「あ……っと、ご、ごめん、机の手紙に気付かない上に、こんな早くに呼び出したりして!」
「あ、あ、こっちこそごめん、机の中に呼び出すような手紙なんて入れて! あ、あの、緋山君に呼ばれるとか思ってなかったし……!」
なんだそりゃ。互いが互いに呼び出してたんか。
星海さんは緋山の机に、緋山は気づかず直接呼んだわけか。
思考回路一緒かい。
こっから少しの間無意味な謝り合いが始まったので割愛。
少しして落ち着いたのか、緋山が意を決したように口を開いた。
「…………星海さんに、伝えたいことが、あるんだ」
「……う、うん」
それに星海さんが緊張した面持ちで頷く。
――そして。
「……ほ、星海光さん! 俺はあなたの事が――好きです!! 俺と付き合ってください!!」
文字にすれば、捻りのないセリフだが、しっかりと緋山自身の思いを込めた言葉だとわかるものだった。
そしてそれを受けた星海さんは、頬を赤らめながらも、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、
「――はい。うちも緋山君の事が、好きです! こ、こちらこそ……よろしくお願いします!!」
この時俺は、気づかれないように、ホッと息を吐いた。
この観察日記を始めたときは、よもやこんな結果に落ち着くとは思っていなかった。
でも今は、これもまた面白いと本気で思っている。
そして本気で……良かったと思っている。
告白の後、照れ隠しか、嬉しさなのか、二人して笑っていた。
そして少しした後、星海さんが言った。
「あ、えっとこの後の文化祭なんだけど……」
「もちろん、一緒に回ろう」
まあそうなるとは思っていた。
だが、星海さんの願いは文化祭デートだけではなく。
「うん! じゃさ、その……呼び方、なんだけど」
「あ…………じゃあ、光さん……って呼ばせてもらおうかな?」
「ううん! 呼び捨てでいい! で、うちも……」
「遥人、でいいよ。光」
その言葉に顔を真っ赤にしながらも本当にうれしそうな顔で笑う星海さん。
それを見た緋山も、照れたように笑う(かわいい! とか思ってんだろうな。きっと)。
ああはいはい、ごちそうさまごちそうさま。って感じだった。
本当は観察してみたかったが流石に、初デートを邪魔する気にはなれなかった。
と言うか、俺も予定が入ってるから無理だし。(藤原さんをストーカーまがいなことに付き合わすわけにはいかん)
てなわけで、文化祭は藤原さんと回った。
昨日一通り見て回ったので、代わり映えしないかと思ったが、やはり一人で回るより誰かと一緒の方が楽しかった。
というか、昨日が寂しすぎだ。
一緒に回っている間の他愛ない会話のなかで、後夜祭の事が話題に出た。
この時点でも、既に今年は後夜祭には参加する決意は固めていた。
緋山と星海さんが一緒に回るのを観察することは見逃しても、後夜祭ではニヤニヤしながらおおっぴらに観察してやろうと考えてたのだ。
…………無論、今年も恋人なんて出来そうな気配が全くしなかった俺だ。
後夜祭と言うリア充の巣窟に一人いるのは辛く情けない。
だとしてもやるつもりだった。それが今まで観察してきた者の義務だと思ってるからね!
だが、そんな哀れな俺を、なんと優しい藤原さんが誘ってくれた。
去年もそうだが、なんてありがたい。
なので俺は、藤原さんの誘いに二つ返事をした。
藤原さんは嬉しそうに笑っていた。
その笑顔と似た顔をつい最近見た気もするが、それは置いておいた。
もちろん、このお誘いがさっきまでの会話の流れで出たものだとちゃんとわかっている。
だとしてもすごく嬉しかった。
――そして後夜祭。
後夜祭の準備のできた校庭に向かう途中、久しぶりに幽霊部員と出会った。
……いや、一緒のクラスなのでほぼ毎日会ってたはずなんだが、気が付けばだいぶ久しぶりな気がした。
うっとうしいからと言って、スルーし過ぎてせいだろうか? ……まあ、どうでもいいか。
なのでまたスルーして行こうとしたが、幽霊部員は俺と隣にいる藤原さんを交互に見て、裏切り者!と訴えていた。
近くにいたクラスメートは、その幽霊部員の様子を苦笑いで見ていた。
よくわからないが、貴様と手を組んだ覚えはないとだけ言って無視して校庭に向かうことにした。
その間もずっと裏切り者ー……! と叫んでいたようだが。
謎。
しかもよくわからなかったので、藤原さんに聞いてみたが、少し照れたように、さあ? と言われた。
やっぱり謎。
校庭に着くと、さっそく緋山と星海さん……ではなく、宮倉くんと奥仲さんと遭遇した。
――ほうほう、やはりそうなったか。
奥仲さんは元気に笑っていたが、宮倉くんの慌てっぷりはすごかった
なんとなく察していたが、この二人もとても面白そうだ。
……今後、機会があれば観察をしていきたいと思う。
その後もしどろもどろな宮倉くんをからかっていると、やっと(俺の中の)主役が登場した。
「あれ?」「へ?」
緋山と星海さんだ。
登場した二人に、ニヤニヤが抑えきれず、そのまま「ほほぅ? これはめでてぇな。二人は(やっと)付き合うことになったのだね?」と言った。
今までの経験からすると、照れて今の宮倉くんみたいになると予想していたのだ。
だが、予想とは違う反応を返してきた。
確かに二人とも顔を赤くし、少し照れたような顔をしたものの、その赤い顔で、さっきの俺と同じように、ニヤニヤし出したのだ。
「別にーそんなのお前に言われたくないし」
「ふふ、なっかよしー!」
とまで言い出した。
この時はよくわからなかったが、今考えれば、藤原さんとのことをからかっていたのだろう。
確かに藤原さんも顔を真っ赤にさせてたし。
うーん、とんだとばっちり。
藤原さんには今度お詫びをしておかないと。
それはさておき、後夜祭の続き。
緋山と星海さんも加わり、さらに宮倉くんをからかい倒していると、音楽が鳴り出した。
後夜祭に参加するのは、ここにいる全員初めてなわけだが、流石にゲームが元になってるだけあって、ダンスタイムのようだ。
そしてみんな一様に踊り始めた。
練習したわけでもないのに、皆意外と様になってるのが面白かった。
後夜祭も中盤、踊っている人もいれば、座ってゆっくり話している人もいた。
ふと気が付くと、緋山と星海さんが校庭にいなかった。
俺は藤原さんにお手洗いに行くと言い、探してみた。
見つけたのはまた屋上。
どんだけ屋上が好きなのだ。とは思ったが、二人が上から校庭を覗いてるように、こっそり俺も覗いてみると、確かに上から見るキャンプファイヤーもまた一興だった。
いつまでも見ているわけにもいかないので、再度隠れた。
緋山と星海さんも少ししたら話し始めた。
「今日は楽しかったな」
「うん。こんな楽しかったの、うち、いつ振りだろ」
「……朝と同じになっちゃうけど、また屋上なんかに呼び出してごめん」
「ううん、うちも少し、二人になりたかったから……。」
その言葉を皮切りに、黙って見つめあう二人。
そして二人は何も言わずに近づき――――そっと口づけをした。
恐らく本人たちからすれば、長いような短いようなーみたいな感覚だろうが、見ている分には、三秒ほど触れ合っていた。
二人はそっと離れた後、照れからか、互いに真っ赤な顔で押し黙り、あたりは後夜祭で流れている音楽だけとなった。
少しした後、二人して小さく笑った。
それも収まった後、緋山と星海さんが二人そろって、少しだけ何かを考えるよな顔になり、そして穏やかな顔でまず緋山が言った。
「俺は…………光に出会えてよかった。これからは……俺自身を、見てほしい。キミだケに」
言われた星海さんは、最初はキョトンとしていたが、すぐに笑顔になり言った。
「うちの方こそ、遥人に出会えてよかったよ。遥人は……うちにとってのおんりーわんだもん!」
…………なんとなく、二人の言葉からゲームのキーワードが聞こえた気がして、ついこう記してしまった。
二人が一体どんな気持ちでその言葉を選んだのは分からないが、今、二人がとても幸せそうなのは見てわかった。
俺は二人に気付かれないように、校庭に戻った。
俺はこの後、少し藤原さんと話し、二人で帰った。
それにしても藤原さんは一緒に帰るとき、終始機嫌がよかった。
と言うか今日はずっと楽しそうだった。
本当に楽しんでいたんだろう。
俺なんかと一緒でそんな楽しんでもらえたのなら、こちらとしても嬉しいものだ。
しかし、そんな時に限って俺がやらかす。
恐らく朝、妹さんにやってしまったからつい、というのと、緋山と星海さんの幸せに影響されてしまった(俺の勝手な予想)ことのせいだろう!
藤原さんの家に着く直前、藤原さんの頭を撫で、
「またね」
と言っていた。
ほんとに俺は何がしたいんだ……。
藤原さんは俺に触られた頭を押さえて、少し呆然として、そのままダッシュで家に入っていってしまった。
…………本格的にお詫びが必要と思われる…………。
……藤原さんの事は後で考えるとして、とりあえず今――今日の……というか、高校入っての集大成として、日記を書いている。
『キミだケに』と『キメラレナイノおんりーわん』。
二つのゲームのキャラとして初めて出会い、小説家になる夢の為のネタ帳的な感覚で始まったこの観察日記。
関わっているうちに、俺自身の考えが変わっていって、気が付けば今は、友人の恋愛事情をただ観察していた。
そして観察し、時に関わりながらいた結果が、今の『緋山遥人』と『星海光』と言うわけだ。
勝手に面白おかしく観察しておいて、こんなこと言うのは間違っているとは思うが、この言葉だけは、声に出さないとしても記し、そして……送りたい。
――――よかったな二人とも……おめでとう――――
さて、ゲームとしての観察は、今日で終わりにするつもりだ。
『キミだケに』は三十一日でエンディングだが、『キメわん』は今日がエンディングなのだから。
高校生活序盤に書き記した、『ギャルゲー乙女ゲー観察日記』と言うのはもう意味をなさないというわけだ。
考えてみると、これまでの行動が、小説家の夢の足しになったかはわからない。
だって途中からただ楽しくなってただけだし。
それに、それはこれからの俺が道を決めるわけだから。
だから…………これからはただの『観察日記』になるということだ!
なんだったら『友人恋愛事情(恋愛以外あり)観察日記』と銘打ってみようか。
だとしたら、まだページ残ってるけど、明日から日記帳変えてみようか。
これからは、もうゲームのキャラとか、イベントとかは全く関係ない。
本当の意味で、友達がどんな面白い行動をしていくのかが楽しみなわけだ。
これから皆はどう過ごしていくのか。
あの人たちの事だから、何事もなく過ごすなんてありえない。
ああ面白くなってきた。
とりあえず今日はもう寝る!
今までありがとうございました!!




