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ギャルゲー乙女ゲー観察日記  作者: 蛇真谷 駿一


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 ××××年 十月十四日


 色々あったが、ようやっと文化祭だ。

 午前中はほとんどクラスの出し物の手伝い。午後は少し部誌の販売の手伝い。


 全部終わってやっと自由な時間だ。

 部室を出るとき、藤原さんに明日の予定を聞かれた。


 今年は何の予定もない。

 だがまあ観察はしたいので、一応学校には残る。


 …………ここ最近観察できてないから、ここはどんなに肩身が狭く、辛かろうが明日の後夜祭には一人でだって参加するつもりだ。


 ともかく、予定は何もないので、そう伝えると、藤原さんが何かを考えるように俯き、何やらブツブツ言っていた。


 未だになんなのかよくわからないが、その後機嫌がよくなっていた。

謎だ。



 今日も観察したいところではあったが、ちょうど緋山も星海さんも喫茶店でコスプレ接客しているので、無意味に顔出して、邪魔するのはいけない。


 後でお客として行ったけど。



 その後もフラフラと一人で校内をぶらついていると、人のいない休憩室で東野を見つけた。

 昨日文化祭準備に東野は来なかったので、一昨日以来となる。


「ああ……大丈夫そうだな」

 俺と目が合うなりそう言われた。

 心配をかけていたようだ。


 ただ俺の方こそ聞きたかった。

「そっちこそ大丈夫か?」

 東野は、前日休みだったにもかかわらず、少しだけ疲れた様子だった。


「……大丈夫だ」

 そうは見えないけど、何かあ…………ったのだろう。もしかしなくても、一昨日に。


 俺の言いたいことが分かったのか、少し黙る東野。

「別に言わなくてもいい。俺が大いに関係してるのに、俺が全く何も知らないことについてはちょっとあれだけど、あの後の緋山と星海さんを見れば、そこそこの事情は分かる」


 緋山と星海さんは、昨日今日と、傍から見て不思議に思うほど、距離をとっていた。

 それでいて、互いに意識しあっているのもはっきりわかっていた。


「……君にわざわざ相談した立場から言うと、申し訳ない話だ。君の助言は活かせなかったわけだしな」

「や、助言らしい助言なんかまったくしてない」


「だとしても、感謝しているという事だけわかっておいてくれ」


 ……受け取りにくい感謝だ。

 俺はあくまで、自分自身の興味のために観察していた身。


 どうしても後ろめたさがあった。


 俺のそんな考えを読み取ったように東野は言った。


「ふん、何を気にしている。君が俺たちを観察していたことを気にしているならお門違いだ」


 ……正直、心臓が飛び出そうになった。

 何もかもバレてるのではないかと思った。


「一応言っておくが、君だけではない。恐らくクラス中が、俺たちを観察していたと言ってもおかしくはないだろう。それほど目立つことをしていた自覚もある」

 ……ああ、言われてみればそうだと思った。


 あれだけ目立てば今後どうなっていくのか気になっていくのも普通だろう。

 なんだったら、俺も観察されていた側かもしれない。


 とはいえ、それは目の前で起こることだけ観察していた人の事だ。


 俺は東野たちが目立つ前から観察し、なんだったら何か起きそうな場所について行ったほどなのだ。

 全く気にしなくていいとはならないと思う。


「まだ気にしているのか。ただの感謝だ。受け取っておけばいいだろう。……たとえ君が興味本位の面白そうだからと俺たちを観察していたとしても、何も気にしない。みんなそうだろう。何故ならそれは――友が友を見守っているのと同じだからだ」


 東野は言った。

 観察も、見守っていたと同じだと。


「友人なら他の友人の恋路を面白く思うのも当然。それを見守りたいと思うの当然だ」


 ……今までも、すごい奴だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。


「それに、君は俺をただ恋に破れた人間と思っているのか?」

「え?」

「俺はまだ何も伝えてはいない。ただ、なにぶんこういう事は初めてなものでな、一歩が踏み出せないようだ。……俺たちをずっと観察していた俺の親友なら、何と言って俺の背を押してくれるのだ?」


 今までやってきたことを許してくれるような言葉に、少しだけ涙が出そうになった。

 が、それをこらえて一言発した。


「…………東野の――東野英司の思った通りに動けばいいさ」


 俺の言葉に満足げに笑った後、東野は、


「なんだったらこれからも観察を続けてもらって構わない。そのかわり、君がもし誰かに恋心を抱くようであれば、、俺が……いや、俺たちが君をしっかり観察してやるから、覚悟しておくがいい」


 とだけ言い残し、歩いて行った。



 俺はそんな東野の背に向かい、小さく呟いてやった。

「お望みなら、今まで通りに、面白おかしくお前らの事を観察してやるよ――親友」



 東野のおかげでどこか吹っ切れた俺は、文化祭を(一人で)楽しみつつ、面白そうなものを探していた。


 すると、後ろから声が聞こえた。

「一人で何をやってる?」


 声をかけてきたのは、蒼月先輩。

 その手には出来上がった部誌を持っていた。

 前日に部員全員に配布したものだろう。


 そのまま蒼月先輩と話していると、話が進路のことに触れた。


 気になっていたことなので、聞いてみることにした。


「蒼月先輩、進路はどうされるんですか?」

「…………とりあえず大学に入る。ただ、学部を悩んではいるんだが」


「ご両親の事ですか……」

「何故知ってる?」

 不思議そうな顔で蒼月先輩が聞いてきた。


「あ。天野先輩が教えてくれました」

「……人の事をぺらぺらと」


「……でも、天野先輩も心配してましたよ?」

「それは……まあ、わかっている」


「何かやりたいことがあるんですか?」

「……まあな」


 俺はその言葉を聞いてホッとした。


『キミわん』のキャラはどのキャラも、主人公がいたから自分のやりたいように出来た。と言った終わり方だったが、ゲームじゃないこの世界なら、主人公の介入がなくても、全員が全員やりたいように出来ると俺は思っているからだ。


 ただ蒼月先輩は何も言わない俺に、問いかけてきた。


「何も言わないのか?」

「何も言いませんよ。俺が何か言って、蒼月先輩が自分の道を決めるのは間違ってると思いますから。蒼月智弘先輩の道は蒼月智弘先輩が決めるんです。…………こればかりは、面倒くさがっていられないでしょう?」


 俺はそう笑いかけた。

 蒼月先輩は、少しだけ呆気にとられたような顔をした後、ニッと笑い小さく、

「それでも面倒くさいけどな」

 とだけ言った。


 そして何も言わないまま俺の横を通りぬけていく。


「ああ、そうだ。お前の話、中々面白い」

 その時、蒼月先輩が部誌を片手に俺へそう言った。


 今まで頑張ってきた俺にとっては最高の褒め言葉をもらった。


 全力でお礼を言った。



 蒼月先輩と別れた俺は、若干人に酔ったので、人通りの少ない方を歩いていると、何やら揉めている声が聞こえた。


 三人ほどいるようだが、どれもこれも聞いたことのある声だ。


 確認してみると、


「先生! いい加減少しは手伝ってください!」

「そうですよ、他の先生方は時間を見つけて手伝ってくださってます」


「いや……そんな簡単に保健室(ここ)を離れるわけにはいかない。いつ何が起こるかわからないからな」


 ちょっと引きつった笑みを浮かべている天野先輩に、呆れ顔の桐野先輩。そして一生懸命真面目な顔を作っている保健医。


 すぐにどういう状況かわかった。

 生徒会として、教師に少しでも雑務を手伝ってもらおうとする二人と、面倒くさいから断ってる教師の図だ。


「何が「ここを離れるわけにはいかない」ですか。残念ながらネタは上がってます。ちょいちょい生徒に番をさせてサボってるそうですね」

「ぐっ!」


 桐野先輩の一言であっさり言いよどむ保険医。

 ダメじゃん。


 なんて思いながら呆れ顔で見ていると、三人が俺に気付いた。

「はっ! いいところに! 助けてくれ」


「お疲れ様です、天野先輩、桐野先輩」

「貴方こそ、一昨日はお疲れ様ね」

「ええ……まあ」

「大丈夫なのか?」

「はい、特に何されたわけでもないので」


 二人とも一昨日の事を心配してくれた。いい先輩だなぁ。


「無視すんなよぉっ!!」

「……何をどう助ければいいんですか? 保健室の…………先生」


「なんでちょっと『先生』って言いたくなさそうなんだよ! てか、それなりに付き合いあるのに私の名前知らないのお前!」

「知らないわけないでしょう……八神(やがみ)琢磨(たくま)…………先生」

「やっぱり言いたくなさそうだな!」


「まあ、貴方の一番の被害者ですからね」

 なんだかんだでこの先生、俺を番にさせることが圧倒的に多い。


「ふむ、言質がとれましたね」

「ああ、とれたな」


「オノレー!」


「ああ、貴方はもう行ってもいいわ……って、もしかして保健室に用事?」

 その言葉に若干希望を見出そうとする八神先生。


「ああいえ、人ごみに酔ったので少し人が少ないところに来ただけです」

「なるほど。それも分からないでもない。今年は俺たちの予想を上回るほど人が来たからな。……だからこそ、こうして働かない教師に手伝いを求めているわけだ!」


「人がたくさん来たのはお二方の頑張りがあったからですね。そしてそれの連れてくの頑張ってください」


「いや待て! 人ごみに酔ったというのも立派な病だ。しっかり保健室で休んで…………ってそれって言ったか!? 私の事!!」



 なんか収拾がつかなさそうなので、一先ず保健室内に避難。

「あ、こんにちわ―。お元気そうで何よりです」

 …………なんかいた。


 なんかと言っても、例のごとく四葉さんだった。

「俺は大丈夫です。後、俺なんかのために一昨日はありがとうございました」

「いえいえ。あなたも大事なお友達なのです」


「しかし……文化祭の日まで保健室、ですか……辛くないです?」

「ふふ、大丈夫ですよ。少し休んでいただけですから。父もそろそろ来るみたいなので、一緒に色々回ろうかと思います。…………緋山さんのコスプレも見たいですし」


 あの屈強なお父さん(ゲームで見た気がする)が来るのか。

 じゃあ大丈夫だなぁ。


 しかし、緋山ね。

「くくっ、緋山は今着せ替え人形のようになってますから、一時間ごとにコスプレが変わりますよ。結構面白いですからぜひ」

「そうなんですかー。……あれ? あなたはコスプレしないんですか?」

「俺は(断固)裏方ですよ」


「それは残念」

 四葉さんはクスクス笑いながらそう言った。


「じゃ、俺はそろそろ戻りますね」

「あ、はい。じゃあ、私は父が来るまで少し寝ますね」

「……なら、外は俺が注意しておきますね」


 依然三人の、若干子供じみてきてさえある口論が続いており、保健室内まで聞こえていた。


「あ、大丈夫ですよ。賑やかで楽しいので」

「ならいいですけど。……他に何かあります?」


「………………じゃあ一つだけ」

 俺は頷く。

「緋山さんに会ったら伝えておいてください。……緋山さんは私にとって、とても大事な――お友達です。これからも仲良くしてくださいね、と」


「…………それは自分で言った方がいいですよ。この後行くみたいですし」

「それはちょっと……恥ずかしくて……」


「だとしても、ちゃんと本人から言われた方が、緋山もうれしいと思います」

「………………じゃあ、そうしますね」


 俺はそれに頷くと、保健室のベッドのカーテンを閉めた。


 そしてなんとなく思い出す。

 四葉阿澄ルートでは、エンディング直前に大きな選択肢がある。


 それは体の弱い四葉阿澄が、空気のきれいな地域に引っ越しをするという話が出たことに始まり、最後はそれを受け入れるか否かの選択だ。


 最後の最後にこの選択肢であり、ルート自体は確定している。

 つまり、どちらを選んでもハッピーエンドには変わりない。

 ただ、引っ越しを受け入れることにより遠距離恋愛をするエンディングか、受け入れずに彼女のそばにいて支えていくエンディングか、という違い。


 とはいえ、ゲームではその程度の違いだが、エンディングの()その選択が、四葉阿澄の体にどういう影響を与えるのかはわからない。



 今の四葉さんの言葉から、もしかしたらもう、その引っ越しの話が出ているのかもしれない。

 このゲームと似て非なる世界で、もう主人公が四葉さんの道を選択することはないが、四葉さん自身が、自分の道を選択することになるわけだ。


 どういう結果になるかは、今後も観察を続けていくつもりだ。



 そう考えながら、そのままそっと保健室を離れて時間を確認すると、ちょうど藤原さんがクラスの出し物を手伝う時間になっていた。

 元々気になっていた二組三組の合同の出し物。

 二つのクラスを利用したゲームアトラクションだった。


 行ってみると結構並んでいた。

 見れば当然と言えば当然、複数人で参加する人ばかりだ。


 ……さすがにその中に一人で並ぶのは気が引けたので、あきらめようと思ったとき、

「ああ! お兄さん!」

「あ、どうも」

 宮倉くんと奥仲さんに呼ばれた。


「ああ、どうも……お二人は……ほうほう……デートですか?」

「あははー! …………えへへへ、うん! そうだよ!」

「え!? ちょっ! 奥仲さん!? ち、ちちちちがいますから!」


 俺も奥仲さんも冗談のような口ぶりで話していたのだが、宮倉くんの動揺が半端なかった。

 これには俺も奥仲さんも苦笑いだ。


 その後も、何故か二人で宮倉くんをからかっていると、奥仲さんがそういえばと言った感じで言ってきた。


「で、お兄さんはうちのクラスの出し物やるの?」

「いや、一人では入りづらいと判明したので、悩んでて……てか、その呼び方は何とかならないですか?」

「ならないねー」


「じゃあ、僕たちと入りましょうよ! 作った僕らが言うのはなんですけど、結構面白いですよ」

「いや、邪魔するわけには……」


 なんて会話をしていると、後ろから声をかけられた。

「あれ? 何してるの?」

 ……春風さんだった。


 春風さんとは、昨日の準備でも顔を合わせていた。


「いや、ここに一人では入りづらいなって話」

「んー? ああ! 二組三組のアトラクションだね! 私も入りたい! 一緒に行っていい?」


「あ、じゃあさ、あたしたちと一緒に入ろうよ! みんなで入った方が面白いから!」

「そうですね。そうしません?」


「うん、じゃあそうしようかな? ……ね?」


 そう言って俺を見てくる春風さんたち。

 さすがに頻繁にうちの教室に遊びに来ていた宮倉くんと奥仲さんだけあって、春風さんとも仲良くなっていたようだ。


 とりま、そういう事ならと、一緒に入った。



 …………結構本格的なゲームばかりだった。

 よく間に合ったな……文化祭までに。


 結構、というかかなり楽しかったのだが、案内役としてついてくれた藤原さんが、春風さんたちと会話していると、何やらジトーっとした目で俺を見ていらっしゃった。


 …………俺、何かしたかな。


 そしてアトラクションを出る間際、放課後部室で待つように言われた。

 この時は戦々恐々だった。



 アトラクションを出て、宮倉くん奥仲さんと別れた後、なんとなく春風さんとウロウロしていた。


「いやいや、楽しかったね」

「そうですねー」


 その後、妙な沈黙が続いた。


 そして春風さんが一言。

「……聞かないの?」

「あーっと……聞かないです」


 正直一昨日の事を言っているなら聞きたくて仕方ないが、春風さんに聞くのは間違っている気がした。

 東野に聞かなかったのも、同じ理由だ。


「ありがと、優しいね」

「…………ど、どうも」


 お礼を言いながら微笑む姿に、若干ドキドキしてしまった。

 最近は女子と話す機会も増えてたので、以前より美人に耐性はついてたと思ったが、不意を突かれた。


「あなたみたいな人が一緒にいてくれたら嬉しいんだけどなぁ。…………ねえ、私と付き合ってみる?」

「……はは、そんな心にもないこと言って、誘惑しないで下さいよ。俺、こう見えても小心ですからね」

 唐突に告白を受けたが、今度は不意を突かれはしなかった。


「あははー……やっぱりわかっちゃう、か。…………ごめんね? 変なこと言って……」

「わかりますよ。だってまだ……」


「うん、まだ心にいるよ。……だってこの気持ちには年期が入ってるもん。……そんな簡単には消えないよ」

「………………それでもいいんじゃないですか? 普通はそんな簡単に諦められるものじゃないですし……どういう道があったとしても、選ぶのは春風さんです」


「………………本当に……優しいなぁ」

 俯きながらそういう春風さん。

「そうでもないと思いますけどね」


 そしてバッと顔を上げ、少し前に行き振り返った。

「ごめんね、なんか勝手に話して、相談に乗ってもらった形になっちゃった」

「いいえ、気にしないでください。……後、次また告白されたら俺は断れる自信ないんで、そこのところよろしくです」


 今日記を書いてみて、何の脈略もなくなに言ってんだこいつ。……と、自分に突っ込みを入れてしまった。

 ――一応、普通は春風さんのことを魅力的に思わない人はいないですよ。的なニュアンスで言ったんだけど、伝わっただろうか。


「ふぇ……ふふ、あはは! うんありがとう!」

 伝わったと信じよう。


 春風さんは少し笑いながら教室に戻って行った。


 俺は俺で、その後どうしようか考えていると、屋上に続く階段に、人影を見た気がした。

 屋上は開放こそされているが、休憩スペースがあるわけでもないので、誰も行こうなんてないはず。


 そう思ってその人影を追いかけてみると、

「……お。呉島君か」

 呉島蓮がジッと空を眺めていた。


 そして俺に気付くと、不思議そうな顔で「どうも」とだけ言った。


「なんで屋上に?」

「人ごみは嫌いなんですよ。それと、出し物が面倒で。ここにはそういう人が集まりやすいみたいですし」


 言われて見回すと、確かにチラホラサボりの生徒もいた。


 少しの沈黙の後、やはり不思議そうな顔で尋ねてきた。


「…………なんで声をかけてきたんですか? 普通は何も言わずに僕から離れるでしょう」

「え? なんで?」

 俺がそう問うと、すごい呆れ顔をされた。

「二日前にあんなことをしたばかりなのに」

「別に大して気にしてないからな。お前さんこそ、らしくない行動をとってたが、大丈夫なのか?」

 らしくない行動と言うのは、それだけ切羽つまっていたということだ。


「……確かに僕らしくないとは思いますね。まあでも……光さんと……あの人の考えは聞かせてもらいましたから」

 ……察するに俺のいないときに話していたことだろう。


「……どんなことを話したかは知らんが、その考えを聞いて、どうするかは呉島君次第だとは思う」

 と、言ってみたはいいが、これって、呉島君の恋の応援とかになっちゃってる? もしかして……。


 そんな考えをよそに、俺の言葉に、少し考え込む呉島君。

 そして、


「あ、部長!」

「友達さん!」


 呉島君が口を開いたと同時に、瀬戸さんと妹さんが声をかけてきた。

「瀬戸結衣と……緋山菜月(なつき)……か」


 妹さんの名前を呼ぶとき、若干言いよどんだのは、もしかしたら拉致する人質の候補に、妹さんもいたのかもしれないと思った。

 ――だとしたら、拉致られたのが俺で良かったとも思った。


 呉島君は二人が声をかけてきたことでタイミングを失ったのか、口を閉じ、去って行こうとした。



 なので、一言「星海さんの事は諦めがついたのか?」と尋ねた。


 呉島君はチラリとこちらに顔を向け、ニヤリと笑って歩いて行った。


 ……どんな意味があるのやら。


 なんてことを考えていると、妹さんが不安そうに尋ねてきた。

「何を……話してたんですか?」


 その表情を見るに、どうやら一昨日の概要は知ってるようだった。

「大したこと話してないよ。だから心配はいらない」


「そう、ですか……」

 俺と妹さんの会話に、瀬戸さんはキョトンとしていた。


 その後多少雑談していると、瀬戸さんが何かを思い出した。

「あ、菜月ちゃん! 相談はどうなったの? 部長にも相談してみるって言ってたけど……」

「ん? 相談? 何も聞いて…………あ、あの時の電話か。そういえば途中だったか。今でいいなら聞くが?」


 十一日にかかってきた電話は途中で話せなくなってしまった。

 なので、その電話の理由までは聞けなかったのだ。


 だが、妹さんは少しためらった後、首を横に振った。


「そうですね、相談はあったんですけど……でももう大丈夫です! 一昨日で色々わかったんで、二つとも解決しちゃいました」


 一昨日……俺を探してた時か?


 俺が疑問符を浮かべていると、瀬戸さんも別の理由で疑問符を浮かべていたようだ。

「解決したの? 緋山先輩の挙動がおかしいってこと」


 …………ああ。

 十一日と言えば、緋山達がギクシャクしてた日か。


「うん、一昨日にお兄ちゃんと一緒にいた、初めて会った人と話したら大体わかった」

 星海さんか。

 わかりやすいからな、あの娘。


 って、二つって言ってなかったか?


「もう一つは?」

「あ、二つともって言ってたね。でも私そっちは聞いてないよ?」


「それは…………うん、本当はどうしたらいいかわからないことを知ってしまったんだけど、一昨日お兄ちゃんが友達さんを一生懸命探すのを見て、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだって、実感出来たから大丈夫!」


 その言葉に、俺も瀬戸さんも訳の分からないという顔になった。


 詳しく聞こうと思ったが、駄目だった。


「私の事はもういいの! それより結衣ちゃんはどうなの? と言うか今日お兄ちゃんと一緒に文化祭回らなくてよかったの?」

「あ、いや、緋山先輩忙しそうで……それに……って、部長がいるのに何言ってるの!? 菜月ちゃん!!」


 俺の存在に気づき、言おうとしていたことをやめた瀬戸さん。


 気を使わせるのはあれなので、

「ああ、お気になさらずに」

 と言っておいた。


「と言うことです。結衣ちゃんどうぞ!」

「気にしますよー!!」


「「くっくっく、冗談だよ」」


「なんでそんな息ピッタリなんですか!!」


「で、結衣ちゃん。冗談はさておき、ほんとにわたしと文化祭回ってよかったの?」

「さておいてないけど!? …………でも、いいの。私の緋山先輩対する想いは、どちらかと言うと、多分……憧れに近いものだったんだとおもう」


 今度は俺がいるとわかっていて、瀬戸さんは話し始めた。


「最初に助けてくれたときは、優しいなー頼りになるなーって思ったし、実際好意は抱いてたと思う。……でも、菜月ちゃんと緋山先輩見てて気づいたの。私の緋山先輩に感じたのは、一人っ子で兄妹のいない私の、兄への憧れなのかな? って」


「でも、だとしても、お兄ちゃんと回りたいって思うんじゃない?」


「思ったよ? でもどっちかっていうと、友達と一緒に回りたいなって気持ちの方が強かったし。……多分そういうものだと思う。菜月ちゃんは私よりお兄さんと回りたかった?」

「そんなことないよ」


「ほら。そういう事だよ」


 妹さんと瀬戸さんは「そんなものかなー」と言いながら笑い合っていた。


 とりあえず言葉を発してみる。

「いや、瀬戸さんがそこまで赤裸々に語ると思ってなかったか、最後まで聞いてしまった。申し訳ない」


 俺の言葉に、チラリとこちらを見て、

「うぅ…………あ、あの部長!! 絶対に誰にも言わないでくださいね!!」

 と頼み込んできた。


 しかし、そこは問題ない。


「もちろんだ。そんなこと人に言うわけない。…………日記には書き記すけど」

「えええぇぇぇぇぇぇっ!!」


 瀬戸さんが大声を出して「なんでそんなこと書くんですか!?」と止めさせようとし、妹さんは妹さんで「それ、面白いかも。私もそうしよ」と呟いていた。


 瀬戸さんには申し訳ないが、もう書いてしまった(笑)。



 話も終わり、去り際に二人に言われた。

「友達さんは、あれですね……お兄ちゃんになんか似てます」

「あ、そうです。部長と緋山さんは見た目の感じも性格も結構違うんですけど、何と言うか……雰囲気が似てますね」


 と言われたところでぴんとは来ないんだが……褒めているんだろうか?


「…………だから、かな?」

「あはは、多分ね」


 俺が少し考えていると、二人が何やらよくわからないことを話していた。


「何が?」

 と聞いてみたが、二人そろって「「秘密です!」」と言って去って行った。


 一体なんだったんだろうか?




 一般の人が帰った後、指示通り、部室で藤原さんを待った。


 少し遅れて入ってきた藤原さんは、怒っているかと思ったが、別段怒っている様子はなかった。

 アトラクションの時はなんだったんだろうか。

 ……もしかしたら仕事中に行ったことで怒っていたのかもしれない。


 何故待ってるように言われたか聞いてみると、何のことはない、明日の文化祭を一緒に回らないかと言う事だった。


 明日も恥ずかしながら今日と同じで、特に誰と回る予定もなかったので、万々歳と言える。


 ありがたく一緒に回ることにした。

 誘って断られるとへこんでしまうからだろう、藤原さんも喜んでいたみたいだし、何よりだ。




 しかし、なんだかんだでいろんな人と会ったな。


 …………でも結局文化祭一日目を基本一人で回ったことには変わりないけど…………。



 しかしとんでもないページ数になった……。

 まあ、今日はいろんな知り合いと会って、会話をほとんど書いたようなものだから仕方ないか。




長くなってしまいました。


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