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ギャルゲー乙女ゲー観察日記  作者: 蛇真谷 駿一


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 やっぱり残りページ持たなかった。

 なので新しい日記帳に続きを書く。


 てことで、十月十日のつづきー。




 確か星海さんは誰かに呼び出されたといっていた。

 それは恐らく星海さんに今の光景を見せるためのはずだ。


 ゲームのイベントでは、その呼び出される相手――つまり、今星海さんがいる位置は主人公が付き合うことになった攻略キャラだったからだ。


 だけど、今の段階で緋山と星海さんは付き合ってなんかいない。

 イベントと似たことは起こるが、ゲームとは僅かに違う。


 俺は少し混乱した。

 ちゃんとここはゲームの世界じゃないと理解していたうえで、混乱していたこの時の俺を、今この日記を書きながら情けなく思っている。


 この時、星海さんも呆然とその光景を見ていたわけだが、近くに俺がいたのを思い出したのだろう、大きく身じろいだ。


 その反動で、ガタッ……と音を立ててしまった。


 その音に緋山がびっくりしたように振り向き、春風さんは横目でチラリとこちらを見た。

 俺はすぐに身を隠したが、星海さんはそのまま見つかってしまったようだ。


「あ……ほ、星海さん……」

 緋山の声がする。


 その声を聴き、星海さんは何も言わずに走り去ってしまった。


「あ! ちょ、待って!!」

 それを緋山が追う。


 俺はドアの影になって見えなかったようだ。



 屋上には春風さん、そして屋上のドアの前には俺が残されたままになった。


 そして俺はゆっくりと立ち上がり、春風さんの方を向く。


 彼女は俯いていた。



 緋山と星海さんは……多分、問題はないだろう。


 あのイベントの選択肢を緋山は示していたからだ。


 ゲーム上でも、さっきの星海さんのように、不意に音を鳴らした攻略キャラは、見つかって逃げ出してしまう。


 その時主人公が、『「後でちゃんと話を聞かせてもらう」と言い、彼女を追いかける』や『不意に立ち止まる』と言ったような――『春風美鈴に多少なりとも気をかける』選択をしてしまえば、それは春風美鈴と付き合うルートに入ってしまう。


 先程の緋山のように、『脇目も振らずに追いかける』選択をしたときのみ、主人公と攻略キャラのルートが継続される。


 だから、今緋山が星海さんを追いかけたからには、二人の関係が悪化することはないだろう。


 ――もちろん、まだ付き合ってすらいない二人なので、このイベントがどういう結果をもたらすのかは全く分からない。



 が、この時は二人を追うよりも春風さんと話すべきのような気がした。


 春風さんとの会話も記しておく。



「春風さん」

「あー……見てたなー……」


「そうですね。盗み見ててすみません…………でも」

「……うん、そう。光ちゃんは私が呼んだ」


「………………別に二人が付き合ってるわけじゃないですよ」

「知ってる。……でも、いつの間にか遥人が気にかけてたのは、私じゃなくて光ちゃんになってたのも……知ってる」


 その言葉に黙る俺。

 そんな俺にかまわず春風さんは話を続ける。


「少し前にさ、遥人が一人で一日を過ごす日があったじゃない」

「えっと、妹さんが瀬戸さんの家に泊まりに行った日……ですか?」


「そう。実はあの時、本当は晩御飯だけじゃなくって、お昼御飯も持って行ってたの。……ちょっと驚かそうとして抜け道を通って窓から呼びかけよう! なーんて、馬鹿なこと考えてね。はは」

「それって、もしかして俺が……」


「うん……で、さ……私も盗み聞いちゃったんだ……遥人の気持ち……と言うか、考え」


 言われてみれば、思い当たる節はあった。

 あの時確かに昼時にお邪魔してたし、ちょうど外からは旨そうな料理の匂いがしていた。


 そして夕方春風さんとすれ違った時、確か気まずそうな顔をしていた。


 あの時は通い妻みたいなことをしているところを見られて、恥ずかしがっているのかと思っていたが、 本当は盗み聞いていたことで、本当に気まずかったのかもしれない。



「それで、さ! 前々から色々相談に乗ってもらってた桐野先輩にいろいろ恋愛相談してて」

「…………」


「あはは……それでこんな事までやったのに…………失敗しちゃった……。せっかく桐野先輩に作戦までたててもらったのになぁ……」



 そう、この作戦の立案者は、桐野先輩だった。


 このイベントは、

『主人公が春風美鈴、桐野真帆――以外のキャラと付き合う』

『春風美鈴の主人公への好感度がとても高い』

『桐野真帆の主人公への好感度が低くはないが高くもない』

 この条件がそろったときに発生するイベントだった。


 だからこそ春風さんと桐野先輩が仲良くしているところで引っ掛かりを覚えたんだ。



 春風さんは、あらかた俺に話して満足したのか、ゆっくりと口を開き、


「……ごめんね、少しだけ……一人にしてもらっていい、かな……?」


 と言った。



 俺は黙って屋上を後にした。




 そしてそのまま走って行った二人を探した。



 屋上から一階まで階段を下りている途中で、人影を見つけた俺。

 そのまま少し近づくと、そこには――星海さんに話しかける緋山と、俯く星海さん、そしてその星海さん腕をつかみ緋山を睨みつける東野の姿があった。


 何故かプチ修羅場が出来上がっていた。



 と一瞬愕然としかけたが、『キメわん』の方にあった、東野英司と主人公の一枚画が頭に浮かんだ。


 何かのきっかけ(理由まではさすがに覚えてない)で、不意に涙がこぼれた星海光。

 見られまいと、走って家に帰ろうとした星海光を、何も言わずに抱きしめるといった場面があったイベントのはず。


 これは……『キミだケに』のイベントと『キメわん』のイベントがブッキングした形になる……のか?


 ともかく、このままではカオスになるだけだ。


 一応止めに入ろうとしたが、視界の端――階段から見て、廊下の角に誰かがいるような気がして、意識をそちらに向けた。


 だが、その時事態が進行したようで、すぐに意識をそちらに戻すことになった。



「……その手を離せ、東野」

 緋山がそう、ゆっくりと言ったのだ。


「何故だ。そもそも涙を流した彼女をお前が追いかけてくる。……つまり、お前が彼女に何かしたのだろう」

 東野が目を細めて、言う。


「そうだ」

 間髪入れずに緋山が答えた。


 その言葉にうつむいていた星海さんが勢いよく顔を上げ「ち、違っ」と言おうとしたが、緋山自身がそれを遮った。


「理由はどうあれ、星海さんに嫌な思いをさせたのは俺なんだ。……だから、それを謝らせてほしい……星海さん、そして……東野も、頼む……出来れば二人にしてくれ」


 その言葉に東野も緋山を睨みつけたまま黙り、星海さんは戸惑っていた。


 それもそうだろう。

 星海さんからしたら、勝手に覗いて、勝手に逃げ出して、勝手に涙が出てきたのだ。


 緋山に謝るならともかく、謝られる理由なんてない。



 ちなみにこの時点ですでに俺は止めに入るのをやめ、若干身を隠しながら事の成り行きを見守った。


 そして少しの沈黙の後、東野がゆっくり星海さんから手を離し、緋山に何か小さな声で耳打ちした後、去って行った。



 とりあえずそのまま観察する気で階段に隠れていたが、その場を去る東野が、偶然にも俺のいる階段を上ってきてしまい、


「………………」

「………………」


 ものすごい気まずい感じで目が合ってしまった。


 呆れたような目で見られたが、何も言わずに指で俺を呼んだ。


 ……怒られるかもしれないと、内心ヒヤヒヤしながら東野についていくが、そうではなかった。


「……すまなかったな」

 逆に謝られてしまった。


「俺たちが揉めていたから出るに出られなかったんだろう」

 と、どうやら盗み見ていたとは思わず、偶然出くわしてしまって隠れていたと勘違いしてくれたらしい。


 助かった。…………が、何だろう。若干胸がチクチクした。




 ……残された二人の会話を聞くことが出来なかったが、今日はなんかちょっとやりすぎた感があるので、反省しながら寝ます。


 ああ、そういえば、あの時ほかに誰かいたような気がしたが……もしかしたら本当に偶然プチ修羅場に出くわして、出るに出られなかった人がいるのかもしれないな。




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