31
××××年 十月六日
なにやら星海さんの様子が変わった。
いや、様子と言うか、雰囲気が変わった。
東野や、たまに顔を出してくる天野先輩や呉島蓮などと会話するときに、僅かにだが雰囲気が柔らかくなった。
俺の言葉がきっかけとなったのなら地味にうれしい。
だがそれは本当に些細な違いで、よく見ないとわからないほど。
だからこそ、俺の他には、星海さんにアプローチをかけている男子――つまり攻略キャラと呼ばれるやつらだけがその違いに気付いたような表情をしていた。
「……なぁ、星海さん……少し雰囲気変わったか?」
――っと、もう一人その僅かな変化に気付いていたようだ。
その声に振り向いてみると、緋山が不思議そうに星海さんを見つめていた。
今までよりわずかに他の男子に対する警戒心が薄れた星海さんを見て、少しだけ戸惑った表情を見せた緋山。
それはどういう意味の表情なのか、気になるところだった。
それはそれとして、その時に僅かに視線を感じた。
そちらを向いてみると、こちらもまた、複雑そうな表情をしていた春風さんがいた。
どうやら僅かに感じた視線は、俺ではなく緋山にだったようだ。
……何かありそうな気もする。
要観察……かな?
部室に行く途中、呉島蓮に遭遇した。
とは言え、別に用があるわけじゃないので(別に避けてるんじゃない)、挨拶だけして横を通ろうとした。
「少しいいですか」
が、呼び止められた。
なんぞ?
「今日、光さんの様子が違いました。……何かしましたか?」
光さん……星海さんの事だね。
何故俺に聞いたのかを訪ねる。
「彼女の様子が変わったのは、貴方と二人で昼食をとった時からです。そこで何か言ったのでのでは?」
と言われた。
なんで知ってるのだ。
ストーカーか!
「……ま、確かにそんな感じの話はした。……けどそれで何か君に不都合があったか? 呉島君」
そういうと目を細め、俺を見てくる呉島君。
「……いいえ。ただ、貴方の言葉は彼女に通じていると思うと、少し嫉妬を覚えまして」
「下心のない――ただの友人としての言葉はそりゃ伝わるさ」
……若干やな予感がして、予防線を張っておいた。
俺は星海さんに恋愛感情はないですよ。
友達として仲良くしたいだけですよ。
どうやらそういう意図で言った言葉が通じたらしく、俺から目をそらした。
…………ふぅ。
どうやら、聞きたかったのは最初の質問だけだったようなので、そのまま軽く挨拶をし、部室に向かった。
途中後ろから、「あなたも敬語ではなくなりましたが、何か心境の変化でも?」と問いかけられたので、振り返らずに「多少はお前さんに気を許したのだと思っとけ」とだけ言い、手を挙げ歩き去った。
その後部室についてから考えて、かっこつけすぎたと恥ずかしくなってしまった。
――……あんなことしなきゃよかった。




