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××××年 九月十九日
忘れ物を届けに一年の教室まで行った。
一時限目で使うかもしれないので、ホームルームの前にクラスを訪ねた。
ドアから中を確認したが、まだ来ていなかったので、少し待つかそれとも誰かに渡してもらうか考えていると、
「おや、また会いましたね」
と聞いたことはあるが聞きたくなかった声が聞こえた。
「上級生の方がここで何をされているのですか?」
呉島蓮だった。
端的に用事を伝え、会話をぶった切ってみたが、どうやら以前に星海さんが俺を理由に誘いを断ったので、少し俺に興味を持っているようだった。
……面倒くさい。と思ったのは仕方がないだろう。
「そうでしたか。ではその生徒が来るまで私と少し会話でもどうでしょう」
「いいえ、ノートを誰かに託せばすむ話ですよ」
「直接渡した方がいいと思いますよ。それに、私の方はあなたに少々聞きたいことがあるので……」
……どうやら本格的に何か聞きたそうだった。
無視したいところではあるが、そうするとなんとなく瀬戸さんに迷惑がかかりそうな気がしたので、仕方なくいくつか質問に答えてやった。
質問の中に、星海さんの事だけではなく、東野や蒼月先輩の事も含まれていたのは少なからず驚いたが。
そのほかにも質問されそうだったが、ちょうど瀬戸さんと妹さんが登校してきたので、二人に挨拶をして、ノートを渡し足早に教室に戻った。
……しかし二人とも呉島蓮と同じクラスか。……あれだな、かわいそうだ。
昼休みは蒼月先輩の教室に行ってみた。
ここ数日蒼月先輩が部室に顔を出していないのが気になったからだ。
面倒くさがりの蒼月先輩でも、本を静かに読める文芸部には大体顔を出していた。
その後、蒼月先輩のクラスを覗き込んでみたが、いなかった。
――……昼休みはどこかに行かずに教室で本を読むタイプと思ってたが……。
「あ、もしかしたら休みか?」
そうつい呟いてしまった。
「そうだ、あいつなら家の事情で少しの間休んでいる」
そしてその呟きに対する答えが返ってきた。
……心臓が飛び出るかと思た。
天野先輩だった。
「風邪はもういいんですか」
「いつの話だ! 二週間以上前だぞ風邪で休んだの!」
て怒られた。
――冗談だったのに。てなことを思ってたら
「こっちはただのツッコミだ」
心まで読んできた。この生徒会長。
……あ、桐野先輩も似たようなことをしていた気も……。
「読心術が使えないと生徒会長にはなれないんですかね」
「何の脈略もなく意味の分からないこと言うな!」
みたいなじゃれ合いの後に(俺は意外と天野先輩と仲良くなれる気がする)、蒼月先輩が休みの理由を教えてもらった。
何でも有名な考古学者である蒼月先輩の父親が、蒼月先輩を助手として今回、海外(どこかまでは聞いてない)に連れて行ったらしい。
蒼月先輩の両親は、息子を父親と同じ道に進ませようと考えていて、その準備ともいえるらしい。
「まあ、あいつはどうせ流されるだけなんだろうな」
天野先輩は、少しだけ悲しそうな顔でそう漏らし、俺に一言挨拶をし、自分の教室に戻っていった。
俺は天野先輩の一言で、『キメわん』の蒼月先輩が最後何の職に就いたのかを思い出した。
蒼月先輩は『図書館司書』になったはずだ。
親の意向には逆らうつもりがなかった蒼月先輩が、主人公と関係を深める中で自分の夢を表に出すようになる。
そして最後には両親と話し合い、自分の夢を追うことを許されたはず。
そうだ。確かにこの時期『キメわん』では、蒼月先輩の休みが続いているというイベントが発生していた。
そのイベントの後、蒼月先輩の態度がわずかに変わり、そこから次の特殊イベントを発生させることで、最終攻略イベントを発生させることが出来るものだったはず。
……もちろんこれはあくまで、ゲームでの蒼月先輩の話だが。
だとしても、蒼月先輩なら、自力で自分の夢を追うという決断ができると俺は思っている。
蒼月先輩だけに限らず、皆原作とは違った面を持っている。
それは多分、ゲームの設定にはあり得なかった、人間としての感情のようなものだろう。
だからこそ、蒼月先輩も、ゲームのルートのように、流されるだけの人生ではなく、自分で決める人生を築けると思う。
……と言うか、そっちの方が見ていて面白いので、俺は全員の夢を応援してみる!!
ま、何するわけじゃなく、応援だけ。
傍観主義なのは変えないようにしておく。




