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××××年 九月四日
今日は放課後になるのと同時に、奥仲さんが教室に駆け込んできた。
そして緋山を見つけるなり、「約束通り陸上部見学してって! すごく楽しいんだから!」と言い放った。
緋山は苦笑いしながら了承していた。
……しかし、一年ほど前の記憶がふとよみがえったので、聞いてみることにした。
「男子と女子では方針が違ったんじゃなかったんですか?」
「のや!? あの時のお兄さん! このクラスだったんだぁ! ……先輩かと思ってたよ」
自己紹介してなかったっけ。
「えっと、指導者が変わって、今は男子も女子も同じ方針で進んでるの! 『みんな楽しく』ってね! 秋くんも今は楽しそうだもん」
なるほど納得。
……と言うか、宮倉くんの事は秋くんと呼んでるんですね。
緋山はどんなリアクションを取るのかと思ったら、
「なんだーお前も奥仲さんと知り合いだったのな!」
と俺ににこやかに話しかけてきた。
……意外と普通だった。
ちらりと横目で星海さんを見ると、チラチラこちらの様子をうかがっていた。
……恐らく、『秋くん』と言う名前が出たためだろう。
疑問を解消したので、部室に行こうとすると、奥仲さんに呼び止められ、
「じゃあお兄さんも陸上部見学に来なよー」
と言ってきた。
部活に入っているのでと、丁重にお断りした。
と言うか自己紹介したのに『お兄さん』呼びが定着していることに今さら気づいた。
部室に行ってみると、誰もいなかったので、早めに切り上げ帰宅することにした俺。
ふとグラウンドを見てみると、緋山と何故か隣で星海さんも陸上部の見学をしていた。
――……ゲームでも確かにどちらも陸上部の見学イベントはあったが……星海さんの方は不運な流れで見学することになったんだろうなぁ。
××××年 九月五日
昼休み、何故か東野に呼び出しを食らった。
何事かと思っている俺に東野が一言。
「相談に乗ってほしい……いわゆる――恋愛相談だ」
正気を疑った。
とりあえず東野が熱を出していないのを確認したうえで、話を聞いてみると、どうやら一目ぼれだという。
東野らしくないと思った。
それは『設定上の東野英司らしくない』ではなく、一年以上付き合いのある俺から見ても、東野らしくないと思った。
正直にそう言ってみると、本人もその自覚はあるらしいが、説明はできないとのこと。
今まで(前世を含め)一目ぼれと言うものをしたことのない俺にはよくわからんが……そういうものなのかもしれない。
ちなみに、一応誰かと問いかけてみると、
「転校生の、星海、光……だ」
……まあ、このタイミングで一目ぼれならそれ以外は考えられないけれど……そのまんま過ぎるぞ東野。
面白くなってきたからよしとするが。
詳しく聞くと、一目ぼれした後、少しだけ話しかける機会をうかがっていたらしい。
それでちょうど話に入りやすそうな話題(呉島蓮の話)があったのでさりげなく話に参加したらしい。
――俺から見たらさりげなくなかったのだけど。
で、少し話してみて――東野曰く――思っていた以上に知性を感じる話し方だったらしい。
それ故ますます気になってしまったと。
俺に相談してきたのは、何か仲良くなるきっかけを探しているときに一昨日の昼休みでのやり取りが聞こえたらしく、平たく言えば紹介してほしいという事。
「んー……友達宣言してもらったとはいえ、実際には一昨日初めて話したようなものだし、いきなり誰かを紹介とか引かれると思う」
「そうか……」
「春風さんの方が仲はいいと思うし、そっちに紹介してもらえば?」
「しかし……彼女とはほとんど関わりがない……」
「俺もだよ。それでも春風さんなら話は聞いてくれる。頭も悪いわけではないし、全てを話さないまでも、それとなく春風さんに持ちかけてみるといい。それ以外なら俺も協力できることは協力するし」
「……わかった。試してみる……助かった」
「俺は今何もしてない。……まあ、気にするな。友達だろう」
ここまでが覚えている限りの会話。
正直、唐突すぎていい考えが浮かばず、春風さんにパスしてみたが、今よく考えるとなかなか面白い方向になったんじゃないかと思う。
グッジョブ、混乱した俺。




