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××××年 九月三日
今日は……星海さんと普通に話せる間柄になった。
なんとなく予想はついたが、星海さんは休み時間など、教室を出る気はサラサラなさそうだった。
確かに教室では東野にだけ注意しておけば何も起こらなそうに思える。
さすがに観察していても暇だったので、三年の教室に行ってみることにした。
元々蒼月先輩に用があったし。
で、蒼月先輩のクラスに顔を出すと、蒼月先輩と桐野先輩が二人で話していた。
何気に珍しい光景。
声をかけてみると、どうやら天野先輩が風邪で休んでいて、桐野先輩が生徒会の書類を蒼月先輩に渡していたらしい。
病人に酷なことするなぁ……と思っていたら、桐野先輩にジト目で「天野君からメールで言ってきたの。私がやらせているわけじゃないんだから」とちょっと責められた。
すみませんでした。
昼休みは緋山が春風さんにお昼を誘われた。――……俺も一緒に。
俺の頭の上には疑問符でいっぱいだった。
よくわからないがついていくと、学食の席には星海さんもおり、緋山、春風さん、星海さん、俺と言うメンバーでお昼を食べることになった。
星海さんは、東野たちと違い、春風さんや緋山とは普通に話している。
やはり彼女もまた、『キミだケに』を知らないのだろう。
そして、ここでふと思い出した。
――俺まだ春風さんの誤解解いてないと。
星海さんが転校してきた初日に、俺が春風さんにいろいろ聞きに行ったことを、変に誤解しているのだろう。
さすがにクラス全員の名前は覚えてないだろうということで、簡単に自己紹介をし、食べながら話していると、次第に春風さんは緋山とばかり話すようになっていった。
そのくせチラチラこちらをうかがっているのも分かった。
……不自然。
当然星海さんも困った顔をしていた。
…………まあ、誤解は後で解くとして、せっかくの機会だと、聞けることを聞こうと思った。
「そういえば星海さん、パティシエが夢って言ってましたっけ」
「え? ああ、うん。それより敬語じゃなくていいよ。というかうち、敬語使われるの苦手で」
「あー、俺も女子にタメ口は苦手なんですが……まあ、がんばる。……それで?」
「あはは、うん、がんばって。……で、夢の話ね。パティシエは昔から……本当に昔から夢で……だからずっとそのために勉強してきたんだ」
「昔から……」
「せっかくの――人生だからねー」
それを聞いて、もしかしたら彼女は俺と同じようなことを考えたのかもしれない、と思った。
――前世で叶えられなかった夢を、この世界で叶える。
だとするなら、星海さんの決意は固いだろう。
……やはり面白いと思った。
その後も、たまに質問を織り交ぜつつ雑談をして過ごした。
前に文芸部を訪ねたときの話も出たので、その時の様子から、蒼月先輩との出会いを聞いたりもした。
どうも登校中に蒼月先輩の落とした本を拾ったことが出会いらしい。
いい事をしてるんだけど、初っ端からついてないね。
昼休みが終わるころには「うーん、楽しかった。この学校に転校してきて初めてできた男子の友達があなたで良かった」とまで言われてしまった。
視線を感じたので、ふと横を見ると春風さんがものすごくいい笑顔で俺を見ていた。
……結果的に春風さんの思惑に丸々乗っかったわけだが……まあ、星海さんと仲良くなれただけよかったかなと思う。




