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××××年 八月三十一日
夏休み最終日。
夏休み中ごろに怪我した不思議なカラスの傷が、完全に癒えたころというわけだ(さっきまで読んでた小説の話です)。
さて、明日から学校。
……と言うことは、本当に明日から始まるのだ。
前世でやった『ゲーム』の物語が。
迷惑にならないように、面白おかしく観察していこうと思う。
とはいえ、本当に『キメわん』の主人公――星海光が転校してくるのかどうかは分からないわけだが。
××××年 九月一日
本当に転校してきた。本物の星海光さんだ。
転校してきたのはいいんだが、俺にとって予想外なのか予想通りなのか……どうやら彼女にもゲームの知識があるらしい。
しばらく見ていて気付いた。
疑問に思ったのは、ゲームの始まり、つまり転校初日の自己紹介。
そこで主人公は、自分の夢を「自分だけのおんりーわんを見つけることです!」と高らかに宣言するところから、ゲームはスタートする。
それから、各キャラたちと遭遇するイベントを起こしていく。
が、今日彼女の挨拶にはっきりと自分の夢を「パティシエになって自分の店を持つことです!」と言い切った。
それだけなら特に違和感は持たない。
そしてその次。
その後、星海さんは東野の横の席に座るように言われたが、「すみません、目があまり良くないので、一番前がいいです」と断った。
ちなみに東野の席は前から二番目。わざわざ変えてもらうほどではない。
その後観察していたが、メガネやコンタクトを持っている様子もないし。
これは明らかに東野の横を避けたように見えた。
後は、昼休みまでは普通の授業だったので、校内案内も昼休みになる。
ゲームなら学食にご飯を買いに行くついでに、隣の席の東野が案内するのだが、今回は席も違うし、星海さんもわざわざお弁当を持ってきていた。では誰が案内するのか? と思っていたら、春風さんが案内を引き受けていた。
――春風さんと言えば緋山だ。
緋山も緋山で、実際に行動を起こしだした。前よりもより積極的に春風さんに話しかけるようになり、休み時間も別のクラスに行っているようだった。
ちなみに緋山は転校生と言う存在に首をかしげていた(やはり『キメわん』のことは知らないのだろう)が、特に星海さんを気にした様子はなかった。
昼休みはどこに行くのか聞いてみると、「体の弱いこと一緒に弁当食うことになってさ」と言われた。
どうやら先ほどの休み時間で四葉さんと知り合えたらしいな。
で、昼休み中ごろに春風さんだけが教室に戻ってきた。
気になって聞いてみると、星海さんは途中で生徒会長――天野先輩が案内してくれることになり、星海さんは渋々ついて行ったらしい。
――そういえば今まで書いてなかったが、生徒会長は選挙で決まったのだが、天野先輩と桐野先輩、両方がやることになった。……まさかの同数だった。
春風さんに話しかけたついでに、案内の間どういう事を話したのかも聞いてみた。
「ええと、普通に世間話だよ? 転校してきたばかりだから友達になってほしいって! 後は……あ、そうだ。一年教室と三年教室、他には図書室と中庭と屋上は案内しなくていいって言われちゃった。不思議だよね? 一年生と三年生の教室は分かるけど、図書室とかは行くことがあるかもしれないのに」
と言う答えが返ってきた。
その言葉に、やはりゲームの記憶を持っているんだと思った。
そして、緋山とは逆に、誰かを攻略する気はないんだと思った。
星海さんが案内しなくていいと言っていたのは、ゲーム時、各攻略キャラがよく出現していた場所だからだ。
でも、これはゲームではない。
だからこそ、イベント関係なしに廊下で天野先輩に捕まったわけだ。
春風さんにお礼を言い、その場を離れる。
その際「ねえねえ、それよりなんで星海さんの事聞いてきたの? ……もしかして、もしかする?」とめっちゃ目をキラキラさせて聞いてきたが、「なんとなく気になっただけですから」といい、そそくさと自分の席に戻った。
戻る間も後ろから視線を感じたので、変な誤解をされてる気もする……まあ、いずれ解いておこう。
さて、星海さんが、もしも本当に『パティシエになる』ことが夢なら、確かに絶対に攻略キャラとは一緒にならないだろう。
何故なら、『キメわん』では、付き合うキャラで自分の将来も決まってしまうエンディングだからだ。
乙女ゲームやギャルゲーのエンディングは、様々なシチュエーションがある。
それは付き合った直後や数日後を描いたエンディングもあれば、その攻略キャラと付き合うことで、数年後どうなっているのかをエンディングで示すものもある。……で、『キメわん』は後者だ。
各キャラを攻略する間の重要なイベントで、全てのキャラはそれぞれが家の問題や、将来について悩んでいて、その悩みを解決することで、より親密になりそのキャラと付き合うことになる。
そしてエンディングは、数年後、攻略したキャラに主人公がついていき、そのキャラが将来の目標に掲げたものを手伝っているというものになる。
――例えば、親の都合で政治家になる設定のキャラなら、そのサポートに努め、開業医を目指すキャラなら、その病院で働くため看護士になる……と言った感じだ。
それは自分が選んだキャラについていくのが『キメわん』主人公の夢――おんりーわんになるということ。
実際に自分の夢があるなら、それは受け入れられないだろう。
……もちろん、それはあくまでゲームの設定であり、たとえ星海さんが攻略キャラの誰かと付き合うことになったとしても、本人の夢があるなら彼らも無理強いはしないとは思う。
だが、今までの行動から察するに、ここをゲームの世界だと思っている星海さんが、それを知る由もないというわけだ。
その後すぐに疲れた様子で星海さんが戻ってきた。
春風さんがどうしたのか聞いているのを、こっそり聞いてみる。
……どうも天野先輩に案内されている途中に、呉島蓮に遭遇して目をつけられたそうだ。
それはもう、不運としか言いようがない。
しかもその会話を東野も聞いてしまったようで、話に参加し出すという始末。
――東野はどんだけ呉島蓮が不愉快なんだ。
ちらっと見えた星海さんの顔はひきつった笑顔だった。
その後放課後、久しぶりに一緒に帰ろうと春風さんに誘われて、顔がにやけている緋山をよそに、俺は文芸部に向かう。
本当は陸上部あたりを覗いてみたいところではあるが(星海さんが出会ってないのは宮倉くんだけだと思われるため)、自分の部活をおろそかにするわけにもいかない。――部誌の配布も近いのだ。
で、部室に入って思い出した。
蒼月先輩がいたんだった。
そう思い、部活中転校生が来たことをそれとなく話してみると、
「ああ。……会ったよ、そういえば」
だそうだった。
……どうやら朝のうちに遭遇していたようだった。
てことはほっといても宮倉くんと遭遇するかな?
なんとなく星海さん…………不運っぽいし。
なんかこう……避ければ避けるだけ当たる感じ。
さてさて、さすがに色々あったので、星海さんを中心に書いてみた日記。
しかし……書きすぎた。
ちゃんと数えたわけじゃないけど、人生最大文字数の日記ではないだろうか。
……とりあえず、さすがに両方を観察し続けて、両方の様子を書き記し続けるのは難しいようだ。
今後は交互に観察し、記しておこう。
しかし、片方は積極的にキャラとの間を深めようとし、片方は全力で接触を避けようとする。
それぞれ考え方や思いがある………………んだろうけど!
申し訳ない! 本気で面白くなってきた!!




