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ギャルゲー乙女ゲー観察日記  作者: 蛇真谷 駿一


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 ××××年 四月四日


 朝、登校する時、校門前で何か軽く言い争いをしているように見えた。


 新入生同士、ぶつかったのかな? と思い、チラ見すると、そこにいたのは東野だった。


 なにしとん。

 そして相手の方は、新入生のようだった。


 最初は、新入生がたまたま東野の気に障る行動でもとってしまったのかと思ったが、少し話を聞く限り、どうやら東野が一方的に攻め立てているのではなく、ちゃんと口論になっていた。


 口論と言っても大声で言い合うのではなく、互いに淡々と自分の理論を言い合っていた。


 東野に対してそんな口を利ける一年がいるのかと思い、しっかり顔を確認すると、その一年は、『キメわん』の後輩枠にして腹黒王子『呉島くれしまれん』だった。


 ………………納得。


 呉島蓮は『キメわん』において、ある意味ジョーカー的な扱いをされていた。


 何故かというと、呉島蓮は攻略対象であるのと同時に、比較的有名な『バッドエンド』の役割も担っているからだ。


 通常の乙女ゲーは、ソフトによっての違いはあるが、基本的には各攻略キャラとのエンディングと、誰とも付き合わないエンディングの二パターンのみが普通である。


 だが、『キメわん』――『キメラレナイノおんりーわん』は、その二パターンとは別に、もう一つエンディングがある。


 それは、主人公が呉島蓮の思い通りに動いてしまうと起こるエンディング。――通称『奴隷エンディング』

 まあ、奴隷エンディングと言うのはユーザーが勝手につけた名前だが。


 ちなみにそのエンディングは、ゲーム内で様々起こるイベント(呉島蓮が関係してようがしてまいが)を、無難な選択肢を選び続けると、自動的にそのエンディングに向かう。

 呉島蓮の想像通りの行動という扱いになるためらしい。


 奴隷エンディングの情報は、発売前から地味に有名になっており、ゲーム正面のパッケージには、『キメわん』のメインと言われる東野と、明らかに悪役風な影がつき、ニヤリと笑っている呉島蓮が描かれている。


 俺も興味本位でやってみたが、ラストの後夜祭終了後、呉島蓮に首輪を無言で微笑みながら差し出される場面の一枚画と、それに対する選択肢が『笑顔で受けとる』しかなかったのを見たときは、少々引いた。


 ちなみに呉島蓮をちゃんと攻略すると、多少ヤンデレの気はあるが、そこまでの危険な思考は出てこず、甘え方がわからずに嫌味や黒いことを言ってしまう後輩として付き合うことになったはず。


 しかし、やはり奴隷エンディングのイメージがあったので、正直呉島蓮とは関わりたくはなかった。


 とはいえ、そうも言っていられなかったので、とりあえず間に入って話を聞いてみたところ、東野の教師への授業内容の改善を求めるとこから始まったらしい。

 ――去年その先生の授業は、教科書を読むだけだったので、そのせいだろう。とは思った…………まあ、それは置いておくとして。


 それをたまたま聞いた呉島蓮が、思うところがあったのか口を挟みだし、あれよあれよと言う間に、何故か今、東野と呉島蓮は効率的な教育の考察を討論していたらしい。


 ――それはお前らが決めることではない。最初に東野に改善を求められていた先生もすでに蚊帳の外だし。

 ともかく俺は、それをここで話しても意味はないと説得し、両者を落ち着かせた。


 すぐに落ち着いたのは、遅刻ギリギリでもあったのも思うが、それともう一つ、

「お前たち、さっさと教室に行けよ」

 天野先輩が声をかけてくれたおかげだと思う。


「英司。一年相手に何をしている。もう少し大人になれ。それと一年、君はもう少し目上の人間に対して敬意を払うように」


 天野先輩がそういうと、二人とも一応は納得したように返事をした。


 ……てか、天野先輩は東野と知り合いだったんですね。


 そう、聞いてみると、

「なんだ、知らなかったのか。……東野の父上と私の父は友人でな、時折顔を合わせることがあったんだ」

 へー……と一瞬思いかけたが、よくよく思い出してみると、確かにそんな設定もあった気がする。


 …………ゲームの記憶意外と薄れてるなぁと思った。


 それと、そのままだと有耶無耶になりそうだったので、一応先生にも「東野の指摘は自分も思ってたことです。改善していただけるとありがたいです」とだけ言っておいた。

 天野先輩も「生徒からの要望は確かに生徒会に届いてます。生徒会からも改善を要求しておきます」と言っていた。

 これで多少はマシになるだろう。


「ふぅん……」

 といい、その様子を呉島蓮が見ていたようだが、気にしないことにした。

 そういうのは女の子にやってくれ。


 その後は平和に過ごせた。

 それどころか、蒼月先輩が短編を一つ書いてくれたという軽い事件も起こった。


 どうやら、暇を持て余して書いたらしい。

 ありがたく頂戴し、次の不定期部誌に乗せようと思う。


 ……それにしても、朝のせいで今日は疲れた。

 明日はいい日だといい。




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