9
×××○年 九月二日
始業式だった。
授業もなかったのでさっさと帰ろうとすると、久しぶりに見た幽霊部員に捕まった。
今度こそ体が弱くて会えていない美少女(つまり四葉さん)を見に行こうと言い出したのだ。
断った。
当たり前だ。俺は何度も会っているのだ。
すると幽霊部員は拗ねたように、だったら緋山を誘うと言い出した。
意味が分からなかったので詳しく聞いてみると、緋山は幽霊部員と一緒に、何度か美少女と会いに行っていたらしいのだ。
その時、幽霊部員は気おくれして美少女達に話しかけれなかったそうだが、緋山は何度か話しかけに行っていたとのこと。
それどころか、生徒会の副委員長(桐野先輩)が美人という情報をどこからか仕入れて、生徒会室に用事を作って会いに行っていたそうだ。
想像以上にアグレッシブに緋山は行動していた。
観察日記と銘打っておきながら、あまり観察できていなかったことを知ることが出来た。
ただ、その緋山の努力もむなしく、あまり美少女たちとの仲は進展していないらしい。
それは、ゲームの設定を守ろうとする世界の強制力! ……なのか、単に緋山が緊張してうまく話せなかっただけなのか……。
……なんとなく後者のような気がしてならない。
実際俺は文芸部を作ることが出来たし。
幽霊部員はそのまま緋山を探しに行ってしまったので、俺は帰ることにした。
緋山が一緒なら、観察した方がいいと一瞬思ったが、よく考えれば緋山はもう帰宅していた。
あのアホはしばらく校内を男探ししてもらうとしよう。
そんなどうでもいいことをさっさと忘れて歩いていると、今にも泣きそうな男子? の声と、慰めるような女子の声が聞こえた。
気になって声のする方に向かうと、背の低い男子が半泣きで俯いており、同じくらい背の女子が「なはは……」と苦笑い気味に男子の頭を撫でていた。
最初はリア中がいちゃいちゃしてるのかと思ったが、よく見ると両方とも知った顔だった。
男子の方は『キメわん』の年下風キャラ『宮倉秋』。
そして、女子の方は『キミだケに』のキャラで、活発娘と呼ばれる『奥仲流姫』だった。
何故この二人が一緒にいるのかと思ったが、確かどちらも陸上部だったのを思い出した。
と言っても、確か宮倉秋の方は、半分マネージャーのような形だったはず。
ゲームでの当初、宮倉秋はとにかく気が弱く、ただ走るのが好きと言う理由で、陸上部に入部。
結果、陸上部内のマスコットキャラ――もとい、いじられキャラだった。
だが本人は自分が苛められていると感じていた設定のはず。
そんな中『キメわん』主人公が転校初日に、たまたま、その勘違いを解き、陸上部の部員たちと仲良くなるきっかけを作った。
それ以降宮倉秋は、まるで子犬のように主人公を慕い、心酔していく設定だった気がする。
その様子が年下の男の子に好意を持たれている状況にしか見えず、お姉さま方からの人気は一番だったと記憶している。
主人公とは同い年――つまり今の俺と同い年で、さらに『キメわん』にはもう一人、来年入学してくるであろう後輩キャラもいるのだが、その後輩は、腹黒く、戦略的に主人公を落とそうとして来るキャラで、どうも年下っぽさを感じず、同学年の宮倉秋が、先ほど記したとおり『年下風キャラ』と言う位置づけになっていたんだった。
そして奥仲流姫のほうは、小柄ながら、陸上部の期待の星……的な扱いだった気がする。
確かゲームでは、走るのが大好きな子で、勉強が大の苦手。小柄な見た目の通り、無邪気に主人公に抱き着いたりなどのスキンシップが多い子だったと思う。
天然が少し入っていて、たまにとんでもない行動に出たりもしていた。
好感度を上げるのが簡単で、なおかつ、大体教室かグラウンドに出没することが多かったので、主人公の幼馴染である春風美鈴の次に攻略しやすいキャラだったはず。
この学校は男子陸上部と女子陸上部で分かれているんだが、どういう状況で二人が一緒にいるのかわからなかった。
なので、少しだけ会話を盗み聞きさせてもらうことにした。
……悪いことをしている気になったが、これはこれで面白く、観察日記っぽかったので後悔はしていない!
「ほらほらー、泣かないでよぅー」
「ぐずっ……僕は、ただ走るのが好きで、この部に入って……」
「うんうん、あたしもだよー」
「でも、先輩は……トップを目指さなきゃ、部に必要ないって……」
「あらら、悪い先輩だなぁ」
泣きながら相談している相手に緊張感のない返しだった。
「っすん……奥仲さん、は、どうして僕についてきたの……?」
「んー、突然男子の方から走り出したから気になっちゃって」
興味本位!
「…………奥仲さん、僕、この部、やめた方がいいのかな……」
「そんなことないよ! 走るの好きな人はみんな友達! その先輩を成敗してくるよ!!」
!? なんか突然怒り出した。
「!? えぇ!? い、いきなりどうしたの!?」
「だってさ、よく考えたらその先輩おかしいもん! 部活は楽しくやるものだよ!」
そのまま奥仲流姫は本当に男子陸上部に向かおうとして、宮倉秋に止められていた。
そのとき、俺と奥仲流姫の目が合ってしまった。
「ちょっとそこのお兄さん! あなたもおかしいと思うでしょ!?」
唐突だな……。
普通に通りかかっただけの人だったらどうするつもりだったんだろ。
何はともあれ、答えることにした。
「その先輩の言いたいことはわからなくもないけど、だからと言って追い出すのはおかしい」
すると、宮倉秋は「聞いてたんですか……」と恥ずかしそうに言った。
「すまない、盗み聞くつもりはなかった」
と謝罪した。……が、ごめんなさい。盗み聞く気満々でした。
そこから詳しく事情を聴くと、男子は全国を目指すチーム作りを。女子は楽しく和気あいあいとしたチーム作りをしていくつもりなのだとわかった。
確かに、その分け方だと宮倉くん(そう呼ばせてもらうことにした)みたいな男子はいづらいかもしれない。
奥仲さんは「男子も女子みたいにすればいいのに!」とご立腹だった。
そこで俺は一つ提案をした。
それは、練習の参加、タイムの測定、結果が良ければ選手として精一杯、全国を目指すが、もし結果が悪かった場合、選手のサポートに努めていけばいいんじゃないかと言うこと。
少し違うかもしれないが、それは半分マネージャーのようなもの。
つまり、原作知識の利用――……と言うよりは、もはや誘導になるような行為をした。
なんとなく、自分の中のルールを違反した気がするが、正直他に思いつかなかった。(女子に混ざって部活をする以外で)
本人もそれなら……と意欲的だったが、俺自身はこれで良かったのか、よくわからないまま、二人と別れた。
……今日は考えすぎと書きすぎで、頭がいてぇ。
ねるぅ。




