神様入門1
トラックに跳ねられそうな子供を助けて死んだ。
トラックに当たった時と地面に当たった時とで二回痛かった。
「おめでとう!」
目を開けると小学生位の凶悪な顔をした少女が立っていた。死んでるのに目は見えるのか。
俺は床、壁、天上、全てが真っ白な部屋にいた。
「君は自分の役目を全うした」
少女が続ける。
「俺の役目?」
喋れるようなので聞き返してみた。
「君の役目はあの子供を助けることでね。彼は後に医学界に革命をもたらす人間なんだ。彼が居ないとあの世界の発展が大幅に遅れるんでね。代わりに君に死んでもらった。誇っていいよ。人類に貢献出来たことを」
少女は俺の前まで歩いてくる。
「お前…俺が死ぬと解っていて飛び込ませたのか!?」
「そうだが?」
少女は全く悪びれずに答える。
頭のなかで何かが切れる音がした。
目の前の少女に掴みかかる。
「何をする。死んでもらう前に君の運命を見てみたがこのまま生きていても借金に苦しんで自殺するだけだったからね。むしろ感謝してくれてもいいと思うが…」
「なんだと…」
俺は右腕を振り上げ、少女に殴りかかった。
「君…頭冷やせ」
急に目の前が真っ暗になった。
「おい、そろそろ起きろ」
目を開けると再び真っ白な部屋が見える。
「頭は冷えたか?」
少女が俺を見下ろしながら言った。
「あ…ああ」
「そうか…。なら謝れ」
「え?ああ、すまん」
「違う!」
謝ったら怒られた。
「何が違うんだよ」
カチンと来て言い返す。
「それが神に対する謝り方か!」
「神?誰が?」
「君の目は節穴か!」
「いてっ!」
頭を思いっきり蹴られた。
慌てて起き上がる。
「君の目には何が見えている!」
「床、壁、天上、お前」
あ…。
「貴女が神様ですか!」
「そうだ」
ヤバイ。神様を怒らせてしまった。一度壮絶な死を経験しているから死ぬのが余計怖い。
「申し訳ありませんでした!」
土下座で謝る。
「許すけど…次は無いぞ。魂が人間の内は下手なことするなよ」
「はい!」
よかった。許してもらえた。
「ところで神様。ここは地獄なんですか?天国なんですか」
少なくともこの世ではないはずだ。
「ん?もっと上だ」
「極楽浄土?」
「もっと上だな。そもそも君が居たところより一個上の層だからな」
何でまた俺をそんなところに?
「それで、俺がここに来た理由は?」
「ああ。そうだ。君が殴るから話がそれた」
神様が変な意地を張るからだとも思うが言わない。言ったら殺されるし。
「普通世界のために殺したなんて言われたら皆怒ると思いますが」
代わりに言い返してやる。
「そういうものなのか?やられたことはあってもやったのは初めてだからな」
「それで君を呼んだ理由だが…まあ食事でもしながらゆっくり話そう」
「食事?何処かに食べに行くんですか?」
「食べに行く?そんな面倒なことするか」
神様が言い終わるとまるで前からあったかのように長いテーブルと二個の椅子が現れる。
神様は俺に座るように言うと自分も椅子に座った。
「神なら貢いでもらうんだよ」
テーブルに原始的だが豪華な料理が並ぶ。
「私が受け持つ世界の住人からの生け贄だ。食え」
「い…いただきます」
とりあえず一番大きな肉にフォークをさす。
「固い」
「猪肉か。古代の肉料理なんてそんなものさ。嫌なら野菜か海の幸でも食え。ハズレは少ないぞ」
いわしと思われる焼き魚を食べてみた。今度はちゃんと美味しい。
「神様だからもっと豪華なものを食べてると思いました」
神様は猪肉をワイルドにかじりながら答える。
「技術水準が上がると信仰心が薄れて誰も貢いでくれなくなったのさ。全く、地蔵菩薩が羨ましいよ。そんなことより…」
神様が肉を皿に置いて、サラダを食べ始める。
「お前を呼んだ理由だが…。腐り行く運命だったとしても君の意見も聞かずに殺してしまったのは悪かったと思ってね」
神様はフォークをくるくると回しながら言った。
「君、此処で暮らさないか?」
「此処で?」
「神様になるって事さ」
よく考えたら転生はしてませんでした。