お約束にも程がある
私、今追われております。
なぜこんな事になったやら……
自慢ではありませんが。
私、体力無い、運動神経無い、運も無い。
無い無い尽くしでありまして、既に足が縺れそうになっております。
「待ちやがれっ!!」
なんて可笑しな恰好で怒鳴られても、止まる人はいませんよ。
何の仮装か知りませんが、着物に草履に刀なんか差しちゃって。
彼等がイベント会場を間違えたのか。
はたまた、私が紛れ込んだのか。
入学式の日。
学校の門をくぐった筈が、気がつくとごつい男性二名に追われている。
あ、二名だったのが一名になってる!
やれば出来るじゃない私!!
もしかしたら逃げ切れるかも?
等と、自分を見直したのも束の間。
何の事はない、二手に別れただけだったらしく。
私の進行方向に、消えた筈の男が飛び出して来ました。
男に突っ込むのも嫌なので、足に急ブレーキをかける私。
が、酷使し過ぎた足は言う事を聞かず、惰性で前に進み続ける。
「やっと捕まえたぜぇ、手間かけさせやがって!」
前方の男が叫びながら走って来る。
スピードの落ちた私に、後方の男が追い付いて来る。
言う事を聞かない私の足。
あぁ…… 捕まる……
と、思ったら。
いきなり停止した私の足。
上体がついて行けず前のめりに倒れそうになり、慌ててしゃがみ込むことで転倒を回避。
直後、背中に蹴り飛ばされた様な衝撃が走り、野太い悲鳴が聞こえました。
……悲鳴?
顔を上げてみると後ろに居た筈の男が、前方の男のお腹に見事な頭突きをかまし。
縺れて転がって行く。
………………。
良く分からないですが、助かっ…… ていなかった様です。
「恰好もそうですが、いろんな意味で面白い人ですね」
高過ぎず低過ぎず心地好い美声の持ち主は、背後から私の首に冷たい物を押し当てる。
横目で見たそれは…… か、刀?
そこで頭のどこかでプツリと音がして、私は現実逃避に成功したようです。
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