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失恋旅行

作者: 白虹

「慎平君…別れよう?」

淡く微笑みながら君は言う………

なぜ君は笑いながら言うんだ

なぜ君は俺の返事を聞かずに他の男の手を握るんだ

なぜ俺らはこうなってしまったんだ

なぜ…なぜ…なぜ…


「ぉい…おいっ!慎平!着いたぞ!」

「ぅうん…」

友達の一輝に激しく肩を揺さぶられて目を開けた。

「ずいぶんうなされていたぞ。…またあの夢か?」

「ぁあ…」

俺は車から降り、荷物をトランクから出した。 同じ日本なはずなのに暑さも太陽の力も全く違い、ある種暴力に近い。

目の前の一輝はこの暑さをものともせず上機嫌で旅館へ向かって行く。 俺は少しでもしのごうと手を目の上にかざしながら一輝の後を着いて行っ た。


「あ~!生き返る~!」

部屋へ案内されてすぐ、荷物をほうり投げてエアコンの冷風を全身に浴びた。

「慎平は大袈裟だなぁ」

座椅子に座った一輝は俺の行動を笑った。 ムカつくので俺はずっと言いたかった事を言った。

「お前なぁ…なんでこんなクソ暑い時に温泉なんだよ」

そうだ、今いるのは温泉街…しかも世界的に有名な別府温泉だ。

しかもこんな真夏に南国の温泉街なんてどうかしてる。 しかし一輝はヘラッと笑い、

「一回来たかったんだよね~さぁ、入りまくるぞ」

そう言うといそいそとお風呂用品が入ったバックを取り出し、部屋を出ようと した。

「…あ、そうだ。この旅館、露天は混浴だから♪」

ニヤニヤしながら言う一輝に冷めた目で見た。

「アホ、そんなんどうせババアばっかだろ。そんなもん見たくもないわ」

へいへい…と片手をふりながら一輝は温泉巡りに行った。


しばらく涼んだ後、汗で服がベタついてひとっ風呂浴びたくなったので俺も温 泉に入ることにした。

が、一輝のようにわざわざ外に行く気もない。 幸い旅館にも温泉がある。 俺はそっちに入ることにし、準備をした。

風呂を探して歩き回ると露天風呂にたどり着いた。 どうも露天風呂と家族風呂だけ別になっているらしく、普通の内湯が見つからなかった(後で聞くとここは別館で内湯は本館にあるらしいと知った)。

内湯を探すのも面倒なので家族風呂に入ろうとしたが、先客がいるらしくダメ だった。

仕方なく露天に入ることになった。 更衣室に服がないことを確認し、俺は風呂に入った。 お湯は好みよりも熱かったが、とろりとした感覚が心地よくて岩に背中を預けた。

目をつぶり、先程の夢の事を考える… 恵美と別れたのはもう一月も前の事。

原因は彼女に他に好きな人が出来たから。 彼女は可愛くて…俺には勿体ないくらいだった。

だから仕方なかったのかもしれない…だが、今だに未練がある。 本気で好きだったから…

そうやって考えてため息をついているとふいに扉が開く音がした。

婆さんが入って来たのかと目を開けるとそこには同じくらいの女がいた。 女は俺の姿に気付いてないのか俺のいる場所から対角線上にある洗い場に 座った。

さすがに目に毒なので見ないようにしながらどうやって上がろうかと悩み出した。

…後から考えればこっちの方が先だし、湯気ではっきりとは見えないだろうから普通に出ればよかったのだ。

しかしいきなりの事で焦っている俺には無理だった。 そうこうしている間に彼女は体を洗い終え、湯舟に入って来た…って洗うの 早くないか!? さらに慌てていると彼女も俺の存在に気付いたのか、こっちに近づいて来た。

「あら、こんばんは。お風呂、気持ち良いですね」

しかも話し掛けてきた!

やばいやばいやばいやばいって!

これはもう出るしかない! そう思った俺は、

「のぼせそうなので失礼しますっ!」

そう叫びながら勢いよく立ち上がり、手元にあったタオルを掴むと逃げるように 更衣室に入った。


部屋までダッシュした俺の様子に一輝は驚きつつも面白そうに目を輝かせた。

「珍しいね、どうしたんだい?」

少しでも答えれば根掘り葉掘り喋らされることがわかりきっているので、

「いや、なんでもないよ」

そう笑ってごまかした。

「ふぅん…まぁ、いいや。さぁ、ご飯食べに行こう!」

一輝は凄く聞きたいという欲求を顔にありありと書きつつも空腹に負けたらしく、さっさと部屋を出た。

俺はバックを置き、後を追った。 食堂に入ると既にほとんどの客はお酒が入り、宴会状態だった。

どうも慰安旅行かなんかで団体で来ている所があるらしい…

俺らは空いている隅の方に座った。 ご飯を食べていると、

「隣、いいですか?」

そう、女二人に言われ俺は回りを見た。 確かに他は酔っ払いが多くてここが一番良さそうに見えた。

「なぁ…」

「もちろん、大歓迎ですよ♪」

俺が言う前に一輝が満面の笑みで彼女達を受け入れた。

「ありがとうございます♪」

そう言って彼女達は座った。

「ねぇねぇ、なんて名前?あ、俺は一輝でこいつは慎平」

微妙に興奮している一輝に

「私は絵里です」

「あたしは真里♪」

絵里さんはなぜか俺をずっと見ていた。

「…えと、俺に何かついてる?」

視線に耐えられなくてそう聞くと彼女はコソッと俺の耳元で、

「さっき、露天風呂にいました…?」

そう囁いた。 まさか…

「…え?」

そう聞き返すと、

「あ…違ったらすみません…なんか声が似てる気がして…」

ちょっと恥ずかしそうにしていた。 どうも彼女がお風呂の相手らしい…

「あ~…それ、俺です」

恥ずかしいので小さい声で答えると、

「やっぱり、当たってよかった」

彼女は笑って言った。

その後、話が盛り上がって夜更けまで話し込んだ。


部屋に戻り際、絵里は俺に小さな紙を渡して来た。

紙にはアルファベットの羅列… 俺はそれを携帯に登録した。

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