風船姫
呪いを解くには24時間以内に―?
世にも珍しい童話風ギャグ小説。
風船姫って何者?
どんな呪いを掛けられたの?
風船姫
本名
ジャジャ・ウマー
男は、手にありったけの力を込めて風船姫の首を締め付け、呪いの刻印を押した。
「これで24時間以内に、運命の恋人を探し出さねば、お前は俺の花嫁と成るのだ!!!」
高笑いを上げながら、頭の先から足の先まで、黒噤めの男は、風船姫の元を去って行った。
首筋にウッスラと呪いの薔薇の刻印を浮かべた姫は、悔しそうに眉をしかめた。
「糞っ。バカ・ボンルーの奴、トチ狂ったか…。この私に呪いを、かけるとは…。」
姫は首筋を手で、押さえながら、バカに押し倒された体を、ゆっくりと持ち上げた。
姫は足元に散らばった、沢山の、しぼんだ風船に魔法の息を吹き込んだ。
そして、膨らんだ風船を手首に巻いた複数の紐に、くくりつけると彼女の足が大地を蹴った。
少しずつ少しずつ、姫の体が浮き上がって行く。
「24時間。楽勝。
バカの思う通りに成ってたまるか。」
何て口の悪い姫だろう。頑張れジャジャ。
姫のぶら下がる風船は、いつの間にか、遠くへ遠くへと風に流されて行く。
彼女が空から見下げた大地は、彩りの花、清らかな河のせせらぎ、生い茂る木々、鳥達は羽ばたき美しいったら、この上無い。
群れの中の一匹が風船姫へ声をかける。
「あら?ジャジャじゃ無いの。浮かない顔をして何かあったの?」
風船姫は、鳥を指に停めると事情を説明した。
「なる程ね。それなら、河の畔に住むモグラのお爺さんなら、アナタの未来の恋人について占ってくれるんじゃ無いかしら?」
「ああ。モグラ爺さんか…。有難う。訪ねてみるよ。」
白いフワフワの羽毛を震わせると小鳥は姫に微笑みを浮かべて飛び去った。
姫は、進路を変える事無く、そのまま風船にぶら下がり飛び続けた。
飛び続ける事、1時間。
モグラ爺さんの住む穴ぐらに到着した姫は、爺さんとテーブルを囲んで居た。
モグラ爺さんは、短い指で器用にタロットカードを並べて行く。
次にそれを姫が開いて行き、爺さんは困惑の表情を浮かべた。
「ジャジャ姫。アナタの運命の人は、東におる。
……しかし、数奇な運命もあった物じゃ…。
いや。姫よ。兎に角、東に行きなされ。」
「ああ。モグラ爺。有難う。東に向かってみるよ。」
姫は、穴ぐらを抜け出すと再び風船に揺られて飛び立った。
東へ東へ―。
途中、天まで伸びる樹木に食べられそうに成ったり、姫より体の大きな蜂に風船を割られそうに成ったり、幾多の難を逃れて、東の最果てまで辿り着いた彼女。
後30分程で、24時間経つと言う所だ。
「あれだ!急がねば時間が無い!」
風船姫ジャジャの向けた視線の先には、薔薇の荊に囲まれた巨大な城が佇んで居た。
姫はすばやく風船を切り離すと、城の門の中へ駆け込んだ。
其処には、彼女を遮る物は何も無く、城の階段を思い切り駆け上る。
最上階まで階段を駆け上ると、扉を力任せに、押し開けた。
其処には、風船姫の運命の人が!!!!!!
「バカ・ボンルー!!!!!!!!!!」
風船姫は床に崩れ落ちた。
「おや?ジャジャじゃ無いか?後30分で、呪い成立の時間だが、運命の恋人とやらは見つかったのか?」
バカはフフンと鼻を鳴らした。
崩れ落ちた風船姫の首筋から、見る間に薔薇の刻印が消えて行く。
「しどい…。こんな仕打ち。」
しかし、後々、意外にも人の良いバカ・ボンルーと盛大な結婚式を開いた風船姫でした。
おしまい