Remember me
『“何で”だよ?』
聞き慣れた声に優良が振り返ると、不機嫌そうな顔をした虎が教室の壁を背にして立っていた。
『“何で”って何が?』
『とぼけるな。奴はお前と付き合っていながら、お前の後輩と二股かけて、挙げ句の果てにはお前を振ったんだぞ。それなのに何で笑って許した?悲しく無いのか?悔しく無いのか?怒りは無いのか?』
相手を壁に縫い止めて逃がさない鋭い視線に、優良は眉を下げて苦笑した。
『そりゃ悔しいし、悲しいよ。妹みたいに可愛がってた後輩に彼氏を盗られたんだもの』
『なりゃ何で怒らない?せめてもう少し恨み言言う方が普通だと思うんだが?』
眉間に皺を寄せながら近付いてくる虎に、優良は小首を傾けながらう〜ん、と唸る
『それもそうなんだけど…けどさ、振られたから二股かけられたから怒るのって、何だか“筋違いだ”と思ったもんだからさ』
何を言いたいの分からない、と言った表情で首を傾げる虎に、ジョニー立ち上がると優良はそっと近付く。
『確かにあいつは浮気してた。付き合い始めてからすぐに。その事に対しては私、怒って良かったと感じてる。―――だけどその後にあの子を選らんだのは私よりあの子の事を好きになった、と言うことでしょ?』
『それは…そういうことになるが………』
『なら…しょうがないじゃない』
驚きの色を浮かべて見開かれた目を見つめ返すと、
『だって誰かを好きになるのは当たり前のことだし、誰かを嫌いになるのも別に普通のことでしょ?単に私より愛しい人が出来て、その人を大切にしたいと思っただけじゃない。それに対して怒るのって、やっぱおかしいよ』
少し寂しそうな瞳がゆっくりと閉じられた。
『あいつがあの子の事を好きになって、あの子があいつを好きになるのを咎める権利も、二人を傷つける権利も私にはない。それどころか私があいつを許して二人が幸せになるのなら…』
『素直に退く―――そういうことか』
幼なじみの問いに、少女は黙って頷いた。
『―――いいのか?』
顎に手をやり、思案するように眉間に皺を寄せた虎に、嬉しそうに優良は微笑んだ
『いいんだよ』
『あ〜………けど忘れられるのは嫌だなぁ』
『いや?』
『そう。私と付き合ってた事とか遊びに行ったこととか、二人でいて楽しかった時のことを忘れられるのだけは嫌。いつか――みんながお爺さんやお婆さんになった時に思い出してくれるだけで良いから、あんな事もあったな、何て考えてくれるだけで良いから、私と一緒に笑った事を忘れないで欲しい。私という人がいたことを――』
『 忘れないで 』
『―――忘れたりしないさ』
『うん―――そうだといいな』
少し不満そうな、けれど優しげな声に頷きながら優良は心の底から思う
頬を伝う涙の感覚がその思いを一層強くする
同時にかつて好きだった少年と、妹のように可愛い少女の顔が浮かぶ
忘れないで
一緒に笑ったことを、共に見た夢のことを。
忘れないで
そしてどうか
お幸せに
机から鞄を引ったくった優良は、自分よりも一つ上にある、虎の顔を見上げて、
『帰ろうか』
満面の笑みを頬に刻んだ。
虎はただ押し黙っていたが、しばらくしてから静かな笑みを浮かべた
『そうだな、帰るか』
はい…またまた駄文でごめんなさい↓↓次はもっと良いのを作りたいです!!