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5.前進。

「じゃどこに? 知ってるんですか? 琴葉ちゃんは無事なんですか? いまどこに?」

 クレアの肩を掴んで揺すりたい心境だった。そんな事できもしないヘタレの仁は、手を握ったり開いたりして我慢していた。


「そんなにコトハという女の事が心配なのか?」

 うんうんと、何度も首を縦に振る仁。


 クレアは、なぜか不安そうな表情をその美しい顔に浮かべた。

「き、きさま、コ、コトハという女のことが……好きなのか?」

 仁の青い顔が赤に変わる。


「忙しい少年だな。コトハの事が好きなのかと聞いている。これは大事なことだぞ!」

 柳眉を釣り上げたクレアの顔が迫る。パーフェクト美人を見慣れてないととても怖い。


「え、えーと、その、……好きです」

 恥ずかしいやら逃げ出したいやらで、仁は恐る恐るクレアの顔を見た。

 口をへの字にした顔が遠ざかる。むーん、と唸るクレアの頬がピンク色に染まる。


「ひょっとして、クレアさんって恋愛に免疫のない人なんですか?」

「うるさい! 本官だって恋愛の一つや二つ!」

 真っ赤な顔をして怒鳴るクレア。この年で恋愛が一つ二つなのかよ、と、仁としては噛み付きたかったが怖いのでやめた。


「それで、琴葉ちゃんの安否は?」

 このままではラチがあきそうにないので、仁は強引に話を続けた。


「残念だが、それについて話す権限は、本官に無い」

 ぷいと視線を反らせるクレア。


「言わせるだけ言わせておいて! なんだよ! 教えてよ!」

「話すべき権限を持った人物がセンターにいる。……そういう事だ。貴様がその者に直接聞くがいい」

 クレアの焦点は仁の額に集まることで落ち着いたようだ。何らかの葛藤があったのだろうか。頬が上気している。


「じゃ、生きているんですね?」

 仁が一歩前に出た。一歩下がるクレア。


「機密事項だ!」

「怪我してないんですか?」

 さらに一歩進む仁。さらに一歩下がるクレア。


「それも機密事項だ!」

「どこにいるんですか?」

「だから機密事項だと言っとるだろうが!」

 クレアがキレた。足音を立てて一歩前に出る。


「ひいいっ! すみませんっ!」

 この逆襲に、仁が慌てて後ずさる。見慣れない金色の目で睨まれると、とても怖い。夜、光ったらどうしよう!


「どうやってあの土砂から逃げられたか、いまいち理解に苦しむが、助かったのだから良しとしよう。とはいうものの、この場所はまだ危険地域だ。取り急ぎ可及的速やかにここを離れるぞ。五秒で準備しろ!」

 言うなりクレアはバックパックを背負った。


「いやちょっとあの……」

 軍隊とはこのようなものなのか? それを民間人に押しつけて良いのだろうか?


「ちょっと待ってください! 携帯持ってますから!」

 ポケットから携帯を取り出す。衛星通信で圏外のない携帯だ。

「これで……あれ?」

 圏外の表示。

「気が済んだか? 行くぞ」

 衛星通話なんだけど……。


 否応なく体を動かすも、体のあちらこちらから痛みの信号が伝達される。そこかしこの筋肉が悲鳴を上げ、仁を非難しだした。これはまだ動かない方が体によい。


「クレアさん、動けないものは動けません! もう少しこのまま――」

 三発の銃声が轟いた。

 仁の足元、左右そして前方の三箇所。無彩色の煙が立っていた。

 クレアが握る拳銃の銃口からも、紫の煙が立っていた。

「面倒な子供だな」

 さあついてこい。とばかりに首をクイと捻り、大股で歩き出すクレア。

 仁は足を引きずりながら、一生懸命歩き出した。


 歩き出したのはいいが、十分と保たなかった。

「あのー、足が痛いんですけどぉ」

「セントラルシティに着けばマッサージ屋がある。そこで足の裏マッサージでもしてもらえ。本官は嫌だがな。あんな痛いの」

 話にならない。


「もうだめっス!」

 腰から下が動かない。仁は足から崩れるようにしてヘタリ込んだ。

 後は、はぁはぁと肩で息をするのみ。

「仕方ないな。どれ、本官が元気にしてやろう」

 バックパックを降ろすクレア。中から薄いシートを取りだしその場に広げた。


「ここで横になれ」

 クレアがシートを指さす。

 固まる仁。『元気にしてやろう』と『横になれ』という二つのワード。

 これは「体を横たえて、リラックスなさい。お姉さんが、元気にしてア・ゲ・ル♪」ということか?


 いけない妄想を膨らます仁。


 極度の疲労を負っているにも関わらず、キビキビした動きで仰向けに寝転がる。

 次にかかるはずの言葉「リラックスして」を心待ちにしている。


「そうじゃない。ベルトをゆるめて、うつぶせに寝ろ」

 バックパックをごそごそやってるクレアさんから指示が飛ぶ。ベルトをゆるめろと指示が出た。……ベ、ベルトっスか?


「う、受けですか? 僕、受けっスか?」

「受け身だ。体の力を抜いてリラックスしてろ」

 き、きたーっ! 受け身来た。リラックスと共にやって来たー!

「は、初めてなので優しくしてください

 クレアさんの手が仁の腰にかかる。ベルトを引き抜いたズボンにかかる。


「なんだ初めてか。よしよし、お姉さんに全て任せて、力を抜け」

 パンツごと一気に下げられたズボン。むき出しになったお尻の双球が、山のすがすがしい空気を感じて緊張する。


 ああ、さようなら僕のアレ。そして、こんにちは僕のソレ。


「こら、力を抜け!」

 尻たぶに、クレアさんの柔らかくて暖かい手がかかる。バラの花びらが散っていくイメージ。


「は、はい! ごめんなさい琴葉ちゃん――はうっ!」

 感覚が違う。約束と違う。予定調和と違う。何もかも違う。

 気持ちよくない。むしろ痛い。むしろ激痛? なにこれこわい。


「すぐ済むからな。筋肉注射だけど痛くない痛くない。消毒忘れたけど大丈夫だ」

 この感覚は、注射器? その針? 太いのが刺しこまれて出血?

 冷たい液体が、臀部の筋肉に浸透していく。


「よーし終わった。よく我慢したな。えらいぞ」

 大技をキメた大型犬を褒めるがごとく、抜き取った跡を乱暴にスリスリするクレアさん。

「もうズボンはいていいぞー」

 肉体的痛みと精神的痛みから涙になっていた仁。意味はわかったが理解できないでいる。


「こ、これはナニ?」

「危ない薬ではない。栄養剤だ。……ヤッバーイ製薬のニソニク注射。有名だぞ」

 すごすごとズボンを上げる仁。何かに負けたような気がするが、何にだろう? 

「さあ、これで歩けるはずだ。出発するぞ!」

 手際よく後片付けを終えたクレアの後にしたがう仁。言われたとおり、足が軽くなっている。


 しかし、前にも増して心が重くなっていく仁であった。


夜なべ(w)。 手袋を編むように、5話アップ! がんばれ、私!

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