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33.キス中は喋れない。(最終回)

「アルフレイ・ランドの機能が正常に動いているということは、コトシロ様が健在で働いているということでしょう」

 これは片手を吊ったライラ少将の見解。


 ここは、主立った役職のエルフィ達が一堂に会し、報告会と善後策を協議する場である。


 仁とクレアは、その場を後にしていた。事の顛末は、オブラートに包んで話しておいた。

 コトシロを許してやってくれと言う仁の願いは、あっさりと通った。


 廊下で、鼻の頭に絆創膏を貼ったシェリル軍曹と出くわした。ミアに手を振ってすれ違っていった。


 何のことはない。みんな無事だったのだ。


 エルフィの体は、戦うためにできたものではない。有り体に言えば打たれ弱い。ちょっとした衝撃で腰を抜かす。僅かな痛みで、あえなく失神する。


 だから、戦闘自体、見た目ほど激しかったわけではない、ということだ。

 エルフィ側死者ゼロ。重傷者ゼロ。コケたとき、不用意についた手を捻挫させたショックで白目を剥いたライラが一番の重傷者だった。


 金獣サイドも死者が出たとは思えない。銃で撃たれても平気な体と回復力である。

 つくづく平和な世界であった。


「低脳猫耳クソ女のニケもおとなしく引き上げてくれたことだし、ほとぼりが冷めたら金獣のムラへ遊びに行くといい」

 クレアが車のドアを開ける。

「コトシロも、いつか引きずり出してやる」

「そうだね。引きずり出さなきゃね」

 監視カメラを覗きながら、仁もドアを開ける。ミアが隙間から滑り込んだ。


 地下駐車場におかれた緑と白のツートンカラーの車は、クレアの個人所有車だ。タイヤハウスが左右に飛び出したデザインの、小さなスポーツカーである。


 クレアがハンドルを握る。仁は助手席に収まる。後部座席でミアがはしゃいでいる。


「結局、仁は帰らなかったわけだが、……馬鹿なことをした。悔いが残るぞ!」

 口調は怒っているようだが、顔は怒っていない。


「実は、僕のかわりに、琴葉ちゃんと僕の携帯が帰っていったんですよね」

「それは面白い。向こうの人間がどんな顔でそれを見るか、想像するだに愉快だ!」

 クレアは、笑いながらシートベルトを締めた。作り笑顔ではない自然な笑い。


「だが、コトハはもうここにいない。アルフレイで人間はただ一人。寂しくないか?」 

 ハンドルを握り、真っ直ぐ前を向いたままのクレア。


 仁は、それに答えず、質問で返した。

「クレアさんはどうですか? いえ、どうでしたか?」


 仁は、クレアが答える隙を与えず、話を続けた。

「クレアさんだけ、なんでアルフレイって呼ぶんですか? みんなアルフレイ・ランドってフルネームで呼んでますよ」

「ランドを付けると、安っぽく聞こえるから……かな?」

 アクセルを踏み込み、車は滑るように走り出した。


「ライラさんは、日本のお茶碗のこと知らなかったみたいだよ。お箸も知らないみたいだし」

 クレアに対し、堅苦しかった仁の口調は、ここに来て普段通りの話し方になった。

「そう?」

 クレアの返事は素っ気ない。


 やがて地下駐車場を抜け出す車。日差しが車内に入り込む。後ろでミアがくしゃみを一つした。


「アルフレイ・ランドには警察と検察組織が無いのに、なんでクレアさんは、その名称を知ってるのかな?」

「アレだ、……コトハの携帯に入っていた。百科事典の中に」

 左折のウインカーを点けざまに、本線と合流する。後部車両の急ブレーキ音が聞こえる。


「マスターの中には、大枚をはたいてエルフィになる人もいるって、前に言ってたよね?」

「そうだったっけ?」

 すこししゃべり方が変わってきたクレアが、何かを隠すかのようにアクセルをめいっぱい踏み込んだ。加速で、ミアが後ろで転げている。


「大怪我をした琴葉ちゃんは、どうやってあの手紙を書いたのだろう? しっかりした筆跡だったけど」

「さあ?」

 なかなかのドライビングテクニック。追い越し車線、本線とジグザグに車を抜いていく。


「おでん……って日本語だよね? 日本特有の料理だよね?」

「そうとも限らないんじゃないか?」

 リヤタイヤをスライドさせ、大きなカーブをクリアしていく。


「クレアさん、十年前、何してました? 生まれて十四年間、どんな仕事してました?」

「……」

 クレアと仁、ミアの乗った小さな車がスローダウンしていく。


 やがて車は、力なく路肩に止まった。


 サイドウインドウを開けるクレア。肘を出し、空を見上げる。

 綺麗な空気が入ってきた。車の走行音に混じって、小鳥モドキのさえずりが聞こえてくる。


「クレアさん、琴葉ちゃんだろ?」

 後頭部、産毛の生え際を爪でポリポリ掻くクレア。彼女の癖のようだが、明るい銀の髪もまたいいね。


 あ、クレアさんと目があった。

 今度はそらさない。真っ直ぐ見つめることができる。


 クレアさんの、真っ赤なルージュに彩られた唇が動いた。

「正解!」


 次にクレアが取った行動で、仁は、喋ろうにも喋れなくなってしまったのだった。


   おしまい。

  



最後の後書き


最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございます。


最後の最後で、仁君は琴葉ちゃんに会う事ができました。

少年は、とうとう少女を捜し出しました。

少女は、ずっと少年を待ち続けておりました。

ボーイミーツガール。僕の彼女は百四十万人、それはそんなお話です。

コメディではありませんw。


終わりの無い話はありませんし、終わらない話は嫌いです。

これにて、「僕の彼女は百四十万人」は一巻のお終い!


とはいうものの、二人の人生はまだまだ続きます。


さて、この後、仁君はどんな人生を送るのでしょうか?

決まっている事は、たった二つ。

琴葉ちゃんの尻に敷かれ続ける人生である事。

ろくな死に方をしないであろう事。


それ以外は、アズマダにも解りません。

このお話の続きは、皆様の頭の中にある、ソレ。そうソレです。


では、また近いうちに――。


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