表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

32.サヨナラ。

 ところが、コトシロは間を開けずに話し始めた。


「羨ましかった……からかな?」


 チラリとクレアを見るコトシロ。クレアは銃を動かし、続きを促した。コトシロは、今はエルフィしか映しだしていないモニターを眺める。


「マスターを愛する事しか能のない、馬鹿なエルフィとスヴァルトが……」

 長い黒髪が揺れる。

「だから、二人を争わせたかった。二人の生き甲斐であるマスターを取り上げてしまいたかった!」

 激しく音が響く。コトシロがパネルを両手で叩いたのだ。


「マスターを取り上げたかったなら、僕を殺す方が簡単だったはずだ」

「だから、ニケをビフレスト・ポートへ導いた」

 バイザー越しにコトシロが仁を見る。


「うっそだぁー」

 仁が笑う。


「いや、ニケさんを向かわせたのは嘘じゃなくて、嘘と言ったのは、それで僕を殺そうとした方ね」

 手を置いといて、のジェスチャーにしている仁。


「だって、他に確実に殺せる方法が、いくらでもあったじゃないですか。例えば、さっきあのままエレベーターに乗せて停電させるとか、食べ物に毒を混ぜるとか……だいいち、ニケさんが僕を殺さないのは、コトシロさんが一番知ってるはずです」


いまいち決まらないのを自覚する仁。後頭部を掻こうとしてミアの腰を掻いてしまった。

 キャッキャと無邪気に笑うミア。


「わたくしもそんなに笑ってみたい。声を上げて笑ってみたかった! ヒトを……マスターを愛し、愛されたかった……」

 後ろを向き、背を見せるコトシロ。肩を振るわせている。


「それにマスター・ジン。あなたはわたくしに何を求めておいででしたか?」

 仁が問い詰められる番。それこそ、仁が気づいたという点。負い目を感じたところ。


「僕は、コトシロさんを……琴葉ちゃんじゃないかと思っていた。大怪我をした琴葉ちゃんがサイボーグ手術でコトシロさんになったんだと」

 長い黒髪。見た目の同一年齢。


「でも、それは間違いなんだよね。琴葉ちゃんは、死んだんだ。もうここにはいない」

 琴葉の死に対し、仁の目にブレはない。

「コトシロさんは、短い間だけだったらと気を回してもらって、琴葉ちゃんぽく振る舞ってくれたんだよね? お互い、傷つけ合うだけなのに」

 後ろを向いたまま、コトシロは何も言わない。


「ごめんなさい」

 仁は頭を下げて謝った。コトシロは許してくれそうにない。


「あなたが謝る必要はありません。わたくしも反省などいたしません」

 機械の腕を上げる。二の腕の外装が開き中のメカが丸見え。関節がモーター音を挙げて回転する。

「わたくしはこんな体」

 後ろを向いたままのコトシロ。


「だれも、こんなわたくしを愛そうなどと思わないでしょう。コトハ様のまねをしていれば、少しは気が惹けるんじゃないかと邪念しただけ。わたくしは醜――」

 コトシロの言葉は、そこから続かなかった。コトシロの背を後ろから仁がそっと抱いていたから。


 コトシロを振り向かせる仁。そっと手をバイザーに沿わす。

 かちりと音を立て、バイザーが上がった。

 もちろん、琴葉ではない。知的な美女の目が、仁を見ていた。色は金色。

「うん、やっぱりきれいだよ」


 コトシロは、振り切るように仁から離れた。二歩、三歩と後ずさる。

「ひどいですよマスター。わたくしはこう見えても、まだ十三歳なんですよ」

 涙が一筋、彼女の頬を流れた。


 仁より一つ小さい少女だったのか。

 ……コトシロさんを助けたかった。


 仁は決断をした。

「あとは警察に任せよう」


「アルフレイに警察機構はない」

 クレアが冷たく言い放つ。

「コトシロが警察と検察の機構を兼ねている。もっとも、アルフレイで、警察沙汰になる争いなど起こったためしはないがな」

 シニカルに笑うクレア。対して、目を丸くしてクレアを見つめ、口を開けている仁。


 仁は首をかしげて考えている。やがて、仁は何かを確信したのか、口を閉じ、うんうんと噛みしめるように頷いた。


「もし、僕に権限があるとしたら、この件は不問にしたい。……だめだろうか?」

 仁はクレアに問うた。

「コトシロ次第だな」


 コトシロはディスプレイを背にして立つ。背後に手を回す。回した手が出てきたら――。

 手に銃が握られていた。


 ニケが飛びかかろうとしたが、躊躇した。銃口が狙っているのは仁だからだ。


 クレアはとっさに降ろしていた銃を構えなおそうとして……、床に片膝をついた。

「クレアさん!」

 仁がクレアの肩を抱く。手に力が入らないのか、銃を持つクレアの手が震えている。


「この部屋に、ある波長を組み合わせた電波を流しました。エルフィであるクレアは、体の自由がきかないはず。万が一、エルフィが反乱を起こした時用に、ヒトが作った防護策です。さあ、この部屋を出ていってちょうだい!」


「コトシロさん!」

 発砲音。仁の足元に穴が空く。ニケが飛びかかる隙を与えず、第二弾装填。


「そうですね、ニケさんが邪魔ですね。マスターキトウヨ・ロリツミア」

 コトシロが金獣の言葉を喋った。とたん、ニケの体から戦意が喪失。仁とミアとコトシロを代わる代わる見つめた後、髪の毛を掻きむしって両の膝をついた。


「何を言ったんですか?」

 クレアの腕を取りながら仁が問う。十三歳の少女は、いつもの笑みを唇に浮かべていた。バイザーを上げたままなので、笑顔が見える。邪気のない可愛い十三歳の笑顔だった。


「マスターはまだ未成年だと言っただけです。ついでに、ニケではなくミアを恋人に選んでいると付け加えておきました」

 そしてバイザーを降ろす。口元に笑みはない。コトシロに戻った。

「これで金獣につきまとわれないでしょう? さあ、お行きなさい!」

 断固とした物の言い様。


「だめだよコトシロさん! 早まっちゃ――」

「ならば、あなたはわたくしを愛してくれますか?」


 ――それはできない。だって僕は……。

 でも仁は言い返したかった。クレアに止められなかったら。


「部屋から出るんだ。……部屋から出てやってくれ!」

 何度かコトシロとクレアを交互に見た後、仁はクレアに肩を貸した。ニケの腕を引っ張りながら、コントロールセンターを出て行く。


 廊下に出ると、ドアがゆっくり閉まっていく。仁との名残を惜しむように。

 部屋の中のコトシロは銃を構えたまま。ドアが閉じきる直前。コトシロの唇が動いた。


 サヨナラと。

始まりがあれば終わりもある。

終わらせるためには、始めなければならない。


いよいよ次回、最終回。


よろしければポチッと評価ボタンを押してください。

まもなく作者の涙が付いてきます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ