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31.八重事代主神(ヤエコトシロヌシ)

「ポット転送完(ペンテコステ)了。ビフレストの橋、消滅。シンエン発電所、機能停止。次はキャッスルと、このセントラルが目標に……」

 コトシロが、被害状況を機械的に読み上げている。


 セントラルのコントロールセンター。仁が初めてコトシロにあった部屋。

 壁一面を埋め尽くすモニターには、アルフレイ・ランド各要所での戦闘状況が映し出されていた。


「ミアちゃん、あなたはお逃げなさい」

「ミアッ?」

 抱いていたミアをゆっくり降ろすコトシロ。ミアの頭を優しくなでてから、首輪を外す。


「その首輪、外しちゃうんですか?」

 あきらかな動揺を見せ、コトシロがこちらを向いた。


「とても似合っているのに」

 仁がコトシロの部屋に入ってきた。ミアは何も言わずダッシュ。仁の胸に飛び込んだ。


「マスター……ジン? なぜここに?」

「ポートの電気が落ちたんでモニターできませんでしたか? ここにいるのは僕だけじゃありませんよ」

 ベロベロとミアに顔を舐め回されている仁の後ろから、クレアとニケが現れた。


「まさか、コトシロが金獣との内通者だったとは……」

 銃を構えるクレア。仁の左につく。

 獰猛な目をしたニケは、仁の前で姿勢を低くし、全身にバネをためている。


「わたくしはここを動いておりません。外に出れば目立つし、目撃者も多数いているはず。どうやって金獣と接触したのでしょうか?」

 コトシロの声には怒気が含まれているが、仁は努めて無視した。


「コトシロさんが接触したとは言っていません。金獣達と接触したのは、何も知らないミアちゃんです。コトシロさんは、センターにいながら全てを操っていたんです」

「それは以下の点で不可能です。ミアちゃんが目撃されたという報告がありません!」

 仁の説に穴を見つけたコトシロ。今度は自信たっぷりだ。


「ミアちゃんも僕の側近扱いですよね? じゃ、エルフィの方々は、僕のプライバシーを優先して、見て見ぬふりをして黙っているはず。目撃者ゼロで間違いありません」

 マスターのプライバシー最優先。側近の行動はマスターの行動。目撃したエルフィ達は、墓場までその情報を持って行く。


「とはいうものの、何も知らない二歳児のミアが情報を伝えることなどできません。でも、金獣と接触さえすれば、首輪のスピーカーで話しできますよね? コトシロさん、金獣の言葉を話せますし」


 コトシロが手に持つ、ミアの首輪を仁が指さす。

 仁の腕が震えている。実のところ、腕はもとより、膝までガクガク震えている始末。


「最初に会ったとき、言ってましたよね? コトシロさんは、アルフレイ・ランド全ての電子機器を調整する者だと。各セキュリティシステムを管理・調整するのが仕事なんだと」

 時々裏返る仁の台詞。コトシロは、口を挟まない。


「ミアちゃんの動きを監視しているのはコトシロさんだけ。コトシロさんが部屋にいると言えば、ミアちゃんは部屋にいます。本当はいなくても。部屋の鍵を外すも閉めるも自由自在。誰も疑わないし、確認もしない」

 仁の言葉は細かく震えていた。


「共犯者がいればだれでも……いえ、コトシロさんしかできない。その首輪があれば、ニケさんたち金獣と話ができる。発電所の弱点も襲撃手順も教えられる。地図だって渡せる」

 先ほどから指しっぱなしにしている首輪のことだ。……すこーし、指さすのが早かったのかもしれない。マヌケな姿を想像して、ちょっとばかり後悔する。


「ミアは難しいことをしなくていい。ニケさん達と会えさえすればそれでいい。琴葉ちゃんの病室へ行ったとき。マルタさんの店へ行ったとき。船で灰を撒いていたとき。金獣襲撃の会議をしていたとき。そのほかにもあったのかもしれないけど、充分打ち合わせできる時間がありましたよね? ……なんちゃって」 


 この世に生を受けたからには、いつか一度は言ってみたい「お前が犯人だ!」という台詞。それがこの(てい)たらく。

 あと、嘘をつくとき声が大きくなる! という定番も言い損ねた。


 コトシロが長い黒髪をかき上げる。

「わたくしを疑うとは、心外です。どのような証拠があって、……なんちゃってね」

 ひょいと肩をすくめるコトシロ。彼女らしからぬ軽い動作。

「バレバレですねぇ。いつわかったのかしら? これでも自信あったのよ」

 コトシロは、寂しい笑みを口に浮かべた。


「確信したのはポットに座ったとき。でも、発電所襲撃会議の頃からわかっていたんだと思います」

 結局「お前が犯人だ!」とは言えなかった。


「そもそも、僕の間違いは、こうであって欲しいと願う、思いこみによるものでした。でも、それが間違いだって事に、さっき気づきました。そうしたら先入観が無くなって……共犯者の存在にまで考えがたどり着いたら、全てわかったんです」


 両手を肩まで上げるコトシロ。

「わかったら何? わたくしをどうするというの? 調整者無しでアルフレイ・ランドが無事機能すると思ってんの?」


「えーとね、犯人を暴くためや捕まえるために、ここに来たんじゃないんです。ここでしたかったことは――」

 仁は、早足で部屋の中央へ歩いた。構えるコトシロを無視して通り過ぎ、全アルフレイ・ランド内放送用マイクを手にした。コトシロにとって予想外の動きだった。

 コトシロが全エルフィに向け、仁がマスターであることを告げたマイク。


「マイク、貸していただきます」 

 一度見て覚えている。脇のスイッチを入れた。四音の予鈴が鳴る。


「僕です。マスターの仁です。僕は僕の意志でこの世界にとどまる事にしました。マスター命令です。金獣との戦闘を停止してください!」


 各地を映しだしているモニターには、戦闘の手を休め、キョロキョロ周囲を見渡すエルフィの兵士達が映っていた。


「無駄な事を。金獣にはマスターの言葉は届きませんよ」

 腰に片手を当てるコトシロ。彼女の言うとおり、動きを止めたエルフィ軍に対し、ここぞとばかりに襲いかかる金獣。

「そうかな? 僕はそうは思いません」


 大きく息を吸って、溜めて――。


「みんなっ! 愛してるっ!」

 仁は、スピーカーが割れそうな大声で叫んだ。


 金獣の動きが止まった。無防備な姿で立ちつくしている。そして、エルフィと一緒に声の主を捜している。


「みんな僕の恋人だ!」

 エルフィ、金獣、分け隔て無く同じ仕草をとる。顔を赤らめるという仕草。


 言葉は通じない。でも声の調子から意味は伝わる。金獣たち全員が、「それ」を望んでいたのだから。


 戦いを仕掛ける者は両軍通して一人もいない。

 これが、この内戦の終演。あっけなく戦いが終わった。


 マイクを仁から奪う手があった。ニケの手だ。

「ニケ・エ・マスター。オナカム!」

 ニケの声が、放送された。


 たぶん、彼女はマスターと一緒にいるとでも言ったのだろう。

 腕を突き上げ、雄叫びを上げる金獣。

 一人二人とその場を走り去りやがていなくなった。金獣たちはみんな笑顔だった。


 仁は、マイクのスイッチを切った。そして、コトシロに向き直る。

「さっきも言ったけど、真犯人解明は通過点の一つに過ぎないんですよ」

 それは本当。だから、コトシロには極力丁寧に説明しようと思っている。勘違いして欲しくないから。


「僕はある間違いに気づいた。そして、たぶん真実にたどり着いた。その副次的……まあ、オマケとしてコトシロさんが主犯だということに気づいたまで。だけど、僕が知りたい真実はそんな事じゃないんです。えーとぉ……」

 首にしがみついたままになっているミアを肩に乗せた。肩車の格好。


「なぜ、こんな事をしたんですか? コトシロさんには何の利益にもならない事でしょう?」

 仁は、コトシロの言葉を待った。どんなに時間がかかっても待つつもりだった。


 なぜなら仁にはコトシロに対し、ある負い目があったからだ。


回収!


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まもなく作者の、転がるような俺の生き様が付いてきます!


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