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26.犯人はヤス!(笑)

「マスター? どうかなさいましたか?」

「は? え? あ!」


 コトシロの声で我に返る仁。

 相変わらず体が沈み込む三人掛けソファに座る仁。彼の前で立っているコトシロ。


 超豪勢な控え室。

 仁は、先ほどまでミアを膝に乗せたまま、慣れない手つきでお裁縫をしていたのだ。マルタの店で買った端布が、仁の手により形を変えていた。

 いつからか手が止まり、ただぼーっとしたのだった。


 正確には、ぼーっとしていたのではなく、いろんな事をとりとめもなく考えていた。


 仁が気にしていることは、大きく分けて三つある。


 一つめは、元の世界に帰れる可能性。二つめは、金獣の脅威と、それに付随する内通者の可能性。三つめは、琴葉のこと。


 まず、一つめの心配事は時の運。じたばたしても始まらない。

 望郷の念はマックス。琴葉に誓った。必ず帰ると!

 でも、帰るのは一人だけ。琴葉が眠るこの世界を捨てて帰る罪悪感が仁を責める。


 次の二つめは……、金獣関係について与えられた情報が少ない。

 もし、金獣に内通している人、もしくは組織があったと仮定すれば、……得する人が犯人なんだろうね?

 よくわからないから、身内が犯人でなければそれで良しなんだが……。


 クレアさんは、金獣の集落を襲撃した実行犯である。内通どころか、金獣に命を狙われる立場。だからシロ。


 次にコトシロさんの容疑。

 襲撃、闘争によってこの町のシステムがガタガタになっている。コトシロさんは、いまこうしている間でも、各所に指示を飛ばして修復に忙しい。余計な仕事を増やしてと、おかんむりだ。損害を被る立場上、シロで間違いないだろう。


 それにコトシロさんは……いやいや、なんのなんの!


 その次にミアだが……コトシロさんが言ったように、膝の上でよだれを垂らしながら眠りこけている二歳児に何ができようものか。


 どこにあるかもわからない電子機器であるコトシロさんの目を盗む事など不可能。だいいち、部屋にロックか掛けてしまえば、ミアは一歩も出られない。だから真っ白。


 ライラさんは、残念ながらチャコール並に濃グレー。あの向上心。出世欲は恐い。思考過程に怪しいところが多々ある。


 少将という立場も微妙。少将ともなれば、いろんな権限を持つ。ほとんどの事ができるだろう。そして上には中将、大将という席がある。野望を抱いていても不思議じゃない。

 金獣の乱を手際よく抑えれば、さらに箔が付く。しかし、この説には弱点がある。


 手際よく抑えられていない。


 仁の見たところ、この人は頭脳明晰用意周到、先手先手と打っていくタイプ。今回の事件、ライラさんの手腕からはほど遠い対応。一度ならず二度までも先手を取られている。


 ライラ少将のスペックはここまで低くない。


最終目的があって、わざと失態を犯しているのなら話は別だが……。だからグレー。


 いちばん面白そうなのが、海上軍組織犯説。


 最初に損害を被ったのは海上軍だが、何かが壊れたとか、兵士が死んだとか、そんな被害じゃない。せいぜいが停電。

 物的および人的被害ゼロ。

 発電所襲撃による被害は目くらましとも考えられる。


 なにせ、仁の一件で陸上軍に優先権を取られっぱなし。ここは一発逆転を狙って! なんて動機も充分。だから、もっとも濃いグレー。


 とはいうものの、仁に対し、純粋すぎるエルフィの皆さんが、ここまでダーティな手法をとれるだろうか? そもそも、エルフィは、物騒な計画を思いつくのだろうか?


 そんな辺りをウロウロしていた時にコトシロから声がかかったのだ。

「金獣と内通者の事で、お沈みになられておいでですね?」

 ずばり言い当てられた。


「ライラさんか、海上軍関係者が一番怪しいと思うのですが……」


 仁は、先ほどの考えを披露してみる。

「なるほど。実に面白い説ですね」


 いつの間に運ばれてきたのか、テーブルの上にはコーヒーが二つ置かれてた。

 すでにミアは、テーブルの下でホットミルクと格闘している。猫舌だったのか、柔らかいほっぺを丸く膨らまし、さかんにフーフー息を吹きかけている。


 コトシロが角砂糖のポットを開けた。

「いくつ入れます?」

 二つ。……と言いかけて手を止め、コトシロのサンバイザーに隠れた目を見る。

 琴葉がここにいたら「お子様」と一蹴されたであろう。ましてやコトシロさんは……。


「ブラックで」

 精一杯男前の顔をする仁。

 コトシロの唇がほころんだように見えたが、たぶん気のせいだ。


「コトシロさんは、どう思われますか?」

 立ったままのコトシロ。腰を沈めて自分のカップに角砂糖を二つ入れる。何か考えているのだろう。


「わたくしの考えを述べる前に、金獣についてお話ししたいと思います」

 カップを持ち上げ、すっくと背を伸ばすコトシロ。彼女の姿は、ハイネックの白いハイレグ。少ない面積の生地から、メタリックな手足が伸びている。


 仁の目の前に、そのコトシロの逆三角形が来た。

 えてして、アルフレイの住人は、細かいことを気にしない傾向にある。

 気恥ずかしさに顔をそらすものの、目がそれてくれない。  


「金獣とは、ヒトの手によって作られた疑似生命体。エルフィとは姉妹の関係。その目的はエルフィと同一」


 ポカンと口を開ける仁。

「そうか、それで……」

仁は気づいていた。ミアがマスターという単語を聞くたび、尖った耳をヒクヒクさせていたのを。 


「過去、とある一時期。アルフレイ・ランド経営の強化策として、当時ヒトの間でブームになっておりました獣耳と獣尻尾を導入しようという事になりました。それを具現化したのが金獣。スヴァルトというのが正式名称ですが、エルフィ達はだれもそう呼びません。商売敵ですからね。それに、いまいちテコ入れにならなかったと聞き及んでいます」

 仲が悪いのはそれが原因か。……にしても、全力で間違った方向にネコ耳を追求しすぎたのが敗因だと思う。変なノリも入っていたに違いない。あと、官も。


「だとすると、僕が拉致られたのは……」

「エルフィに先んじての接待でしょう」


 あのケモノ耳とモフモフ尻尾は……。いやいや、あの鍋の片方は、煮込み料理?

 もう一方は、嬉し恥ずかし露天風呂で、ケモノ耳といっしょに煮込まれましょう……なんて夢の設定だったとですか!

 遠い目をする仁。 


 ソファが右に少し傾いた。コトシロさんが、仁の右隣に腰掛けている。


 すぐそばに見かけ二十代、濡れるような黒髪。大人の女の人。萌えるサイボーグ!

 仁にメカフェチ症状は無いはずなのに、ドキドキしていた。体が熱くなってくる。

 そのお姉さんが、角砂糖を二個追加した。知らなかった。サイボーグって甘党なんだ。


「ニケという金獣は、クレアの立場にいたものと思われます」

 クレアと死闘を演じ、全身と片目に怪我を負った金獣。仁に暴力は振るっていない。むしろニコニコしていた。……それが妙に怖かったが……。


「なるほど」

 エルフィと同じく、長い年月、マスターを待ち焦がれていた金獣達。山一つ消し飛んだ天変地異だ。マスターがアルフレイランドに舞い降りたことは、容易に想像できるだろう。

 自分たちのテリトリーに降り立ったマスター。当然のごとく、それを迎え入れようとしたところ、眼前で商売敵のエルフィにマスターを奪われた。


 見れば、怪我で弱ったエルフィ一人による事件。ここは金獣たちのシマ。

 なめんじゃねえぞ! とばかりに、実力を行使してマスターを奪ったものの、その弱ったエルフィ一人にあっさり奪還された。


 面目丸つぶれ。いや、存在意義の否定。

 よって、今回の暴挙に出る。


「そういったところでしょう。彼女たちの目的は十中の十、マスターの奪還。当然、エルフィ達は全力でそれを阻止することでしょう」

 更に二個、角砂糖を追加して、カップを口に運ぶコトシロ。サイボーグの味覚って……。


 カップがソーサーに戻る。艶やかなコトシロの唇。

「陸上軍、海上軍どちらだとしても、嘆かわしい話だと思いませんか?」

 コトシロさんも軍部を疑っているようだ。


 暖かい気配。コトシロさんの顔が仁のすぐ側にある。

 腰を退きたくも、ソファに沈み込んで自由がきかない。

「この争いをなくす方法が一つだけあります」


 コトシロが囁くように、仁の耳元へ密やかに話しかけてきたのだった。


こんばんは。カフェイン中毒のアズマダです。

寄せられた感想に刺激され、半日早くお届けできました。

さあ、登った山は駆け下るのみ。


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まもなく作者の叫びが付いてきます!


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