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25.アルフレイ・シティ、痛恨の一撃!

「襲われたのはコドノ発電所。被害は発電機制御コンピューターと、発電機用エネルギー伝導管のみ。共に大破。現在復旧作業中。第十三区から三十五区まで停電!」


 ここは陸上軍のとある会議室。報告しているのはセントラル防衛の責任将校。

 出席者は、ライラを含む陸上軍の重鎮五名。海上軍トップ三名。あとは議長役のコトシロ。そして仁とクレア。


 本来この会議に、仁は招かれざる客である。無理に出席できたのは、マスターとしての権限だ。その理由は、ミア達金獣が気になったから。

 金獣がらみとは、仁がらみの事。知らないでは済まされないような気がしたからだ。


 さらに報告は続く。

「エルフィ十五体軽傷。重傷者、死者共に無し。目撃者によると、襲撃してきた金獣は十二体。全員、斧で武装」

「斧? 金属の斧か?」

 ライラが聞く。金獣たちは、金属加工技術を持たないらしい。


「はい、ただし、エルフィの斧です。金獣たちは、まず駐車されている車を襲い、標準装備されている緊急脱出用の斧を手に入れ、後に発電所を襲った模様です」

「これは問題です。金獣の知恵を褒めるべきか、陸上軍の迂闊さを攻めるべきか」

 ここで海上軍側の一人が皮肉を放つ。


「レムリア中将、発言は挙手の後にどうぞ」

 コトシロが、海上軍中将を諫めた。コトシロが仕切らないと、陸上軍と海上軍の中傷合戦になってしまうだろう。


「では、我らが愛しいマスターの御前で、二つの問題を定義いたします」

 立ち上がるレムリア海上軍中将。ウエーブをかけた栗色の長い髪。言うまでもなく美人。

 泣きぼくろがセクシー。

「車両の中にある斧の存在に、何故どのようにして金獣は気づいたのでしょう?」


 指を一本立てている中将。ずいぶん芝居がかっている。

 そしてもう一本立てた。

「機械設備の知識に疎い金獣が、見事に発電所の急所を破壊しています。あの二カ所は急所。大変効率の良い優れた破壊活動と言えましょう。おかげでタカマ十七区一帯は麻痺状態。ご存じないかと思われますが、十七区は、我が海上軍の鎮守府がある地区です」

 海上軍中将レムリアの目が尋常でない。もともと金色だけど。


「一方、ロクヤオン地区に位置する陸上軍は、被害地域外」

 一同をみわたすレムリア中将。特に仁を念入りに、そこだけ色っぽい目で。

 なんか凄く緊迫してきた。


「金獣による襲撃が鮮やかすぎます。あの者達に情報を与えた者の存在を確信いたします」

 レムリアが睨む先、それは陸上軍幹部がしめる席。


「我ら陸上軍を疑っているのですか?」

 ライラの隣で美女が立つ。ライラより肩の線が一本多い。

「気に障ったなら謝罪する。そのとおりだ!」

 軍部双方の幹部達が椅子を蹴って立ち上がった。ライラと海上軍の一人を除いて。


「マスターが可愛がっておられる金獣の幼体はどこにいる?」

 海上軍で一人座ったままの小柄な美少女。良く通る声だ。緑の髪が美しい。


「ミアちゃんは控え室でおとなしくしてます!」

 カチンと来た仁。声を荒げてしまった。全員の目が仁に集まる。ちょっと恥ずかしい。

 出過ぎたまねをしてしまった。仁が言わなくてもコトシロがモニターしているはず。


「マスターがおっしゃるとおり。マスター専用控え室で……悪戯をしておいでです」

 コトシロがバイザー越しに宙を見上げ報告。控え室のモニターか、受信機を見ているのだろう。口が僅かに笑いの形をとっている。


 気まずい雰囲気の中、小柄な少女はコトシロを見据えたまま。

「では、マスターが治療中の時は? コトハ様の散骨式の時は?」

 ライラより年少に見える、冷たい美少女。もっとも、エルフィの場合、見かけはなんの役にも立たぬ。現にライラとクレア――見た目、年上に思えるクレアの方が年下だったりする。


「治療中は、マスターの病室内で缶詰。ロックは一度も外しておりません。出入りは全てわたくしがチェックいたしました。ちなみに、病室の窓ははめ込み式。散骨式の時は、わたくしが同室にて直接監視しておりました。その他、全てこのコトシロの監視下に置いております。一度たりとも外部と接触した形跡はありません」


 バイザー裏に写る情報を読んでいるのだろう。コトシロは、レポートを読んでいるように機械的に述べるだけだが、しっかり仁をフォローしている。監視という単語を意図的に多用した。


「みなさん、お疑いのようですが、ミアは二歳児。たとえわたくしの目を盗んで金獣と接触したとしても、どうやって情報を伝えるのでしょう? 第一、あの子にコンピューター制御だとか、エネルギーだとかの概念があるとは思えません。発電システムに詳しいようにも見えませんし……。この中で発電所の急所を的確に指摘できる者、挙手願います」


 コトシロは一同を見渡した。睨め回すと言った方がいいかもしれない、上から目線。

「電気関係に詳しいエルフィなぞ、見たことがない」

 仁の考えを読んだわけではないだろうが、いいタイミングでボソリとつぶやくクレアさん。豊かな胸の下で腕組みをしている。


 クレアさんの意見はごもっとも。エルフィの成り立ちを考えれば、彼女らは何が得意で何が不得意かわかるというもの。軍隊を組織する事自体、皆様は無理をしておられる。

 納得いったのだろう。全員がおとなしく席に座った。


「マスターの『所有物』である金獣の幼体の監視は、わたくし・コトシロにお任せください。全責任をもって任に当たります」

 コトシロは、真っ先に自分の責務を宣言した。


 手慣れたものだ。


 マスターの所有物、と強調したところがズルい。でも、これでミアちゃんの安全は約束された。

 こういった先手の打ち方。お姉さん的ものの言い方。琴葉の言動に一致する。

 疑念を深めていく仁。


「ではいったいどうやって金獣たちが――」

 その時、ドアが勢いよく開いた。


「伝令!」

 頬を赤く染めた少女兵が会議室に飛び込んだ。今にも泣きそうな顔をしている。異常だ!


「部外者は立ち入り禁止である!」

 ライラが伝令兵を咎めた。だが、伝令兵は意に介さず敬礼する。

「金獣の襲撃です!」

 この場にいる全員が席を蹴った。二脚ばかり、派手に転がった。


「被害場所は……被害場所は、『マスター歓迎サプライズ式典』会場! うわーっ!」

 言って両手に顔を埋め、伝令兵は泣き崩れた。


「なんですとー!」

 あの、マイペースを崩さない、おっとりした性格のライラが、真っ先に取り乱した。

 それを機に、スズメ蜂の巣をつついたような騒動が起きる。


「おのれ! なんて卑劣な!」

「我らがマスターへの想いを! 全軍、鎮圧に回れ! 予備役も招集!」

「いや、そのサプライズって何?」

「全艦隊! 第七管区に回せ! 海上より艦砲射撃を食らわせてやる!」

「状況を知らせよ! 被害状況を報告せよ!」

「クレア少尉専用赤いウサギモドキの着ぐるみが燃えました!」

「その企画起こしたヤツ、出てこい!」


 書類が舞い上がり、人の出入りが始まり、怒号が飛ぶ。軍服が、走り込んできた事務方とぶつかって、抱えていた書類が宙に舞う。


「ええい! このような時こそ、本官が鍛えた山岳猟遊部隊の場だというのに、なんとも歯がゆいわ!」

 額のクリスタルを指でトントンしているクレアさん。イライラしている。


「クレア少尉!」

 呼んだのはライラ少将。 

「本官の出番か!」

「あなたの管轄下にあった山岳部隊を引き継がせてもらいたい」

 予想とは、ちょっと違ったようだ。足踏みをするクレアさん。

「仕方ない。よしとしよう!」

 やる気満々、クレアさんの鼻息が荒い。


「つきましてはマスター。緊急事態ですので、少しの間クレア少尉をお借りしたいのですが。もちろん、かわりの案内をお付けいたします。許可していただけないでしょうか?」

「やる気に溢れた乱暴な人を引き留める勇気はありませんから、かまいませんけど……」

 仁は人見知りの気がある。知らない場所で知らない人と一緒にいてるのが不安だ。


「わたくしがマスターのお世話を仰せつかりましょう」

 いつの間に近くへ来ていたのか、コトシロが真横に立っていた。


「シティのシステムは把握できますが、軍事行動は苦手です。部外者は邪魔にならないよう、ミアちゃんと一緒に控え室へこもっていましょう」

 知らないエルフィに緊張されながら案内されるより、苦手ながらも、見知った人と一緒にいる方が良い。……それに確かめたいことがある。


「よろしくお願いします」


 そういうことで、臨時作戦本部となった会議室を出る事となる、仁とコトシロであった。


いや、だめだわ!

30話→33話になる!


さてさて、いよいよ大詰めです、伯爵(誰?)


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まもなく作者の暗黒面(ネタ切れ)が付いてきます!

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