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24.アルフレイ・シティ、全土警報発令!

「今になって気づきましたが、アルフレイ・ランドって暖かい気候だったんですね?」


 仁は肺によどんだ空気を吐き出すように二度三度、大きく深呼吸してからそう言った。


 泣かないというのは撤回するが、必ず元の世界に帰るという誓いは撤回しない。重い荷物を背負っているが、体は軽いといった感じ。

 広い歩道を歩きだす仁とクレア。その足下をちょろちょろとミアが走り回る。

 車道を挟んで左右に店が並ぶ。ここは、セントラル中央商店街である。


「アルフレイは、一年を通して温暖な気候が特徴だ。そのことに気づく余裕が出てきたようだな」


 すれ違うエルフィ達は、みな一様に仁の出現に驚く。

 熱い視線を送ってくる者。真っ赤な顔でチラチラ見ている者。果ては気絶する者まで。

 百四十万人からのモテ率百パーセント。うれしい! けど行き過ぎ!


 上京したての田舎者よろしく、全方位をキョロキョロ見渡す仁。あることに気づいた。

「ところで、護衛の女の子達はいないようですけど、どうしました?」

「ふふん、一丁前(いつちよまえ)に気になるか?」 

 虐めるようなクレアの目。下心を見透かされ、慌てて頭を振る仁。


「私が護衛を引き受けるから、付いてくるなと言った。もともと、護衛なぞマスターには付かない。ライラの意図することは見え見えだ」


 仁は極力残念そうな顔をしないよう気をつけた。

「ライラさんに怒られないですか?」

「これはマスターのプライバシーに関わる件だ。軍将官ごとき小物に文句は言えぬ。考えてみろ、マスターはエルフィの神。ならば本官は神の側近だ。その言葉は予言者や教祖並。少将閣下が必死になる所以(ゆえん)だ」

 そうか、人間はエルフィの神様的立場だったっけ。


「エルフィは、アルフレイでおきたことは絶対に口外しない。マスターのプライバシー最優先だからな!」

 仁を親指で指すクレア。扱いがモノ的な気がするのだが、その件については後でじっくり話し合おう。


「例えば、側近である本官がいかがわしい場所を一人でうろついていても、エルフィ達は見ぬふりをする。本官が、マスターの命で、いかがわしい商品を購入しようとしているのかもしれないからな。……おっと、ここだ、ここ!」

 大きな店に挟まれた小さな店。残念ながらいかがわしい店ではない。

 看板に書かれたエルフィ文字は読めないが、手芸専門店のようだ。レースや生地の小物が品良く並んでいる。


 ……クレアさんと手芸店の組合せが想像できない。


 ドアをくぐろうとしたが、ミアがむずがった。

 甘い香水の香りが店内から漂っている。これが嫌なのだろうか? 


 ミアは、ショーウインドウ下に置かれたベンチに飛び乗り、寝そべる。

 中で走り回って、商品棚を倒されるよりマシか……。

「しかたないなあ。おとなしく待ってるんだよ」

 ミアを置いて店に入る。万が一、迷子になってもGPSで一発オーケー。心配はない。


「いらっしゃい……あら、マスター! と、ついでにクレア?」

「ついでは余計だ!」

 出てきたのは黒くて長い髪の女性。


 ――琴葉ちゃん!。


 もちろん違う。


 大きなウエーブのかかった黒くて長い髪。片目を覆っている。琴葉とは似ても似つかぬ妖艶な大人のお姉さんだ。


「何バカやってんだろう?」

 軽く首を振って、頭から追い出し、お姉さんを観察する。 


 着ているものは、シンプルな黒いロングのワンピース。

 胸元が大きく開いていて、ボロリっとこぼれそうな乳白色で丸いゲッフンゲフン!


「まあーっ! ほんとにクレア? すっかりクリスタルがピンクになっちゃって!」

「本官の軍同期でケツを割った友人、マルタだ」

「初めまして、マルタ・コウジュです。以後お見知りおきを」

「こんにちは、……あのマルタさん」

 気になる事があった。


 なんですか? と首をひねるマルタ。

「クリスタルの色が変わると、なんかなるんですか?」

 へのへのもへじをリアルにしたような表情を顔に浮かべるマルタ。


「クレア、あんた何も言ってないの? マスター、知らないみたいじゃない!」

「言わんでいい! あんなのお偉いさんが決めた飾りだ!」

 狼狽えるクレアさん。これで終わりとばかりに後ろを向く。それを見たマルタ、肉食獣の目をする。


「所有物扱いがピンクの証。クレアの身も心もマスター・ジンの物だから、他のマスターは手を出しちゃだめって印よ! 良かったわねー、クレア!」

 しょ、所有物? 所有物って言っていいの? 人権とかホントに無いの? 


「言うな! この発情メス猫め!」 

 振り向き、両手の指をわなわなさせているクレア。

「まあ、御下品! それより、どう? クレアの具合? とうぜん寝たわよね? お姉さんと比べてみない?」


 カウンターに丸いお尻を乗せ、スカートのスリットから覗く白い太ももを見せつける。

 なんか、こう、水蒸気と見まごうばかりの色気がムワっと沸きあがってるんですが……。

 これって、誘ってる? あきらかに誘ってるよね?


「あはははは……」

 クレアが背後でものすごいガンを飛ばしているので、何も言えない。でも……。

 顔、クレアさんに似てないか?


「ひょっとして……、お二人は姉妹?(きようだい)」

「「あかの他人っ!」」

 二人ハモりながら完全否定。二人シンクロして手を左右に振っている。


 ……よく考えれば、エルフィの誕生システムからいって、姉妹は発生し得なかった。

「マルタが一度会わせろとしつこいので、無理矢理スケジュールを合わせて――うるさいぞマスター! ――やってきたらこの扱いか? この店は暴力ぼったくりバーか?」

「ごめんなさいねマスター。私と金型が同じなのに、この子はS気がマックスのストイックタイプだから」

「そういうマルタは、ラウドネス値がマックスだろう?」

「ちょっと待って、ちょっと待って!」

 無理矢理二人の間に割ってはいる仁。


「なんですか? 金型とかラウドネス値とか? 頭の上で会話しないでください!」

 きょとんとした二つの顔。そうやって同じ表情をするとますます、この二人そっくりだ。


「金型とは身体構成のタイプ。我らの場合、コウジュ型と言う。ラウドネスは付けられた性格の種類。以上、説明終わり!」

 早口で説明するクレア。よくわからず、ポカンとしている仁。


 マルタが変な顔をしていた。

「それじゃ、わからないでしょ! あなたちゃんと説明したの? いい? マスター。金型とは、服でいう型紙のような物。生産工場でね、同じ金型からはほぼ同じ外見を持ったエルフィが作られるの! ラストネームがコウジュ同士。コウジュ・タイプという金型から作られた私たちは、見た目が似ていて当然なの」


 そういえば、エルフィのお姉さん達は、生まれるんじゃなくて作られるんだったっけ!

「じゃ、マルタさんもメイクを落とせばロリ顔に……」

 仁のセリフは撃鉄を起こす音で遮られた。


「ふふふ、エルフィが持つメイク術は、整形手術を軽く凌駕するのよ!」

 それがマルタさんの答えだった。

 マルタさん、胸の下で腕を組む。バスト強調の荒技! 片目に被った髪が揺れる。なんか、なんかイイ! もっかい言うけど、なんかイイ!


「約束通り顔見せしたからな。もう用はない。帰るぞ!」

 襟をつかまれ、後ろに引っ張られた。

「ちょっと待ちなさいよ! せっかくだから何か買ってちょうだいよマスター。支払いはクレアに付けとくから!」

 片目に被った髪を揺らし、ここぞとばかりに接近するマルタ。


 ふと、あることを思いつき、店内を見渡す仁。良いのがあった。

「じゃ、これとあれとそれ、ください」

「この(けが)したくなるような純白のサテンレース生地と、縛っても痛くない平面テープ、そして液をいっぱい吸い込みそうな同色の綿生地ですね。有り難うございます」

 まとめて小さな、それでいていかがわしい模様の紙袋に入れてもらうのをクレアが横目で見ている。なんとも疑わしそうなジト目だ。


「いやらしいプレイに使うんじゃないだろうな?」

「何言ってんですか! 逆にどんなプレイですか? 教えてくださいよ!」

「あれだよ、ほら、あれ。……本官に何を言わせるかっ!」


 拳を振り上げ、すんでの所で止めるクレア。これ以上降格したくなかったのだろう。

 逃げるように店を出る仁。

「説明し損ねたけどラウドネス値はクレアに聞いて! またいらしてね、マスター!」

 肉食獣のようにベロリと舌を出し、唇を舐めるマルタ。ごくりと唾を飲む仁。


「お、おいで、ミア」

 仁は慌てて目をそらし、表でゴロゴロしていたミアを呼ぶ。

「ミァッ」

 すでにベンチから下りているミア。転がるように走ってくる。息が荒い。


「クレアさん、ラウドネス値ってなんです?」

 答えないクレア。仁を追い抜いてずんずん先へ進む。


 どうしても知りたい。大きな声で聞き直す仁。

「ねえ、クレアさん、ラウドネスって――」

 振り向いたクレア。手で仁の口を押さえる。銃を撃ちまくっているのに柔らかい手だ。


「ストイックとは、ナニに対して潔癖であること。その正反対に、ラウドネスとは淫乱という意味だ。あいつのラウドネス値はいっぱいまで振られている。わかったか? わかったなら、大声でラウドネスラウドネスと、日の高いうちから大通りで叫ぶんじゃない!」

「クレアさんの声の方が大きい……なに?」


 遠くでサイレンが鳴っている。すぐに別の地域と思われる方向からも、二つめのサイレンが鳴りだした。


「まさか、クレアさんの言葉が猥褻物陳列罪だったとか?」

「違う、馬鹿! これは――」

 仁がいる地区でも鳴りだした。


「クレア!」

 後ろから声がかかる。マルタさんだ。

「店に戻りなさいクレア! 金獣が仕掛けてきたらしいわ!」

 クレアに続き、仁も足下に視線を落とした。

 何のことかわからず、狼狽えながらハッハハッハ言ってるミアがいたのだった。


残すところ、あと(たぶん)6話。


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まもなく作者の人生が付いてきます!


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