20.琴葉の病室
「やーやー、どうもどうも! あ、こっちもですか!」
時は、フォークとナイフで食べるスパイシーな昼食後。
場所はオープンカーの後部座席。
セントラル・シティの、西端にそびえるセントラル中央病院に向かう道中。
沿道を埋める無数の女の子達に手を振っているところ。
巨大とはいえ、一つの都市を半分横断するだけで、パレード騒ぎ。
色めき騒いでいるエルフィ達。様々な職業の制服で集まっている。
みんな美人。
一大コスプレ大会といって良いかもしれない。
そんなお姉さん達が、仁へ湯水のように熱い声をかけている。
具体的には「ピー」とか、「ピーピー」とかで、アンダー十四に投げかける言葉の羅列ではない。
アルフレイ・ランド政府公式発表参加人員、百三十九万六千体。
アルフレイ・ランドの総エルフィ数は百四十万体。残り四千体は軍関係者でパレードを仕切っている。
全アルフレイ・ランド国民がこのパレードに参加していることとなる。
これ全て、仁にラブコールを送っているのだ。
現に、運転手に任命されたエルフィは、感極まって泣き出したものだった。
手を振る所作にも熱が入ろうというもの。一緒になって手を振っているミアの横で、黒いサングラスをかけたクレア少佐は、眉をつり上げて周囲を警戒していた。
「ね? 選り取り見取り? 選り取り見取り? そうでしょクレアさん!」
仁は、完全に舞い上がっていた。
「思い出したのだが、貴様……じゃなくてマスター。前に山の中で、十四歳だと本官に言ってなかったか?」
手を振る動作をピタリと止める仁。助手席に座るライラも、意識を後部座席に向けている中、ミアだけが元気に手を振っている。
クレアを見るも、ティアドロップ型の黒いサングラスの下、表情は読み取れない。でも、なんだか不機嫌だ。
「再調査するか否かは、本官の心づもり一つだが……」
参道の中に見知ったエルフィがいたのか、軽く手を挙げて挨拶するクレア。
「あ、まあ、琴葉ちゃんの容態が心配だしね。浮かれない方が良いよね。あははは……」
何も言わず、仁を見上げるクレア。ぷいと横を向く。
「な、なんかまずい事でも僕、言いました?」
クレアという女性を前に琴葉の名前を出したのがいけなかったのか?
ゆっくり頭を(かぶり)振るクレア。
「手は振ってやって欲しい。なにせ、生きたマスターを見るのは数百年ぶりだからな」
シートに座り、上品な仕草で手を振る仁。
「貴様……いや、マスターの言うとおり、選り取り見取りだ。気に入った子がいれば、拾っていくがよい」
妬いているのかな? 職務にまっとうなだけなのかな?
「これから、メインイベントが待ってるわけだから、無駄なエネルギーは消費しない方がいいと思うぞ」
言葉の端々に険を含めるクレアであった。
「よくわからないけど、面会条件がそろったんですね?」
「そういう事になるのだろうな」
明るい照明。だのに陰気な廊下。それが病院。
頬を上気させ、必要以上に仁を意識した病院院長を先頭に、ライラが続き、すぐ後ろで仁とクレアが並んで歩く。病院ということで、ミアは一階特別室でお留守番だ。飛び出してはいけないという事で鍵がかけられている。
話によると、琴葉は、未だカプセルに入っているとのこと。詳しい話はしてくれない。と言っても例の睡眠治療だろうから、面会のタイミングが難しかったのだろうと推測する。
そうこうするうち前方突き当たり、扉の前で立っている人が目に入ってきた。
コトシロだ。
この人が出てくるということは……。
院長が立ち止まっていた。こちらを向いて、行儀良くたたずんでいる。
「マスター。面会の条件が全てそろいました。お待たせいたしましたことをお詫び申し上げます」
仁に形だけの詫びを述べてから、クレアに対し頷いてみせるコトシロ。目で合図を返すクレア。
院長は、それを合図として、チップキーをスロットに差し込んだ。
扉が、ゆっくり開いていく。見かけより肉厚な扉が開くと、もう一枚、内側に閉じられた黒い扉があった。
黒い扉が、重い音を立てゆっくりと開く。奥にはさらにもう一枚、白銀の扉。合計三枚の扉が間を開けず開いていく。
全てのドアが開くと、白い空気が床に流れ出てきた。
それは、冷気だった。
ここまで付いてきてくれた皆さん。
アズマダさんを信じてください!
次回、琴葉ちゃん登場!
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