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17.まっ昼間っから・ハーレム

「ただし!」

 コトシロが語調を強めた。


「未知のエネルギー、また、発生原因不明が故、いつ起こるかの予想がつきません。十分後かもしれないし、十年後かも知れません」

 仁の顔に浮かんだ喜色はそのまま。ただ、紙のように薄くなっている。


 ――いつ帰れるのかわからない。


「その事を認識しておいてください」

 そして、コトシロの物腰がもとのように柔らかくなる。


 仁は天井を見上げた。

 ――でも、きっと帰れる。


「それと、マスターが帰ってしまうと、エルフィ達は心の支えをまた無くすと言うことも」

 仁のため、仁を元の世界に返すために努力するエルフィ達。だけど、その努力が実を結ぶと、悲しい結果になるということだ。


「話戻りますが、人類が地上を去ってからエルフィが生まれたのですね?」

 コトシロは頷いて答えた。

「時系列的な意味では合ってますが、一部訂正させていただきます。エルフィは生まれたのではなく作られたのです。エルフィは生物と認識されておりません。ロボットの一種に分類されています。よって人権というものもありません。エルフィとは、ヒト女性の人権を守るために作られた疑似生物なのです」


 女性の人権ですか……それは主にアレに関する人権ですね。……ってことは?

「で、エルフィ……さん達が作られた目的ってのが……えー、……いわゆる……」

 急におどおどした態度を取る仁。目が挙動不審。


 続きはコトシロが引き継いだ。

「いわゆる風俗ですね」

 ごく普通に、そう、「あ、春ですね」ってくらいの気軽さで言い放つコトシロ。


「我らがマスターと呼ぶ存在は、人間の成年男子。アルフレイ・ランドは人間の男子専門の地。故に、女性型の疑似生命体しか存在しません」

 落雷に匹敵する衝撃が仁の全細胞を貫いた!


 全人類(健全な男子限定)が一生に一度は夢見た世界!

 女の子ばっかりの世界。

 人(健全な男子限定)、それを理想郷と呼ぶ!

 仁の鼻息が荒くなるのも致し方あるまい。


「エルフィは誕生し(ロールアウト)た時から死ぬまで同じ外見を保ったまま。例えばライラは十七歳の姿で誕生し(ロールアウト)、三十五年間活動を続けている事になります」

 じゃあ……、体年齢二十歳だと言ってたクレアさんは、二十歳の外見で生まれてずっと二十歳の外見のまま育ったんだ。……これは、なぜか合点がいった。


「さて、ジン様」

 いままでコトシロの後ろで控えていたライラが、前に進み出た。なぜかコトシロの口元に、含み笑いが浮かんでいる。


「ヒト男子であらせられるジン様は、実に百年ぶりの御降臨という事になります。エルフィ達は全て女性タイプ。個体数は百四十万体。全てがマスターからの愛を数百年間求め続けておりました」

 のほほんとしたなりのままソワソワしているライラさん。

 神様。もの凄く期待していいですか?


「ある者は恋いこがれ、ある者は憎み、絶望し、夢を見たまま生を終え……」

 ライラ少将は、いつもの表情のまま、大人びた仕草で指を鳴らした。

 仁は音に気づいて後ろを見る。


 後ろの壁が、するすると左右に開いていく。

 現れたのは、……綺麗どころが十人ばかり。


 女子学生風、アイドル風、男装の麗人、女教師風、お嬢様、同年代、年上、ロリ、エトセトラエトセトラ、様々なコスチュームで身を飾った見目麗しきエルフィの方々。

 みんな目が熱い。あれは恋をした乙女の目。もちろん恋の対象は、仁ただ一人。


「さて、ご用意させていただいたのは左の端から、陸上軍教育学部の学生、ネーナ。続いて、陸上軍酒房部所属、アルナ。陸上軍出入りの備品製造会社社長、アッカそれから――」

「ちょっと待って、ちょっと待ってください!」

 仁が手を振ってライラによる紹介をとめる。


「ひょっとして私をお求めですか? まったくかまいません。むしろお願いします」

 頬を赤らめるライラ少将。実に初々しい……。いやいやいやいやいや!


 昇ったはいいが、梯子を外されては困る。念のため、わかりきった質問をぶつけてみる。

「この皆さんはなんですか? 僕にどうせよと?」


 にっこりと笑ったまま、頭頂部にはてなマークを浮かべているライラ。

「なにって、……ジン様のお側付き恋人候補者です。夜のお供はもちろん、トイレに立たれた際の介添えまで、なんでもマスターの言いつけ通り働きます」

 凄いことをサラリと言ってのけるライラ。さすが少将! ……つーか、全員陸上軍縁故の女の子ばかり。権力闘争見え見えじゃん!


「どれでもお選びください。それとも全員、お持ち帰りになりますか? 全然かまいません。むしろ願ったりかなったりよ」


 仁が持つ保身能力がブレーキを掛けた。


 想像するに……、陸上軍の関係者というふれこみだが、おそらくライラ少将個人の息がかかりまくった女の子ばかりを厳選したのであろう。恐るべきは、その向上心。


 これは……うかつな行動に出られない。


 綺麗なお姉様はお好き? はい大好きです!

 しかしっ!


 大奥的な、或いは飛鳥から平安にかけての権力争いが仁の脳裏をよぎる。歴史、勉強しててよかった。

 待ったをかける仁の保身能力と、もういいじゃんと諦める男の本能がせめぎ合う。


「マスターは絶対者。なんなりとご命令ください」

 ライラの言葉が男の本能にエネルギーを与えた。

「絶対者?」

 そんな大げさな。でもこれはっ!


「我らエルフィを作ったのがヒトであるゆえ、ヒトは我らの神に相当するでしょう?」

 さっきも同じような事言ってたっけ。でもまさか、ここまでとは……。


「エルフィの存在意義は、神であるマスターを愛すること。天上の幸せは神に愛されること。ですから、マスターはご遠慮なさらず、我らに何なりとお申し付けください」

 絶対者。神。なんでもオッケイ! 大事な事だからもう一度、なんでもオッケイ!


 そして、仁の煩悩が理性を退けた。

「例えば、この場で服を脱いでください、とか言っても……?」

「皆さん、マスターのご命令です。直ちに脱衣!」

 躊躇無く衣服に手をかける女の子達。とても嬉しそうに脱ぎだした。


 有り難う神様。さようなら理性。仁は、猛烈な感動に固まったまま動けない。


「では、私も」

 ピンク色に頬を染めたライラ少将まで、襟に手をかけた。


「少将、しばしお待ちを。大事な手続きを忘れています。皆さんもストップです!」

 コトシロが割り込んできた。


「手続き? はて? 初耳ですね」

 ライラ少将が受ける。穏やかな表情を浮かべたままだが、言葉に険がある。


 コトシロはライラの言葉を無視した。あなたに向けて言ってませんよ、と言わんばかり。

「わたくしは調整者。(コントローラー)アルフレイ・ランド全ての電子機器を調整する者。たとえば……」

 部屋の照明が暗くなる。ドアが開く。コトシロは指一つ動かしていない。


「この部屋のように、各セキュリティシステムや、エルフィ生産管理のコンピューターを管理したり調整したりするのがわたくしの仕事」

 部屋の照明が戻る。ドアが静かに閉まり、カチリと音を立てロックされた。


「もちろん陸上・海上両軍のコンピューターまで管理しています」

 コトシロはライラを見ていない。ライラも、のほほんとした表情を浮かべたまま、コトシロを見ていない。


「さて、ここからがわたくしのお仕事。本来ならヒトの管轄機関で発行されたマスター認定書を提出し、登録させていただかねばアルフレイ・ランドの地にとどまることができません。ただ今回は緊急事態の上、特殊案件扱いに相当します。ジン様が人間の男子であることは、入院中の検査で証明済み。病気等も持っておられません。よって、アルフレイ・ランドの地において、今からマスター登録をいたしましょう」

「は、はあ……」


 要はパスポートがないと、きゃっきゃうふふできないから、パスポートを発行いたしましょうという事だ。


「ただ……一点だけ、証明しようのない点がございまして……アルフレイ・ランド条例三百一条記載、自己申告による認定という事例に当てはめたいと思います」

 なんか含み笑い浮かべているよ、コトシロさん。


 ライラさんは、相変わらずおっとりとした立ち姿に、柔和な表情を浮かべてるけど、苦虫をバリバリと噛みつぶしてる音が聞こえてくるのは気のせいか?


 よろしいですか? とコトシロが念を押す。

 ハイと頷く仁。なんだろう? 知らず知らずミアを抱く腕に力が入る。


「では質問です。ジン様は、『おいくつ』ですか?」

 即答してはいけないっ!


 仁の頭の隅っこ。十四歳男子としての知性と煩悩が、最大のピンチとチャンスを告げる。


 なぜわざわざ年齢を聞くのか? 仁は中学二年。十四歳。見ればわかる。それが引っかかる。中二の頭が熟考を開始した。

 ヒントはある。アルフレイ・ランドに散りばめられている!


 コトシロの説明を思い出せ! ライラ少将の言葉を思い出せ!

 と、十四年の経験が叫んでいる。


 ――いわゆる風俗ですね――。


 お酒と煙草は二十歳から。

 ……それだぁっ!


「は、二十歳(はたち)になったばかりです」

 沈黙が続く。物音はミアの寝息だけだ。恐怖で背中を汗が一筋流れた。


「二十歳にしては、ずいぶん……お若いような?」

 コトシロが仁を疑っている。ライラに同意を求めた。

 いや、これはカマかけだ。仁の煩悩が、脳に攻撃命令を出した。


「ひどい、背が低いのは僕のせいじゃないのに! マスターに対してなんという仕打ち!」

 仁、一世一代の猿芝居。嘘丸出し。冷たい汗がだくだくと額を流れていく。


「申し訳ございません。失礼をお詫びいたします。これでジン様はマスターと認定・登録されました。よろしいですね? ライラ・リイラ陸上軍少将?」

 ずいぶん堅苦しい名称を口にする。

 笑顔を浮かべたまま、ライラはワンテンポ置いて頷いた。


 二者間にどのような戦いがあったのか? なんとか最大のピンチを脱したようだ。

 コトシロの唇が微妙に歪んでいる。まるで笑いを我慢しているみたいであった。


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