16.アルフレイ人の秘密。
「えーと、それからクレア……大尉や、ライラ少将たち、アルフレイの人たちは、エルフィって種族で、人間じゃない、と?」
そこがいまいち信じにくいところ。
「ええ、種族どころか生物ですらありません。エルフィの初期開発名称が、ロボ・ワイフだったそうです」
「ほほう!」
仁は、眉につばを付けてから話を続けた。
「えーと、人の手によって作られた疑似生命体で、……原始分子から始まって、体を構成するタンパク質まで、全て無から人の手によって作られたと……」
「その通りです」
ライラが胸を張る。
「エルフィは工場で生まれ(ロールウト)、一括して教育されます。見かけはヒトと大差ありませんが、ヒトではありません。生物でもありません。疑似微生物や疑似昆虫を初め、食料となる動植物まで全て、我らが敬愛する、創造主ヒトの生み出した物。我らエルフィにとって、創造主であるヒトは、神に相当するのです」
その点にだけは! とばかりに合いの手を入れるライラ少将。マスターの発音あたりで顔が輝く。
人間を作ったのが神であるなら、彼女らにとって、エルフィを作った人間が神の地位に立つというわけなのか?
でも、神扱いの割に軽い。それは宗教観が無い証。ここは神様のいない世界。――と、これは仁の推測。
クレアさんが母と呼ぶ人は育ての親か……。父親が存在しないと言っていたのは、本当に存在しないという意味だったのだ。
「で、もともとチキュウに住んでいた人間達は、何らかの理由で、ある時を境に、地球上から姿を消した、と?」
コトシロがゆっくりと頷いた。
「約千年前のお話です。場所は知らされておりません。おそらく衛星軌道より上の、どこかに、新しい居住区を作り、移り住んだものと思われます」
上を見上げる仁。スペースコロニーか、他の惑星へ移住したのだろうか?
移住した理由はなんだろう? 戦争か、昨今流行の環境破壊か。
陸地がアルフレイだけになったのも、なんか理由になってるのだろうか?
「そして、そのどこからか、人間達が『ビフレストの橋』という転送技術を使って、地上へやってくる、と?」
ゆっくりと頷くコトシロ。
「マスター達は、ビフレスト・ポートと呼ばれる施設内に降りてくる、ビフレスト・ポットで行き来していました。最繁期は六百四十機あったビフレスト・ポットでしたが、故障や劣化が進み、現在はたった一機。それも故障するのは時間の問題」
コトシロの目がこちらからは見えないので、何を思っているのか、いまいちわからない。
「なぜか人間、……もとい、マスター達が来なくなって二百年が過ぎたと?」
何かが起こったな!
「正確には三百年で一人だけ。とても悲しい瞳をしたマスターであったと伝承にあります」
コトシロが、バイザーの内側に写っているであろう情報を読み取っていた。
「本物の『ビフレストの橋』はエレベーターサイズ。御降臨される場所も決まっております。山一つが破砕されるような危険なシステムではありません。ジン様が巻き込まれたという超常現象が引き金となって、いわば『亜ビフレストの橋現象』が起こったものと推測されます」
ま、そのあたりは納得できる。つーか、体感したし、死にそうになったし。
「で、もう一度超常現象が起こる可能性が高いから、その時は元の世界へ帰れる、と?」
そこが一番大事。大事だからもう一度言う。
そこが一番大事!
この話をさっき聞いたから、ここまで冷静でいられたのだ。
素の表情で――目はバイザーで見えないが――頷くコトシロ。下の表情は、おそらく柔和なもののはず。
「我々はジン様の世界まで、ピンポイントでビフレストの橋をかける手段を持ち合わせておりません。しかし――」
細い顎を引き、口元を引き締めるコトシロ。
「エネルギーバランスを戻すため、同じ現象が必ず起こると断言できます。たとえるなら……そうそう、柱時計の振り子が戻ってくる様な。揺れ戻しですね。その時が唯一無二のチャンス」
喜色を顔に浮かべる仁。
「ああ、今よい知らせが入ってきました。中央電算部からの報告です」
バイザー越しに遠くを見るようなコトシロ。
「二回の事象で、亜ビフレストの橋現象発生時のエネルギースペクトルパターンを採取・分析できました。充分観測が可能です。そして我がアルフレイの全観測システムは、総動員体勢に入っております」
――光が見えた。
やればできるじゃないか! 2回更新/日
初期設定ではダッチw……ゲフンゲフン!
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